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積むときも受け取るときも税金を減らす

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小規模企業共済の節税効果|加入条件と受取額シミュレーション

小規模企業共済の節税効果を2段階(加入時の所得控除・受取時の退職所得控除)で解説。月額7万円を20年・30年積み立てた場合の受取額と税負担をシミュレーション。加入条件・元本割れのリスクまで整理します。

中小企業の経営者や個人事業主に「退職金がない」という現実があります。会社員なら当たり前に受け取れる退職金も、自分で事業を切り盛りしてきた経営者には存在しません。引退の日を迎えたとき、手元に残るのは事業の清算資金と日々の貯蓄だけ、というケースは少なくないのです。

小規模企業共済は、この問題に直接答える制度です。独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営し、掛金の全額が所得控除の対象になる点が最大の特徴です。しかし小規模企業共済の節税効果を「加入時だけ」で評価していると、制度の本当のメリットを見落とします。節税は積立期間中と受取時の2段階で機能します。

本記事では、加入条件の判定から、節税効果の2段階構造、受取額シミュレーション、他制度との比較、任意解約時のリスクまでを体系的に整理します。

小規模企業共済とは

小規模企業共済法(昭和40年法律第102号)に基づく共済制度で、1965年に創設されました。小規模な企業の経営者や個人事業主が、廃業・退任時に備えて退職金を積み立てる仕組みです。

制度の基本情報を以下にまとめます。

項目内容
運営独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)
加入対象小規模企業の経営者・個人事業主・共同経営者
掛金月額1,000円〜70,000円(500円刻み)、年間最大84万円
掛金の税務上の扱い全額が小規模企業共済等掛金控除(所得控除)
共済金の受取方法一括(退職所得控除適用)・分割(公的年金等控除適用)・併用
在籍者数(2026年3月時点)約165万人

掛金の全額を所得控除できる制度は珍しく、生命保険料控除のような上限額がない点が他の控除とは異なります。

加入条件の詳細

個人事業主の要件

常時使用する従業員数が以下の基準以内であることが条件です。

業種従業員数の上限
建設業・製造業・運輸業・不動産業・農業等20人以下
商業(卸売業・小売業)・サービス業5人以下

従業員を一人も雇っていないフリーランスや一人親方も加入できます。「常時使用する従業員」には事業主本人・共同経営者・家族従業員(事業専従者)・臨時アルバイトは含みません。パートタイマーについては、1週間あたりの所定労働時間や雇用契約の継続性によって判定が変わるため、判断に迷う場合は中小機構のコールセンター(050-5541-7171)に確認することを勧めます。

法人役員の要件

法人の取締役・監査役等の役員も加入できます。従業員数の基準は個人事業主と同じです。

重要なのは、小規模企業共済は「法人」ではなく「役員個人」が加入する制度という点です。掛金は個人の口座から引き落とされ、個人の所得控除として処理します。法人の損金にはなりません。

共同経営者も加入可能

2016年の法改正により、個人事業主の共同経営者も加入できるようになりました。1つの事業につき最大2人まで加入できます。共同経営者として認められるには、事業の経営に実質的に関与していること(重要な意思決定への参加または事業資金の負担)と、事業主と生計を一にしないことが要件です。

加入できないケース

医療法人・学校法人・社会福祉法人・一般財団法人・NPO法人・外国法人の役員は対象外です。また、会社役員と個人事業主を兼業している場合は、いずれか一方の立場でしか加入できません。

従業員が増えたら加入資格を失う

事業拡大で従業員数が基準を超えた場合、小規模企業共済の加入資格を失います。このとき請求できるのは「準共済金」という区分で、共済金A・Bより受取額が少なくなります。従業員採用を増やす際は、加入資格への影響をあらかじめ確認してください。

節税効果の2段階構造

小規模企業共済の節税効果は、加入から受取までの2つの時点で発生します。この構造こそが、他の積立型商品との最大の差別化ポイントです。

第1段階:積立期間中の所得控除

掛金は所得税法第75条に規定する「小規模企業共済等掛金控除」として全額が所得控除の対象になります。課税所得から掛金を差し引いた金額に対して税率が適用されるため、掛金が多いほど節税額が大きくなります。

所得税の税率は課税所得に応じて5〜45%(超過累進課税)で変わります。これに住民税10%が加わります。

課税所得所得税率所得税+住民税月額7万円時の年間節税額
195万円以下5%15%約12.6万円
195万円超〜330万円以下10%20%約16.8万円
330万円超〜695万円以下20%30%約25.2万円
695万円超〜900万円以下23%33%約27.7万円
900万円超〜1,800万円以下33%43%約36.1万円

