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医療機関の未収金を解消する

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医療機関の未収金対策|病院・クリニックの実務ガイド

病院・クリニックの未収金対策を解説。自己負担金の回収フロー、応召義務(医師法19条)との両立、未収金の会計処理と税務、健康保険組合への請求、生活保護・外国人対応、回収体制の構築まで医療機関の経営者・事務長向けに実務ベースでまとめました。

医療機関にとって、患者の自己負担金の未収は経営上の大きな課題です。四病院団体協議会の調査によれば、全国の病院における未収金は相当な規模に上り、特に救急医療を担う病院ほど未収金が多い傾向があります。

医療機関特有の難しさは、応召義務(医師法第19条)により診療を拒否しにくい点にあります。未払いがあっても診療を提供する義務が原則として存在するため、他業種のように「未払いなら取引停止」という対応が取りづらいのが実情です。

本記事では、病院・クリニックの経営者・事務長向けに、未収金の発生背景から回収フロー、会計・税務処理、回収体制の構築までを解説します。

未収金の対応は、発生からの経過時間によって取るべき手段が変わります。全体像を先に示します。

未収金対応のタイムライン経過時間で有効な手段が入れ替わる。回収率が高いのは発生直後受付・会計資格確認/当日精算〜30日電話・書面の督促30〜90日内容証明・支払計画90日〜1年支払督促・少額訴訟1年超貸倒処理・債権譲渡回収率高い低い保険者への処分請求(別ルート)保険診療・60万円超・入院・督促記録あり少額の外来未収では使えない費用倒れの分かれ目1件あたりが少額なら、法的手段のコストが回収額を上回る少額・大量の未収は、回収より予防と整理に資源を回す
未収金は時間が経つほど回収率が下がり、使える手段も費用対効果が悪化する。保険者への処分請求は高額・入院案件に限られた別ルート。

医療機関の未収金が増加する背景

背景1:高額療養費制度と自己負担額の問題

日本の公的医療保険制度では、患者の自己負担割合は原則1〜3割です。しかし、入院や高度な治療を要する場合、自己負担額は数十万円に達することがあります。

高額療養費制度により自己負担の上限は設定されていますが、制度の利用には申請が必要であり、限度額適用認定証を事前に取得していない場合は、一旦窓口で全額を支払った後に還付を受ける仕組みです。この「立替」ができない患者が未払いとなるケースが多いです。

背景2:救急搬送・夜間診療での未収金

救急搬送された患者は、保険証を持参していない、身元が不明、意識がないといった状況で診療を受けることがあります。この場合、自己負担金の請求自体が困難で、身元判明後も連絡が取れず未収金として残るケースがあります。

救急医療における未収金の特徴を整理します。

状況未収金リスク回収の見通し
保険証未携帯(後日持参可能)低〜中保険適用後に請求可能
無保険(資格喪失・未加入)10割負担となり高額化
身元不明(行旅病人等)極めて高行旅病人及行旅死亡人取扱法に基づき自治体負担の可能性
外国人旅行者(保険なし)帰国後の回収は極めて困難

背景3:応召義務の制約

医師法第19条は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定めています。

この応召義務により、医療機関は未払いがあることを理由に診療を拒否することが原則としてできません。2019年12月の厚生労働省通知では、応召義務の考え方が整理され、次の点が明確化されました。

  • 緊急対応が必要な場合 — 未払いの有無にかかわらず診療義務がある
  • 緊急でない場合 — 支払い能力があるにもかかわらず悪質な未払いを繰り返す場合は、診療拒否の正当事由に該当しうる
  • 診療の求めがあった場合 — 直ちに対応可能な医療機関の紹介等の対応義務はある

つまり、応召義務は絶対的な診療義務ではないものの、拒否のハードルは依然として高いのが現実です。

応召義務は絶対的な診療義務ではない

厚生労働省の2019年通知により、緊急でない場合で支払い能力があるにもかかわらず悪質な未払いを繰り返す場合は、診療拒否の正当事由に該当しうるとの解釈が示されています。

