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任意なのに、断れない理由

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税務調査の任意調査と強制調査の違いとは

税務調査には「任意調査」と「強制調査(査察)」の2種類があります。それぞれの法的根拠・進め方・受忍義務・拒否した場合の罰則まで、中小企業経営者が知るべき違いを実務的に解説します。

税務調査」と聞けば、多くの経営者は「強制的に帳簿を調べられる」ものと受け止めます。しかし実際のところ、中小企業が経験する税務調査の大半は「任意調査」と呼ばれるものです。問題は、「任意」という言葉が「断れる」という意味ではない点です。この誤解が、調査への対応ミスにつながることがあります。

本記事では、税務調査の2種類——任意調査と強制調査——の違いを法的根拠から整理し、「任意なのに断れない」理由、拒否した場合に起きること、そして強制調査(査察)がどのような事案に適用されるかを解説します。

税務調査は大きく2種類に分かれる

税務調査には「任意調査」と「強制調査」の2種類があります。両者は法的根拠も対象となる事案も異なり、同じ「税務調査」という言葉でくくられていますが、その性質は大きく違います。

区分任意調査強制調査(査察)
根拠法令国税通則法第74条の2国税犯則取締法
担当税務署・国税局調査部国税局査察部(マルサ)
令状不要裁判所の令状が必要
対象申告内容の正確性確認悪質な脱税事案(刑事告発前提)
結果修正申告・追徴課税が中心刑事裁判・懲役・罰金
年間件数数十万件200件前後

「任意」「強制」という言葉の印象から「任意調査は断れる」と思いがちですが、そうではありません。この点については次のセクションで詳しく解説します。

任意調査とは何か——国税通則法第74条の2

質問検査権とその根拠

任意調査は、国税通則法第74条の2に定められた「質問検査権」に基づいて行われます。税務職員は、申告内容の正確性を確認するため、納税者やその取引先に対して質問し、帳簿書類その他の物件を検査し、当該物件の提示・提出を求めることができます。

「任意」という表現は、調査官が令状なしに執行できることを指すのであって、納税者側が任意に応じるかどうかを選べるという意味ではありません。法律上は「受忍義務」が課されており、正当な理由のない拒否は罰則の対象になります。

受忍義務とは

税務調査における受忍義務とは、納税者が税務調査を受け入れなければならない法的義務のことです。国税通則法第74条の2の質問検査権の行使に対し、納税者はこれを受け入れる義務を負います。受忍義務は任意調査のみに課されるものであり、任意調査が「任意」でも「拒否可能」でもない根拠となっています。

拒否した場合の罰則

任意調査を正当な理由なく拒否した場合、国税通則法第128条により罰則が適用されます。具体的には、1年以下の懲役または50万円以下の罰金です。同条は以下の行為を罰則対象として定めています。

  • 税務職員の質問に対して虚偽の陳述をした場合
  • 帳簿書類その他の物件の検査を拒み、妨げ、または忌避した場合
  • 帳簿書類の提示・提出を求められたにもかかわらず、これを拒んだ場合

「断った」「無視した」という行為だけで刑事罰の可能性が生じます。「任意だから断れるはず」という判断は、法的に誤りです。

事前通知と無予告調査

任意調査には、事前に通知が行われる場合と通知なしで開始される場合があります。

通常の実地調査では、国税通則法第74条の9に基づき、調査の開始日時・場所・対象税目・対象期間などが事前に通知されます。一方、国税通則法第74条の10では、事前に通知することで調査の目的を達成できないと認められる場合は、通知なしで調査を開始できると定められています。いわゆる「抜き打ち調査(無予告調査)」です。

無予告調査は任意調査の一形態であり、強制調査ではありません。突然の来訪であっても、受忍義務は変わらず生じます。ただし、準備の時間が必要な場合は、調査の開始を短時間待ってもらうよう申し出ることは可能です。

強制調査(査察)とは何か——国税犯則取締法

査察調査の位置づけ

強制調査は、国税犯則取締法(2018年の法改正前は「犯則取締法」)に基づいて行われます。担当するのは国税局の査察部門、通称「マルサ」です。

査察調査は、脱税を刑事事件として告発することを目的とした捜査活動です。裁判所が発行する令状を取得したうえで、事業所や自宅への立ち入り、帳簿・パソコン・現金などの強制的な押収が行われます。調査を拒否することはできず、拒否した場合は公務執行妨害などの刑事責任を問われます。