課税所得400万円(所得税率20%)の経営者が月額70,000円を積み立てると、年間約25.2万円の節税になります。月額で換算すると約2.1万円が節税として返ってくる計算で、実質的なコストは月約4.9万円に圧縮されます。

第2段階:受取時の退職所得控除

一括で共済金を受け取る場合、税務上は「退職所得」として扱われます。退職所得には2つの優遇措置が重なっています。

退職所得控除額の計算式:

  • 納付年数20年以下: 40万円 × 納付年数(最低80万円)
  • 納付年数20年超: 800万円 + 70万円 ×(納付年数 − 20年)

さらに退職所得の課税対象は、控除後の金額を2分の1にした金額です。つまり、実際の受取額から控除額を引いて、さらに半分にした金額にしか税金がかかりません。

この2重の優遇(控除+2分の1)が、小規模企業共済の受取時の税負担を大幅に軽くします。

分割受取の場合は公的年金等控除

共済金を10年または15年の分割で受け取る場合、税務上は「公的年金等の雑所得」として扱われます。65歳以上なら公的年金等控除(年金収入330万円以下の場合110万円)が適用されます。他の年金収入が少ない方ほど分割受取の税制メリットが大きくなります。

節税シミュレーション:所得税率20%の経営者が月額7万円を積み立てた場合

課税所得が330万円超〜695万円以下(所得税率20%、住民税10%、合算税率30%)の経営者を例に試算します。

前提条件

  • 掛金月額: 70,000円
  • 年間掛金: 840,000円
  • 合算税率: 30%(所得税20% + 住民税10%)
  • 受取事由: 廃業時の共済金A(最も有利な区分)
  • 受取方法: 一括受取

20年間積み立てた場合

項目金額・内容
掛金総額840,000円 × 20年 = 16,800,000円
共済金A(受取額の概算)約18,750,000円
付加共済金による上乗せ約1,950,000円
積立期間中の合計節税額840,000円 × 30% × 20年 = 約5,040,000円
退職所得控除額40万円 × 20年 = 8,000,000円
課税退職所得(18,750,000 − 8,000,000)× 1/2 = 5,375,000円
受取時の税負担(概算)約5,375,000円 × 30% = 約1,613,000円
税引後の実質手取り約18,750,000 − 1,613,000 = 約17,137,000円

積立期間中の節税額(約504万円)と受取後の手取り(約1,714万円)を合わせると、経済的なメリットは明確です。自力で月7万円を20年間貯蓄した場合の元本1,680万円と比べても、節税分が上乗せされる形になります。

30年間積み立てた場合

項目金額・内容
掛金総額840,000円 × 30年 = 25,200,000円
共済金A(受取額の概算)約29,540,000円
付加共済金による上乗せ約4,340,000円
積立期間中の合計節税額840,000円 × 30% × 30年 = 約7,560,000円
退職所得控除額800万円 + 70万円 ×(30年 − 20年)= 15,000,000円
課税退職所得(29,540,000 − 15,000,000)× 1/2 = 7,270,000円
受取時の税負担(概算)約7,270,000円 × 30% = 約2,181,000円
税引後の実質手取り約29,540,000 − 2,181,000 = 約27,359,000円

30年積み立てると付加共済金だけで約434万円の上乗せです。受取時の税負担は約218万円ですが、積立期間中の節税額(約756万円)と合わせると、総合的な経済メリットは数字で確認できる水準になります。

課税所得が高いほどシミュレーションの結果は変わる

所得税率が33%(課税所得900万円超〜1,800万円以下)の場合、合算税率は43%になります。同じ月額7万円・30年でも積立期間中の節税額は約756万円ではなく約1,082万円になります。課税所得の水準によって節税効果は大きく変わるため、自社の状況に合わせて試算することを勧めます。

受取額の計算の仕組み

共済金の受取額は「基本共済金」と「付加共済金」の合計で決まります。

基本共済金は、掛金月額・納付月数・受取事由の区分に応じて中小機構が定めた金額表をもとに算出されます。受取事由によって倍率が異なり、共済金Aが最も高く設定されています。