背景4:患者の経済状況の多様化

無保険者、生活困窮者、高齢の年金受給者など、支払い能力に課題のある患者が増加傾向にあります。こうした患者の未収金は、回収努力を重ねても回収できないケースが多く、最終的に貸倒損失として処理されることになります。

自己負担金の回収フロー

受付での資格確認が未収金の入口を決める

未収金の多くは、会計の場面ではなく受付の時点で決まります。保険資格が確認できないまま診療に入ると、後から保険者に請求できず、患者へ10割を請求せざるを得なくなるためです。

確認は毎回行うのが原則です。就職・退職・扶養の変更で資格は月単位で変わり、患者本人が失効に気づいていないことも珍しくありません。オンライン資格確認を導入していれば、マイナンバーカードや健康保険証の情報から、その時点の資格を受付で照会できます。

資格が確認できない場合の扱いを、あらかじめ決めておいてください。

状況受付での対応
資格をその場で確認できた通常どおり自己負担分を請求する
カード・保険証を忘れた(資格は有効の見込み)10割をいったん預かり、期限を決めて資格確認後に差額を返金する
資格が失効している10割負担になることを説明し、新しい資格の取得を案内する
資格が不明のまま診療が必要連絡先と本人確認情報を記録し、後日の精算方法を書面で確認する

10割をいったん預かる運用は、患者に説明せずに始めるとトラブルになります。「保険が確認できれば差額をお返しします」という趣旨と、返金の期限・方法を院内の掲示と口頭の両方で伝える形にしておくと、受付担当者ごとの対応のばらつきも防げます。

外来患者の未収金対応

基本原則:当日精算を徹底する 外来の窓口未収を防ぐ最大のポイントは、診療当日に精算を完了させることです

当日精算のための施策:

  1. 後払い方式の場合 — 会計番号による呼び出し・支払い確認後に処方箋を渡す
  2. 自動精算機の導入 — 会計待ちの煩わしさを解消し、未精算のまま帰院するリスクを低減
  3. クレジットカード・キャッシュレス決済の導入 — 手持ちの現金がない場合の支払い手段を確保
  4. 分割払いの案内 — 高額になる場合は分割払いの相談に応じる

当日精算できなかった場合の対応:

  1. 翌日 — 電話で支払い案内(振込先・次回来院時の精算を案内)
  2. 1週間後 — 書面(督促状)を郵送
  3. 1か月後 — 2回目の督促状(期限を明記)
  4. 3か月後 — 内容証明郵便による最終督促

入院患者の未収金対応

入院時は金額が高額になるため、入院前の段階で未収リスクを低減する対策が重要です。

入院前の対策:

  • 限度額適用認定証の取得を案内する(高額療養費制度の事前手続き)
  • 入院保証金(デポジット)の預かり — 5万〜10万円程度が一般的
  • 連帯保証人の設定 — 入院誓約書に保証人欄を設ける
  • 支払い方法の確認 — クレジットカード、分割払いの可否

入院中の中間請求: 長期入院の場合は、月1回の中間請求を行い、未収金が累積するリスクを抑えます。中間請求で未払いが生じた場合は、早期に面談で支払い相談を行います。

退院時の対応: 退院時に精算ができない場合でも、退院を遅らせることは医療上の理由がない限り適切ではありません。支払い計画書を作成し、分割での支払いを合意した上で退院させるのが実務上の対応です。

支払いを約束してもらうときに書面へ入れる項目

分割払いに応じるとき、口頭の合意だけで済ませると、後から金額も期限も証明できなくなります。支払計画書や未収金確認書として書面に残す際、最低限そろえたい項目を挙げます。

項目押さえる理由
未収金額と診療期間何に対する債務かを特定する
分割の回数・各回の金額・支払期日履行遅滞の判断基準になる
支払方法口座振替・振込・来院時払いのどれかを固定する
患者本人の署名と連絡先本人の承認を示す証拠になる
本人以外の連絡先転居・連絡不通に備える。勤務先以外の緊急連絡先も取る
連帯保証人(入院時)本人から回収できない場合の請求先を確保する
不履行時の取り扱い一度でも遅れた場合に残額を一括請求できる旨を明示する