強制調査は刑事手続きへの入口

強制調査を受けた段階で、すでに「刑事告発の可能性がある事案」と認定されています。査察調査の後、検察庁に告発された場合は刑事裁判に移行し、有罪になれば懲役刑(実刑または執行猶予)や罰金刑が科されます。修正申告で済む話ではなくなります。

査察調査の対象となる事案

査察調査は年間200件前後しか行われません。対象となるのは、次のような要件を満たすとされる悪質な脱税事案です。

  • 脱税額が数千万円〜数億円規模
  • 二重帳簿・架空経費・隠し口座など意図的な不正工作がある
  • 反省・是正の見込みがなく、修正申告での解決が困難
  • 社会的に問題視される業種・規模感

中小企業の申告内容の確認を目的とした一般的な税務調査とは、対象も手続きも根本的に異なります。「マルサが来た」という状況は、経営者にとって事業の存続に関わる重大な局面です。

任意調査との手続き上の違い

査察調査では、調査官は令状をもって行動します。令状には「捜索すべき場所」「押収すべき物」が明記されており、令状の範囲内であれば本人の同意なく立ち入り・押収が可能です。

一方の任意調査では、令状はなく、調査官は帳簿書類の「提示・提出」を求める権限しか持ちません。強制的に物を持ち去ることはできず、任意の提示・提出が前提です(ただし、前述のとおり拒否は罰則対象です)。

任意調査の流れ——中小企業が経験する一般的なケース

中小企業が受ける税務調査は、ほぼすべてが任意調査です。具体的な流れを理解しておくと、調査通知が来た際に冷静に対応できます。

1

事前通知の受領

税務署から「〇月〇日に調査に伺いたい」と電話で連絡が来ます。調査担当者の氏名・所属・対象税目・対象期間などを確認します。この時点で顧問税理士に連絡し、立会いを依頼してください。

2

日程の調整

合理的な理由があれば調査日の変更を求めることができます(国税通則法第74条の9)。準備期間が必要な場合や税理士のスケジュール調整が必要な場合は遠慮なく申し出てください。ただし、正当な理由のない無制限の延期は認められません。

3

事前準備

帳簿書類・証憑(請求書・領収書・契約書等)の整備を行います。調査対象期間の総勘定元帳・仕訳帳・現金出納帳・預金通帳が中心です。顧問税理士と事前打ち合わせを行い、指摘を受けやすい項目を把握しておきます。

4

調査当日の対応

調査官は帳簿書類の確認と経営者・担当者への質問を行います。税理士が立会いする場合は、税理士が窓口となって対応します。その場で即答が難しい質問は「確認してから回答します」と伝えて問題ありません。

5

調査結果の確認と終結

調査官から指摘事項が示されます。指摘に納得できる場合は修正申告、納得できない場合は更正処分を受けたうえで不服申立て(再調査の請求・審査請求)を行うことができます。修正申告は義務ではなく任意です。

調査の終結に際しては、税務署から「調査終了の通知書」が交付されます。この通知書が届くまでは、調査が継続中であることを意識しておいてください。

詳細な事前準備については税務調査の準備チェックリストで整理しています。

任意調査でよくある誤解と正しい理解

「任意調査は断れる」は誤り

前述のとおり、任意調査の「任意」は令状が不要であることを示すものであり、納税者の同意を条件とするものではありません。「任意だから断る権利がある」という解釈は、国税通則法上の誤読です。

この誤解が生まれる背景には、行政法における「任意調査」の用語が「強制力を伴わない」という意味で使われることがあります。税務調査の文脈でいえば、「令状をもった強制執行ではない」という意味での「任意」です。しかし受忍義務と罰則規定によって、実質的な強制力は担保されています。

「調査官のすべての質問に即答しなければならない」も誤り

一方で、調査官のすべての質問にその場で回答する義務はありません。「記録を確認してから回答します」「税理士に相談してから答えます」という対応は適切です。

問題になるのは、質問に対して虚偽の陳述をすることや、資料の提示・提出を正当な理由なく拒むことです。「わからない」「確認が必要」という回答は虚偽ではなく、罰則の対象にはなりません。

調査官の言葉を過信しない

任意調査では「帳簿を貸してほしい」「コピーしてもいいか」など、令状の範囲を超えた協力を求められることがあります。任意調査の調査官には物の押収権限はありません。不審な要求があれば、税理士の立会い前に拒否することができます。

