最適な資金調達手法を選ぶ
ABLとファクタリングの違い|資金調達の比較
ABL(動産担保融資)とファクタリングの違いを解説。仕組み、コスト、審査基準、利用条件の比較を通じて、中小企業に適した資金調達方法の選び方をまとめました。
売掛金3,000万円を抱える製造業のA社。不動産を持たないため銀行融資の枠が限られ、月末の仕入れ資金が500万円足りない――こうしたケースでABL(動産担保融資)とファクタリングのどちらを選ぶかによって、年間コストに100万円以上の差が出ることがあります。
どちらも売掛金を活用する点では共通していますが、取引の法的性質、コスト構造、審査の仕組みはまったく異なります。本記事では、ABLとファクタリングを多角的に比較し、自社に適した資金調達手段を判断するための具体的な指針を示します。
ABL(動産担保融資)の概要
ABLの仕組み
ABLとは、売掛金、在庫、機械設備などの動産や債権を担保にして金融機関から融資を受ける仕組みです。2005年の動産譲渡登記制度の創設(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律)以降、日本でも徐々に普及が進んでいます。
不動産担保融資との違いは、担保となる資産が流動的である点です。売掛金や在庫は日々変動するため、ABLでは担保資産の評価と管理を継続的に行う仕組み(モニタリング)が組み込まれています。担保資産の評価額に一定の掛目(通常50%から80%程度)を乗じた金額が融資枠として設定されます。
ABLの利用条件
ABLを提供するのは主に銀行、信用金庫、政府系金融機関です。利用にあたっては、通常の融資審査に加え、担保資産の評価が行われます。在庫を担保にする場合は在庫管理の体制が整っていることが求められ、売掛金を担保にする場合は売掛先の信用力と取引の継続性が評価されます。
ABLの金利は年率2%から8%程度で、信用保証協会付き融資と比べるとやや高いものの、融資としてのコスト水準に収まります。契約にあたっては動産譲渡登記が必要となり、登記費用として数万円が発生します。
ファクタリングの概要
ファクタリングの仕組み
ファクタリングは、売掛金(売掛債権)をファクタリング会社に譲渡し、手数料を差し引いた金額を受け取る仕組みです。融資ではなく債権の売買契約(民法第466条に基づく債権譲渡)であるため、利用企業に返済義務はありません(ノンリコース方式の場合)。
2社間ファクタリングでは売掛先に通知せず利用でき、3社間ファクタリングでは売掛先の承諾を得て直接回収する形をとります。手数料は2社間方式で売掛金額面の5%から15%程度、3社間方式で1%から5%程度が相場です。
ABLとファクタリングの比較
法的性質の違い
ABLは融資であり、金銭消費貸借契約に基づく取引です。借入金として貸借対照表の負債に計上され、返済義務を伴います。一方、ファクタリングは売掛金の売買(債権譲渡契約)であり、売却代金として処理されます。負債として計上されないため、負債比率やバランスシートの見た目に影響を与えない点が特徴です。
コストの比較
ABLの金利は年率2%から8%程度であるのに対し、ファクタリングの手数料は1回あたり2%から15%程度です。支払サイト30日の売掛金を月1回ファクタリングに出す場合、年率換算では24%から180%相当の負担になります。純粋なコスト比較ではABLが大幅に有利です。
しかし、ファクタリングには返済義務がないこと、負債として計上されないこと、銀行融資の審査に通らない企業でも利用できることなど、コスト以外のメリットがあります。
具体的なコスト試算
ここで、月商3,000万円・売掛サイト30日の企業が毎月500万円を調達する場合のコストを試算します。
ABLの場合(年利5%):融資残高500万円に対して年間の利息負担は500万円 x 5% = 25万円です。
ファクタリングの場合(2社間・手数料8%/回):毎月500万円を売却すると、1回あたりの手数料は500万円 x 8% = 40万円。これを年間12回繰り返すと、40万円 x 12回 = 480万円の負担となります。
両者の差額は年間455万円です。月500万円規模の利用でもこれだけの差が出るため、継続的な資金調達にファクタリングを使い続けることがいかに高コストかがわかります。ファクタリングは「一時的なつなぎ資金」として割り切り、恒常的な資金繰りにはABLや通常融資への切り替えを検討すべきです。ファクタリングの基本的な仕組みや選び方については、「ファクタリング」カテゴリページで体系的にまとめています。
審査基準の違い
ABLは融資であるため、自社の返済能力が審査の中心です。決算内容、キャッシュフロー、事業計画が評価対象となり、赤字企業や創業直後の企業は審査が厳しくなります。
ファクタリングの審査は売掛先の信用力が最も重視されます。自社が赤字や債務超過であっても、売掛先が上場企業や官公庁であれば審査を通過できる可能性が高い点が異なります。
利用の柔軟性
ABLは融資枠(コミットメントライン)として設定されるため、枠内で必要な金額を随時引き出せる柔軟性があります。一方、ファクタリングは個別の売掛金を対象とするスポット取引が基本であり、売掛金の存在しないタイミングでは利用できません。