その場で一部でも入金してもらうことにも意味があります。少額でも支払いがあれば債務の承認と評価されやすく、時効の管理という点でも有利に働きます

回収が困難な場合の法的手段

手段費用目安適する場面
支払督促(簡易裁判所)印紙代のみ(数千円)住所が判明、金額が明確
少額訴訟数千円60万円以下の請求
通常訴訟弁護士費用10万円〜高額な未収金
強制執行申立費用+弁護士費用債務名義を取得済みで差押財産が特定できる場合

支払督促や訴訟で債務名義を得た後、患者が支払わなければ強制執行に進めます。差し押さえの対象は給与、預金、動産などですが、勤務先や口座が特定できなければ実行できません。少額の未収金では、財産調査と申立ての手間が回収額を上回ることが多く、費用倒れになりやすい点は織り込んでおいてください。

なお、患者の未収金は外部に出せる業務の範囲が他業種より狭いという特徴があります。分割払いの継続管理を委ねる集金代行を含め、委託先の選び方は後述の「回収を外部に委ねるときの法的な線引き」で整理します。

保険者に処分を請求するという回収ルート

自院の督促で回収できない一部負担金については、保険者に処分を請求できる制度があります。使える場面はかなり限定されますが、根拠が法律に置かれているため、高額債権を抱えたときの選択肢として押さえておく価値があります。

自院の案件が対象になりそうかを先に確認してください。

条件対象になるか
保険診療の一部負担金である対象
自由診療・保険外併用療養費の患者負担分対象外
対象額が60万円を超える対象(60万円以下は対象外)
入院療養で、療養終了後の催促・督促・訪問の記録がある対象
外来の少額未収で督促記録も乏しい対象外

根拠となる条文

健康保険法第74条第2項と国民健康保険法第42条第2項は、ほぼ同じ内容を定めています。保険医療機関等が「善良な管理者と同一の注意」をもって一部負担金の支払いを受けることに努めたにもかかわらず、なお患者が支払わないときは、当該保険医療機関等の請求に基づき、その法律の規定による徴収金の例によってこれを処分することができる、という規定です。

処分を行う主体は制度によって異なります。健康保険法では全国健康保険協会や健康保険組合といった保険者が、国民健康保険法では市町村および国民健康保険組合が主体になります。請求する側は、健康保険では保険医療機関または保険薬局です。

「徴収金の例により処分する」とは、保険料などを徴収する手続きを準用して保険者が徴収に動くことを指します。ここで誤解しやすいのは債権の帰属です。厚生労働省の通知は、一部負担金の支払いが保険医療機関等と被保険者との債権債務関係であり、保険者が処分を行う場合でも一部負担金が保険医療機関の債権であることに変わりはない、と明示しています。保険者が肩代わりして買い取ってくれる制度ではありません

実務上の適用範囲は狭い

条文だけを読むと使いやすい制度に見えますが、運用の要件が通知で定められています。平成22年10月14日付の厚生労働省保険局保険課長通知(保保発1014第1号)は、保険者が確認すべき事項として次を挙げています。

  • 処分の対象となる一部負担金の額が60万円を超えること
  • 被保険者が入院療養を受けている場合、療養終了後に少なくとも月1回、電話などで支払いを催促し記録を残していること
  • 療養終了後3か月以内および6か月経過後に、内容証明郵便による督促状を送付し記録を残していること
  • 療養終了から6か月経過後に、少なくとも1回は支払いの催促のため被保険者の自宅を訪問し記録を残していること

つまり、少額の窓口未収を処理する手段としては現実的ではありません。高額な入院費が長期にわたって未払いのまま残っている場面に限って検討する制度、と位置づけるのが実態に合っています。

要件を満たすために残すべき記録

条文の中心は「善良な管理者と同一の注意をもって支払を受けることに努めた」という部分です。通知が求める催促・督促・訪問の記録を残せているかどうかが、請求が受け付けられるかの分かれ目になります。

