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EC後払いのリスクを管理する

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EC・通販の未収金対策|後払い決済のリスク管理

EC・通販事業で発生する後払い決済の未回収・チャージバック・代引き受取拒否について、回収手順とリスク管理策を解説。中小EC事業者向けの実務ガイド。

EC・通販事業では、商品の発送と代金回収のタイミングにずれが生じやすく、未収金リスクが構造的に存在します。特に後払い決済の普及に伴い、「商品は届いたが代金を支払わない」という未回収問題が拡大しています。

経済産業省の調査によると、日本のBtoC-EC市場規模は拡大を続けていますが、それに伴い後払い決済の未払い率も一定水準で推移しています。中小のEC事業者にとっては、1件の未回収が利益率を直接圧迫するため、リスク管理の仕組みが不可欠です。

本記事では、EC・通販事業で発生する未収金の類型と、実務的な回収手順・予防策を解説します。

EC・通販で発生する未収金の類型

後払い決済の未回収

後払い決済は、購入者にとって「届いてから払える」安心感があるため、EC事業者のコンバージョン率向上に貢献する決済手段です。一方で、代金未払いのリスクを内在しています。

後払い決済には大きく2つの運用形態があります。

決済代行会社利用型:NP後払い、atone、Paidyなどの決済代行サービスを利用する形態です。保証型サービスであれば、未回収リスクは決済代行会社が負担するため、EC事業者の未収金リスクは限定的です。ただし、手数料率は決済金額の2~5%程度かかるほか、不正利用や規約違反の取引は保証対象外となる場合があります。

自社運営型:EC事業者が独自に請求書を同封し、コンビニ払い・銀行振込で回収する方式です。決済手数料がかからない反面、未回収リスクは全額自社で負担します。未払い率は商材や顧客層によって異なりますが、3~10%程度とされています。

クレジットカードのチャージバック

チャージバックとは、カード利用者が「身に覚えのない請求」としてカード会社に異議を申し立て、加盟店への支払いが取り消される仕組みです。不正利用されたカード番号での購入や、商品未着を理由とするチャージバックが代表的です。

チャージバックが発生すると、商品は発送済みにもかかわらず売上金が取り消されるため、商品原価と送料の二重損失になります。割賦販売法第35条の16に基づき、加盟店はチャージバックに関するカード会社の調査に協力する義務があります。

代引き受取拒否

代金引換(代引き)で商品を発送したにもかかわらず、受取人が受け取りを拒否するケースです。往復の送料と代引き手数料がEC事業者の負担となります。

受取拒否は法的には買主の受領遅滞(民法第413条)に該当しますが、1件あたりの損失額(送料+手数料で数百円~数千円程度)を考えると、個別に法的手段をとるのは費用倒れです。

未収金回収の実務手順

自社後払いの回収フロー

自社で後払い決済を運営している場合の回収手順です。

支払期限到達前:支払期限の3日前にリマインドメールを送信します。「お支払い期限が近づいています」という通知は、払い忘れの防止に効果的です。

支払期限超過後1~2週間:督促メールとSMS(ショートメッセージ)で支払いを催促します。メールとSMSの併用は、どちらか一方だけの場合と比べて到達率・開封率が高まります。

2~4週間超過:電話による督促を行います。購入者と直接話すことで、未払いの原因を確認し、分割払いなどの代替手段を提案できます。

1か月超過:書面による督促状を郵送します。「○月○日までにお支払いがない場合は、法的手段の検討を含め対応を進めさせていただきます」と記載します。

2か月超過:内容証明郵便で催告し、対応がなければ少額訴訟(60万円以下の場合)または支払督促を検討します。ただし、1件あたりの金額が数千円レベルの場合は回収コストとの比較で判断してください。

外部委託:債権回収の専門会社(サービサー)への委託も選択肢です。債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)に基づく許可を受けた業者であれば、法的に問題なく回収業務を委託できます。

チャージバックへの対応

チャージバックの通知を受けたら、次の対応を行います。

  • 出荷記録・配送伝票の写しを準備する
  • 注文時のIPアドレス、配送先住所、注文履歴を確認する
  • カード会社からの調査依頼に対して、上記の証拠資料を提出する

3Dセキュア認証済みの取引であれば、不正利用によるチャージバックの責任はカード発行会社に移転します(ライアビリティシフト)。これがチャージバック対策として3Dセキュア導入が推奨される最大の理由です。