「修正申告は断れない」も誤り

調査の結果、税務署から修正申告を求められた場合でも、修正申告は納税者の任意です。納得できない指摘については修正申告を拒否し、税務署が更正処分を行った後に不服申立てをする権利があります。

修正申告と更正処分・不服申立ての違いについては税務調査で修正申告を断ることはできる?で詳しく解説しています。

強制調査に備えるための視点

強制調査の対象になる中小企業は全体のごく一部です。ただし、「絶対に対象にならない」と言い切ることもできません。不正申告の意図がない場合でも、調査の対象となる可能性はゼロではありません。以下の観点から、日常的な記録管理を整えておくことが、いざというときの対応力に直結します。

帳簿・証憑の完全な保存は、任意調査・強制調査どちらにも対応する基礎です。電子帳簿保存法に対応した正規の電子保存を行っていれば、調査時の提示が容易になります。また、関連会社・役員との取引は適正な価格・条件で行われていることを証明できる契約書・議事録を整備しておくことが重要です。

税務調査を受けた際の対応については、税務調査の対応方法で包括的に解説しています。

税理士への立会い依頼が有効な理由

任意調査と強制調査のどちらであっても、専門家への相談は早いほどよいです。特に任意調査では、税理士の立会いが認められており、税理士は税務代理人として調査官との対応を引き受けることができます(税理士法第2条)。

税理士なしで調査官の質問に対応しようとすると、不必要な情報を提供したり、指摘事項に対して適切な反論ができなかったりするリスクがあります。立会い税理士の選び方や費用相場については税務調査の立会いは誰に頼む?を参考にしてください。

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任意調査と強制調査の違い:まとめ

  • 任意調査は国税通則法第74条の2に基づく行政手続きで、中小企業が受ける調査のほぼすべてがこれにあたる
  • 「任意」とは令状が不要という意味であり、納税者に断る権利があるわけではない。受忍義務に基づき、拒否は1年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象
  • 強制調査(査察)は国税犯則取締法に基づき、国税局査察部が令状をもって行う。刑事告発・刑事裁判への移行を前提とした手続きで、年間200件前後のみ実施
  • 調査官の質問に即答する義務はないが、虚偽陳述・資料提示拒否は罰則対象
  • 調査通知を受けたら、まず顧問税理士に連絡し、立会いを依頼することが最優先

税務調査は適正な申告を行っている企業にとって過度に恐れるものではありませんが、法的な仕組みを正しく理解したうえで対応することが求められます。特に「任意調査は断れる」という誤解は、適切な対応機会を失わせるリスクがあります。調査通知を受けた際は、早い段階で専門家へ相談してください。

よくある質問

Q. 任意調査は断ることができますか?
A. 「任意」と呼ばれますが、断ることはできません。国税通則法第74条の2に基づく質問検査権の行使であり、正当な理由なく拒否すると1年以下の懲役または50万円以下の罰金の対象となります(国税通則法第128条)。
Q. 強制調査(査察)はどのような場合に行われますか?
A. 脱税額が数千万円以上に及ぶ悪質な事案で、刑事告発を前提とした調査が行われる際に実施されます。国税局査察部(いわゆる「マルサ」)が裁判所の令状を取得し、強制的に家宅捜索・資料押収を行います。年間200件前後の実施件数です。
Q. 任意調査と強制調査の最大の違いは何ですか?
A. 最大の違いは「刑事事件を前提とするかどうか」です。任意調査は行政手続きであり、税額の修正・追徴課税で終わることが大半です。強制調査は刑事裁判への移行を前提とし、有罪になると懲役や罰金が科されます。
Q. 無予告調査(抜き打ち調査)は任意調査ですか?
A. はい、無予告調査も任意調査の一形態です。国税通則法第74条の10で、事前通知をすると調査の目的を達成できないと認められる場合には、通知なしで調査を開始できると定められています。
Q. 任意調査で調査官の質問に黙秘することはできますか?
A. できません。国税通則法第74条の2に基づく質問検査権の行使に対し、虚偽の答弁や黙秘は罰則の対象です。ただし「わからない」「記録を確認してから回答する」と伝えることは問題ありません。その場での即答を強要された場合は、税理士への相談を申し出てください。

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