記録の種類具体的な内容
督促の日時と方法電話・郵送・面談の別、実施日、担当者名
相手方の反応不在、支払いの約束、分割の申し出、連絡不通
送付書面の控え督促状、催告書、内容証明の控えと配達記録
支払相談の経過分割払いの提案内容と患者の回答

未収金台帳にこれらの欄をあらかじめ設けておけば、処分請求の要件を後から立証しやすくなります。同じ記録は、貸倒損失を計上する際の証拠としても使えます。

対象は公的医療保険の一部負担金に限られ、自由診療の未収金は含まれません。必要書類や確認事項は保険者によって差があるため、請求を検討する段階で保険者に手続きを確認してください。

外国人患者の未収金にどう備えるか

外国人患者の未収金は「回収が難しい」と語られがちですが、実態データを見ると打ち手の優先順位は変わってきます。

発生実態を数字で見る

厚生労働省の「令和6年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」(令和7年3月時点の資料)によると、2024年9月に外国人患者の受入実績があった2,890病院のうち、未収金を経験した病院は470病院(16.3%)でした。未収金があった病院1施設あたりの発生件数は平均3.9件、総額は平均49.8万円です。

金額の分布に注目してください。発生した未収金1,825人分のうち1,303人(71.4%)は、1件あたり5万円以下でした。未収金が発生した患者の割合も、令和5年9月の1.5%から令和6年9月は1.2%へ低下しています。

数字を読むうえで前提が2つあります。この調査での「未収」は、請求日より1か月を経ても診療費の一部または全部が支払われていない状態を指します。また調査は全国8,220病院を対象とした任意のアンケートで、病院調査票Bの回収率は66.8%です。集計は回答した病院のうち外国人患者の受入実績があるものに限られるため、全医療機関の平均として読み替えることはできません。

データから導ける対応方針

1件5万円以下が7割という分布は、訴訟や強制執行のコストに見合わない少額債権が大半を占めることを意味します。発生後の法的回収に人手を割くより、発生させない仕組みに投資するほうが費用対効果は高くなります

在留外国人と訪日旅行者では前提が異なる点も押さえておきたいところです。中長期在留者のように日本国内に住所を有し、他の医療保険への加入や生活保護受給などの除外事由に当たらない外国人は、公的医療保険の対象になります。資格を確認できれば日本人と同じ回収ルートに乗る、と考えて差し支えありません。訪日旅行者は公的保険がなく自費(10割)となるため、支払い能力の確認が入口の勝負になります。

場面対策
受付時旅行保険の加入有無と利用できる決済手段の確認、旅券情報と滞在先の記録
診療前概算費用の提示と同意の取得(多言語の同意書を用意しておく)
高額が見込まれる場合クレジットカードの事前与信、預り金の設定
会計時海外発行カードを含む複数の決済手段の用意

未払いのまま帰国されそうなとき

予防が本筋とはいえ、実際に未払いが起きたときの動き方も決めておく必要があります。訪日旅行者の場合、出国してしまうと連絡手段が実質的に失われるため、対応できる時間は退院・受診の当日から出国までに限られます

局面やること
退院・受診時に未払いが判明旅券番号、滞在先、帰国予定日、本国の住所と連絡先、同行者の連絡先を記録する
出国前滞在先へ連絡し、カード決済や本国からの送金を含めて支払い方法を提示する
出国後電話・メール・書面で請求を継続する。回収可能性は大きく下がるため、費用をかけた法的手続きは金額を見て判断する

旅行保険に加入している場合は、保険会社への直接請求が可能なことがあります。保険証券の情報を受付時に控えておけば、未払いが起きた後の交渉相手を患者本人だけに限定せずに済みます。

厚生労働省は、訪日外国人受診者による医療費の不払い情報を医療機関から報告してもらう仕組みを設け、医療機関に協力を呼びかけています。制度の詳細や報告方法は厚生労働省の医療機関向け案内で確認できます。