付加共済金は毎年度の運用収入に基づいて経済産業大臣が定める利率で計算されます。運用環境によって変動するため、将来の受取額はあくまで概算として扱ってください。

受取事由と受取額の関係

共済金は受取事由によって4つの区分があります。

区分該当する主な事由水準
共済金A個人事業の廃業、法人の解散・退任、契約者の死亡最も高い
共済金B65歳以上かつ15年以上納付による老齢給付、疾病・負傷による退任共済金Aに次ぐ
準共済金法人成りして加入資格喪失、個人事業の全部を譲渡掛金相当額+小額の付加共済金
解約手当金任意解約、12ヶ月以上の掛金未納による解除最も低い(20年未満は元本割れ)

掛金月額70,000円を各期間積み立てた場合の受取額の目安(共済金A):

納付年数掛金総額共済金A(概算)共済金B(概算)解約手当金(概算)
5年420万円約432万円約425万円約378万円
10年840万円約885万円約866万円約798万円
20年1,680万円約1,875万円約1,818万円約1,680万円
30年2,520万円約2,954万円約2,837万円約2,545万円

解約手当金は20年の納付でようやく掛金総額と同水準に到達します。任意解約の場合は受取額が目減りするため、長期継続を前提に加入することが重要です。

任意解約時の元本割れに注意

任意解約した場合に受け取れる「解約手当金」は、納付月数によって掛金総額に対する割合が変わります。

納付月数解約手当金の水準
12ヶ月未満ゼロ(全額没収)
12〜23ヶ月掛金総額の約80%
36〜47ヶ月掛金総額の約85%
60ヶ月以上掛金総額の約90%
240ヶ月(20年)以上掛金総額の100%以上

12ヶ月未満で解約すると積み立てた掛金が全額戻りません。節税の恩恵を受けながら掛金が戻らないという最悪のケースを避けるためにも、「3〜5年以内に解約する可能性がある」なら最初から加入を見送るべきです。

掛止めという選択肢

資金繰りが厳しくなって掛金の支払いが難しくなった場合、任意解約の前に「掛止め」を検討してください。掛止めとは掛金の払込を一時停止する手続きで、解約とは異なり積み立てた資産は保全されます。資金繰りが回復した段階で掛金の払込を再開できます。中小機構に申請するだけで手続きできます。

他制度との比較

小規模企業共済と似た目的を持つ制度として、iDeCo(個人型確定拠出年金)と中退共(中小企業退職金共済)があります。それぞれの特徴を整理します。

iDeCoとの比較

比較項目小規模企業共済iDeCo(自営業者)
掛金上限月額70,000円(年84万円)月額68,000円(年81.6万円)
掛金の税制優遇所得控除(全額)所得控除(全額)
運用の有無中小機構による固定運用加入者が運用商品を選択
受取開始時期廃業・退任時(年齢不問)原則60歳以降
受取時の優遇退職所得控除または公的年金等控除退職所得控除(一時金)または公的年金等控除(年金)
途中引き出し任意解約可能(元本割れあり)原則60歳まで不可

最大の違いは「いつ受け取れるか」です。小規模企業共済は廃業・退任という事由があれば年齢を問わず受け取れますが、iDeCoは60歳になるまで引き出せません。40代で廃業や事業譲渡をするシナリオも想定するなら、小規模企業共済のほうが柔軟性があります。

一方、iDeCoは運用商品を自分で選べるため、運用次第では掛金総額を大きく超える資産形成も可能です。二制度を組み合わせることで、所得控除は年間最大165.6万円(84万円+81.6万円)に拡大します。

中退共との比較

中退共(中小企業退職金共済)は、経営者本人ではなく「従業員」の退職金を積み立てる制度です。掛金は全額が法人の損金(個人事業主の場合は必要経費)になりますが、加入者は従業員であり、経営者自身は加入できません。

小規模企業共済と中退共は対象が異なるため競合ではなく補完の関係です。従業員の退職金制度として中退共を導入しつつ、経営者自身の退職金として小規模企業共済を活用するという組み合わせが多く見られます。

経営セーフティ共済との併用

経営セーフティ共済(倒産防止共済)は、取引先の倒産による連鎖倒産に備える制度で、掛金は法人の損金(個人事業主の場合は必要経費)になります。受取時には全額が益金(または事業収入)となるため、課税の繰り延べ的な性格が強い制度です。

小規模企業共済は「経営者個人の退職金」、経営セーフティ共済は「事業の連鎖倒産リスクへの備え」と役割が異なります。両方を活用することで、法人としての損金算入と個人としての所得控除の両面から節税を設計できます。

加入手続きと必要書類

加入の申込み先は、商工会議所・商工会・金融機関(銀行・信用金庫・信用組合等)の窓口です。インターネットからの加入は現時点では対応していません。

必要書類:

  • 加入申込書
  • 事業実態の確認書類(個人事業主は開業届の控え、法人役員は登記簿謄本)
  • 従業員数の確認書類(賃金台帳・雇用保険の被保険者名簿等)

手続き自体は難しくなく、窓口での相談も可能です。掛金の引落口座は申込時に指定します。

1

加入条件を確認する

従業員数が基準以内かどうか確認します。商業・サービス業は5人以下、それ以外は20人以下が条件です。兼業の場合はどちらの立場で加入するかを決めます。

2

掛金月額を決める

月額1,000円から70,000円の範囲で設定します。増額は随時可能ですが、減額には一定の事由が必要です。資金繰りに余裕がある金額から始め、利益が安定したら増額するのが現実的です。

3

商工会議所または金融機関の窓口で申し込む

申込書と必要書類を持参します。掛金の引落口座(個人口座)を指定します。法人役員の場合、掛金は法人口座ではなく個人口座から引き落とされます。

4

確定申告で所得控除を反映する

毎年11月下旬に中小機構から「小規模企業共済等掛金払込証明書」が送付されます。確定申告の際に添付して所得控除を申告します。年末調整では控除できないため、個人事業主・役員ともに確定申告が必要です。

まとめ

小規模企業共済 節税効果と受取額の要点

  • 節税は積立期間と受取時の2段階で機能する。掛金全額が所得控除として課税所得を下げ、受取時には退職所得控除(最大で30年積立なら1,500万円)が適用される
  • 所得税率20%の経営者が月額7万円を20年積み立てた場合、積立期間中の節税額は合計約504万円。受取額の概算は共済金Aで約1,875万円、税負担は約161万円で手取り約1,714万円
  • 30年積み立てると受取額は約2,954万円、付加共済金の上乗せは約434万円。積立期間中の節税額は約756万円で、制度の長期活用メリットが明確になる
  • 任意解約は240ヶ月(20年)未満で元本割れ。12ヶ月未満ではゼロになる。短期解約の可能性があるなら最初から加入しない判断も必要
  • iDeCoとの組み合わせで年間最大165.6万円の所得控除が可能。経営セーフティ共済との併用では法人の損金算入と個人の所得控除を両立できる

小規模企業共済は、積み立てながら節税し、受け取るときにも税制優遇を受けられる仕組みが一体化した制度です。加入のハードルは低く、月額1,000円から始めることができます。

制度の詳細な仕組みについては小規模企業共済 総合ガイドも参照してください。経営セーフティ共済とどちらを優先するか迷っている場合は2つの共済の比較記事が参考になります。

掛金の設定や受取方法の選択など、具体的なシミュレーションのご相談は無料相談からお問い合わせください。

よくある質問

Q. 小規模企業共済の掛金はどれくらい節税になりますか?
A. 掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除の対象になります。月額70,000円(年間84万円)を支払う場合、課税所得330万〜695万円(所得税率20%)の経営者なら年間約25万円の節税効果があります。課税所得が高いほど節税額も大きくなります。
Q. 小規模企業共済の受取額はいくらになりますか?
A. 掛金月額と積立年数によって異なります。月額70,000円を20年間納付した場合、廃業時の共済金A(最も有利な区分)として約1,875万円を受け取れます。30年なら約2,954万円です。掛金総額に対して付加共済金が上乗せされる仕組みで、長く続けるほど受取額が増えます。
Q. 受取時の税負担はどのくらいですか?
A. 一括受取の場合、退職所得控除が適用されます。月額7万円を30年積み立てて約2,954万円を受け取る場合、退職所得控除1,500万円を引いた残りをさらに2分の1にした約727万円が課税対象になります。税負担は概算で約146万円です。積立期間中に受けた所得控除の恩恵が実質的な節税として機能します。
Q. 任意解約すると損をしますか?
A. 掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満の任意解約は元本割れします。12ヶ月未満だと解約手当金はゼロです。12〜23ヶ月では掛金総額の約80%、60ヶ月以上で約90%と段階的に上がり、240ヶ月以上でようやく100%に到達します。短期で解約する可能性があるなら加入自体を慎重に検討してください。
Q. 法人の役員でも加入できますか?
A. 常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の法人役員であれば加入できます。医療法人・学校法人・社会福祉法人・NPO法人の役員は対象外です。掛金は法人口座ではなく代表者個人の口座から引き落とされ、個人の所得控除として機能します。

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