未収金を防ぐリスク管理策

決済手段の最適化

EC事業者の規模と取引量に応じて、最適な決済手段の組み合わせを選択します。

小規模EC(月商500万円未満):後払い決済は決済代行会社の保証型サービスを利用し、未回収リスクを外部に移転するのが合理的です。手数料は3~5%程度ですが、回収業務の手間と貸倒リスクを考慮すれば十分な投資です。

中規模EC(月商500万~5,000万円):決済代行会社の利用に加え、不正検知システム(EMV 3Dセキュア対応)を導入し、チャージバックリスクを軽減します。

大規模EC(月商5,000万円超):自社与信モデルの構築を検討します。過去の取引データを分析し、未払いリスクの高い注文を事前に検知する仕組みを整えます。

不正注文の検知

後払い決済の不正利用を防ぐために、次のチェックポイントを設けます。

  • 初回注文で高額商品を大量に購入するケース
  • 配送先が注文者の住所と大きく異なるケース
  • 短期間に異なる名義で同一住所への注文があるケース
  • フリーメールアドレスでの登録と高額注文の組み合わせ

これらの条件に該当する注文は、出荷前に電話確認を行うか、決済方法をクレジットカード(3Dセキュア付き)または前払いに変更する運用が効果的です。

利用規約の整備

特定商取引法第11条に基づき、ECサイトには取引条件の明示が義務付けられています。利用規約には、未収金対策として次の条項を含めてください。

  • 後払いの支払期限と遅延時の対応
  • 代引き受取拒否時の費用負担
  • 不正利用が疑われる場合の注文キャンセル権
  • 繰り返し未払いがある場合のアカウント停止

未収金が長期化して自社での回収が難しい場合は、未収金買取の仕組みと活用方法も選択肢として検討してみてください。

回収不能となった未収金の帳簿上の処理については、未収金の会計処理についてで詳しく解説しています。

まとめ

要点

  • 後払い決済は保証型サービスの活用で未回収リスクを移転する:自社で回収業務を抱えるよりも、決済代行会社の保証型サービスを利用して手数料でリスクをカバーする方が中小EC事業者には合理的
  • 3Dセキュア導入でチャージバックリスクを軽減する:ライアビリティシフトにより不正利用時のチャージバック負担をカード発行会社に移転できるため、導入効果は大きい
  • 不正注文の検知と利用規約の整備で発生を抑制する:注文パターンの異常検知と、未払い時の対応方針を利用規約に明記することで、未収金の発生自体を減らす

EC事業と同じく後払いリスクを抱える業種として、生体販売の自社分割払いを行うペットショップがあります。割賦販売法の適用範囲や、サブスク配送の解約トラブル対応についてはペットショップの未収金対策も参考になります。


未収金の回収や債権管理で判断に迷う場合は、無料相談窓口で債権の状態、回収状況、処理方針を共有してください。

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よくある質問

Q. 後払い決済で未払いが発生した場合、EC事業者が負担するのですか?
A. 後払い決済サービス(NP後払い、atone等)を利用している場合、未回収リスクは原則として決済代行会社が負担します(保証型の場合)。ただし、不正利用や規約違反の取引はEC事業者の負担となるケースがあります。契約書でリスク負担の範囲を確認してください。
Q. 自社で後払い決済を運営する場合の時効は何年ですか?
A. ECサイトでの商品販売代金は、改正民法(2020年4月施行)により消滅時効は「権利を行使できることを知った時から5年」です(民法第166条第1項)。商品発送日または支払期日のいずれか遅い日から起算します。
Q. 代引き(代金引換)で受取拒否された場合の費用は誰が負担しますか?
A. 注文は売買契約の申込みであり、受取拒否は買主の受領義務違反にあたります(民法第413条)。往復の送料と代引き手数料はEC事業者の損害となりますが、少額のため個別に回収するのは非効率です。特定商取引法に基づく利用規約に受取拒否時の費用負担を明記し、繰り返す顧客にはアカウント停止で対応するのが現実的です。
Q. クレジットカードのチャージバックを防ぐ方法はありますか?
A. 3Dセキュア2.0(本人認証サービス)の導入が最も効果的です。3Dセキュア認証済みの取引は、不正利用によるチャージバックの責任がカード発行会社に移転します(ライアビリティシフト)。また、配送先住所と請求先住所の一致確認、不自然な大量注文の検知なども併せて実施してください。

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