回収を外部に委ねるときの法的な線引き

未収金が積み上がると外部への委託を検討することになりますが、患者の未収金は委託できる先が他業種より限られます。根拠を知らないまま依頼すると、委託そのものが適法性を欠く依頼になりかねません。

報酬を得て回収を代行できるのは誰か

弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁じています。支払いを拒む患者との交渉は法律事務にあたるため、無資格の業者に報酬を払って交渉を任せることはできません

債権回収会社(サービサー)は、債権管理回収業に関する特別措置法に基づく法務大臣の許可を受け、この例外として回収業務を行う存在です。ただし扱える債権は同法第2条第1項が列挙する特定金銭債権に限られます。列挙されているのは金融機関等の貸付債権、リース料債権、クレジット債権、資産流動化に係る債権などで、医療機関が診療によって患者に対して取得した未収金は、その発生原因だけでは特定金銭債権に当たりません。窓口未収をそのままサービサーに回収委託する形は、通常は成立しないと考えてください

外部を活用する主な形

相手方・手段できること向く場面
弁護士交渉、内容証明、支払督促、訴訟、強制執行争いのある債権、高額な未収金
集金代行会社口座振替やコンビニ払いなどの収納事務の代行分割払いの継続管理、未収の予防
債権の譲渡(売却)債権そのものを移転し、以後は譲受人が自己の債権として管理長期に滞留した債権の整理

上の3つは性質が異なります。弁護士への依頼と集金代行は自院が債権者のまま業務を外に出す形ですが、債権譲渡は債権者そのものが入れ替わる取引です。

患者未収金を外部に出せる範囲自院が債権者のまま弁護士交渉・内容証明訴訟・強制執行集金代行口座振替などの収納交渉はできない報酬を得て交渉を代行できるのは弁護士だけ(弁護士法72条)サービサーへの回収委託診療の未収金は特定金銭債権に当たらず、通常は使えない×債権者が入れ替わる債権譲渡(売却)譲受人が自己の債権として管理する代理ではないが、譲受人が業として権利を実行する形は弁護士法73条の確認が要る個人情報の取扱いも整理する
交渉を伴う回収を任せられるのは弁護士に限られる。集金代行は収納事務のみ、債権譲渡は債権者が代わる取引で、それぞれ根拠となる規制が異なる。

集金代行は収納事務を代行するサービスであり、紛争性のある債権について患者と交渉する立場ではありません。争いが生じている未収金の交渉まで任せることはできない点に注意してください。

債権譲渡についても、譲渡すれば規制と無関係になるわけではありません。弁護士法第73条は「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によつて、その権利の実行をすることを業とすることができない」と定めています。真正な譲渡であっても、譲受人が業として権利の実行を行う形になれば同条との関係が問われます。加えて、患者の情報を含む債権を移転する以上、個人情報の取扱いと守秘義務の整理も必要です。スキームの適法性は個別の事情で判断が分かれるため、契約前に専門家へ確認してください。

未収金の会計処理と税務

医療機関における未収金の勘定科目

医療機関の未収金は、病院会計準則に基づき以下の勘定科目で処理します。

勘定科目内容
医業未収金患者の自己負担金の未収分
保険等査定減審査支払機関による査定減額分
貸倒引当金回収不能見込額の引当

医業未収金は、診療報酬点数に基づく請求額のうち患者自己負担分を計上します。保険者(健康保険組合、協会けんぽ等)への請求分は別途「社会保険等未収金」として管理します。

貸倒引当金の設定

医業未収金に対する貸倒引当金は、次の方法で設定します。

個別評価(回収懸念のある特定の患者):

  • 破産手続き開始決定を受けた患者 — 回収見込額を除く全額
  • 長期滞納で連絡が取れない患者 — 個別に回収可能性を判断

一括評価(一般の医業未収金):

  • 過去3年の貸倒実績率に基づき算定
  • 中小法人は法定繰入率(その他の業種:6/1000)の適用も可能

貸倒損失の計上

医療機関の未収金を貸倒損失として計上する場合、法人税基本通達の3類型に基づいて判断します。

9-6-1(法律上の貸倒れ): 患者が破産手続きで免責を受けた場合など

9-6-2(事実上の貸倒れ): 患者が死亡し相続人がいない、または相続人全員が相続放棄した場合など。回収不能であることの証拠(住民票除票、相続放棄の受理証明等)を保管します。