どちらを選ぶべきか
次の判断フローを参考に、自社に適した手段を見極めてください。
ステップ1:銀行融資(プロパー・保証協会付き)の審査に通るか。通る場合は、まず通常の銀行融資を優先してください。ABLやファクタリングはその補完手段です。
ステップ2:決算が黒字で、在庫や売掛金が安定的に発生しているか。該当する場合はABLが適しています。年率2%から8%の低コストで、融資枠内から必要額を随時引き出せるため、製造業・卸売業・小売業など在庫を持つ業種と特に相性が良い手段です。
ステップ3:赤字・債務超過・創業直後で銀行融資やABLの審査が通らないか。該当する場合はファクタリングを検討してください。売掛先の信用力が審査の中心であるため、自社の財務状況にかかわらず利用できる可能性があります。ただし、手数料の高さを踏まえ、あくまで一時的な資金繰り対策に限定し、並行してABLや通常融資に移行する準備を進めることが重要です。
ステップ4:資金化のスピードが最優先か。入金までに1から2週間かかるABLに対し、ファクタリングは最短即日で資金化が可能です。月末の支払いに間に合わないなど緊急性が高い場合は、コストを承知のうえでファクタリングを選択する合理性があります。
ABLが適しているケース
銀行融資の補完として長期的・継続的に利用したい場合はABLが適しています。在庫や売掛金が安定的に発生する事業構造を持つ企業で、コスト重視の資金調達を行いたい場合に有効です。
ファクタリングが適しているケース
銀行融資やABLの審査に通らない場合、あるいは急ぎの資金ニーズに対応する必要がある場合はファクタリングが有効です。最短即日で資金化できるスピードと、自社の財務状況に依存しない審査基準は、資金繰りの緊急対応として大きな利点です。ただし、手数料の高さを考慮し、あくまで一時的な利用にとどめることが原則です。
まとめ
要点
- ABLは融資として低コストで継続利用に向き、ファクタリングは債権売買として審査ハードルが低くスピードに優れる
- 継続利用ではコスト差が年間数百万円に達することもあるため、手段の選択は年率換算のコストで比較する
- 自社の売掛金・在庫の一覧を作成し、メインバンクにABLの取り扱い可否を確認することが最初のステップ
ABLは融資として低コストで継続利用に向き、ファクタリングは債権売買として審査ハードルが低くスピードに優れます。先述の試算のとおり、継続利用ではコスト差が年間数百万円に達することもあるため、手段の選択は慎重に行ってください。売掛金を中心としたバランスシートの改善を進める場合は、BS改善の解説ページも参考にしてください。
今週取り組むべきアクションとして、まず自社の売掛金・在庫の一覧を作成してください。直近3ヶ月の売掛金残高、主要売掛先、在庫評価額を整理することが、ABLの担保評価に必要な基礎資料になります。
次に、メインバンクにABLの取り扱い可否を確認します。すでに取引のある金融機関であれば、相談のハードルは低いはずです。ABLの取り扱いがない場合は、政府系金融機関(日本政策金融公庫や商工中金)への相談も視野に入れてください。
ファクタリングを利用中であれば、年間コストの算出も行いましょう。本記事の試算例を参考に、現在の手数料負担を年率換算で把握してください。年率20%を超えている場合は、ABLや通常融資への切り替えを優先的に検討すべきです。資金調達や財務改善について専門家に相談したい場合は、無料相談窓口をご利用ください。
よくある質問
- Q. ABLとファクタリングの最大の違いは何ですか?
- A. 最大の違いは取引の法的性質です。ABLは動産や債権を担保にした「融資」であり、借り手に返済義務があります。ファクタリングは売掛金の「売買(譲渡)」であり、原則として返済義務はありません(ノンリコースの場合)。ABLは負債として貸借対照表に計上されますが、ファクタリングは資産の売却として処理されるため、負債比率に影響しません。
- Q. ABLの金利はどのくらいですか?
- A. ABLの金利は年率2%〜8%程度が一般的です。銀行融資の信用保証協会付き融資(年率1%〜3%程度)と比べるとやや高めですが、ファクタリングの手数料(年率換算で30%〜100%以上になることもある)と比較すると大幅に低コストです。
- Q. ABLとファクタリングを併用することはできますか?
- A. 可能ですが、注意が必要です。ABLで売掛金を担保に差し入れている場合、同じ売掛金をファクタリングで譲渡すると担保権の侵害に該当する恐れがあります。併用する場合は、ABLの担保に入っていない売掛金をファクタリングの対象にするなど、担保対象の管理を厳密に行う必要があります。
- Q. ABLの導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
- A. 初回のABL契約には通常1ヶ月から3ヶ月程度かかります。担保資産の評価(デューデリジェンス)、動産譲渡登記の手続き、モニタリング体制の構築などが必要なためです。ファクタリングが最短即日で資金化できるのに対し、ABLは導入に時間を要する点がデメリットです。