9-6-3(形式上の貸倒れ): 継続的に通院していた患者が来院しなくなり、1年以上経過した場合の売掛債権。備忘価額1円を残して貸倒損失を計上します。

消費税の取扱い

医療機関の診療報酬は、社会保険診療(保険診療)については消費税非課税です(消費税法第6条、別表第二第6号)。自由診療(美容医療、予防接種等)は課税対象です。

非課税取引に係る未収金が貸倒れとなった場合は、消費税法第39条の貸倒れに係る消費税額の控除は適用されません。自由診療分の未収金が貸倒れた場合のみ、消費税の調整が必要です。

回収体制の構築

専任担当者の配置

未収金の回収率を高めるには、医事課(医療事務部門)の中に未収金管理の担当者を明確に位置づけることが有効です。

担当者が行う主な業務は次のとおりです。

  • 未収金台帳の管理(患者名、金額、発生日、督促履歴)
  • 月次の督促業務(電話・書面・訪問)
  • 分割払いの相談対応
  • 月次の未収金報告書の作成(経営会議への報告)
  • エスカレーション判断(法的手段への移行、貸倒処理の判断)

ソーシャルワーカー(MSW)との連携

支払いが困難な患者には、医療ソーシャルワーカー(MSW)が公的支援制度につなぐことで、結果的に未収金の発生を防ぐことができます。

MSWが案内できる主な制度:

制度概要対象者
高額療養費制度自己負担の上限を超えた分を還付公的医療保険の加入者全般
無料低額診療事業生活困窮者に対する無料・低額での診療社会福祉法に基づく届出医療機関
生活保護の医療扶助医療費を全額公費負担生活保護受給者
医療費助成制度自治体独自の医療費補助自治体により異なる

公的支援制度の利用は、患者の経済的負担を軽減するだけでなく、医療機関の確実な収入確保にもつながります。

MSWを通じた公的支援制度の案内が最も効果的な予防策

支払い困難な患者を高額療養費制度、無料低額診療事業、生活保護の医療扶助などに接続することは、患者支援と未収金リスクの低減を同時に実現する施策です。

会計窓口の業務フロー改善

未収金の発生を抑えるために、会計窓口の業務フローを見直します。

  1. 診察後の動線設計 — 患者が会計窓口を通らずに帰院しにくい動線を設計する
  2. 自動精算機の導入 — 現金・カード・電子マネーに対応した自動精算機でスムーズな会計を実現
  3. 後払いシステムの活用 — スマートフォンアプリによる後払い(クレジットカード登録制)を導入し、窓口での現金精算を不要にする
  4. 入院時の保証金運用の標準化 — 金額の基準、預かり証の発行、退院時の精算手順を明文化する

支払い場面ごとに決済手段を用意する

決済手段は数を増やせばよいというものではなく、支払いの場面に合うものを置くと未収が減ります

場面適した決済手段
外来の単発受診現金、クレジットカード、電子マネー、コード決済
慢性疾患で継続通院口座振替、カードの継続登録による自動決済
退院後の請求・分割払い口座振替、コンビニ払込票、指定口座への振込
家族が支払う場合コンビニ払込票、振込、オンライン決済

慢性疾患で毎月通院する患者の少額未収は、1件あたりは小さくても積み上がると回収工数を圧迫します。来院のたびに現金で精算する形から口座振替に切り替えるだけで、督促そのものが発生しなくなります。退院後の請求は、患者が窓口へ来る機会がなくなるため、来院を前提としない支払方法を必ず用意してください。

未収金管理の指標設定

経営会議で定期的にモニタリングすべき指標を設定します。

指標計算方法目安
未収金発生率新規未収金額 / 医業収益1%以下が望ましい
回収率回収額 / 期首未収金残高80%以上を目標
滞納期間別残高30日未満 / 30〜90日 / 90日超のエイジング90日超の割合を監視
貸倒損失率貸倒損失額 / 医業収益前年比で悪化していないか

回収を続けるか、整理するかの判断

未収金は、放置しても帳簿上は資産として残り続けます。実態として回収できない債権であっても、貸倒処理をしない限り医業未収金に計上されたままとなり、資産の実態と帳簿が乖離していきます。回収コストと回収可能性のバランスを見て、どこかで方針を決める必要があります。

滞納期間ごとの判断の目安を整理します。

滞納期間主な打ち手判断の観点
30日未満電話・書面での督促、分割の相談回収率が最も高い時期。人手をかける価値がある
30〜90日内容証明、支払計画の書面化連絡が取れるかどうかで対応が分岐する
90日〜1年弁護士への委託、支払督促・少額訴訟金額が回収コストに見合うかを試算する
1年超貸倒処理、債権譲渡による整理の検討回収見込みより帳簿の適正化を優先する局面

高額な入院費が長期に未払いとなっている場合は、前述の保険者への処分請求も選択肢に入ります。60万円超という金額要件と、療養終了後の催促・督促・訪問の記録が求められるため、該当するのは滞納が長期化した一部の債権に限られます。

少額の債権を大量に抱えている場合、1件ずつ法的手段を取ると費用倒れになります。滞留した債権をまとめて整理する方法として債権の譲渡がありますが、患者未収金は1件あたりが少額で、個人情報の取扱いや譲渡後の回収可能性といった論点も伴います。譲渡できるかどうかと価格は、債権の内容と買い手の判断によって大きく変わります。

未収金が長期化して自社での回収が難しい場合は、未収金買取の仕組みと活用方法も選択肢として検討してみてください。

回収不能となった未収金の帳簿上の処理については、未収金の会計処理についてで詳しく解説しています。

まとめ

この記事の要点

  • 応召義務の制約を理解した上で回収の仕組みを構築する — 診療拒否は原則できないからこそ、入院前の保証金預かり、限度額適用認定証の取得案内、キャッシュレス決済導入といった予防策が重要
  • MSWとの連携で公的支援制度につなぐ — 支払い困難な患者を公的支援制度に接続することは、患者のためであると同時に医療機関の未収金リスクを低減する実務的な対策
  • 未収金の会計・税務処理を適切に行う — 医業未収金の分類、貸倒引当金の設定、貸倒損失の計上要件(法人税基本通達9-6-1〜3)を理解し、証拠書類を整備して適時に処理する
  • 保険者への処分請求は高額債権の手段と割り切る — 健康保険法74条2項・国民健康保険法42条2項に根拠はあるが、通知で60万円超という金額要件と療養終了後の催促・督促・訪問の記録が求められるため、少額の窓口未収には使えない
  • 外部の使い分けを間違えない — 診療で生じた未収金は発生原因だけではサービサーの特定金銭債権に当たらず、交渉を伴う回収は弁護士、収納事務は集金代行、と役割が分かれる。債権譲渡も弁護士法73条や個人情報の整理が必要で、譲渡の可否と価格は債権の内容によって変わる

まずは自院の未収金残高をエイジング分析し、滞納期間ごとの対応フローを明文化するところから取り組んでみてください。

医療隣接領域の未収金対策も参考になります。整骨院・整体院では療養費と自費施術の混在、回数券の前受金処理など、医療機関と共通する論点があります。詳しくは整体院・整骨院の未収金回収ガイドをご覧ください。また、動物病院は公的医療保険がなく全額自由診療である点で未収金構造が大きく異なります。応招義務や獣医療特有の分割払い設計については動物病院の未収金回収|実務フローと予防策で解説しています。


未収金の回収や債権管理で判断に迷う場合は、無料相談窓口で債権の状態、回収状況、処理方針を共有してください。

参考にした主な出典

関連業種の未収金ガイド

本記事が対象にしているのは、病院と一般クリニックの保険診療で生じる患者自己負担金の未収です。同じ医療・福祉系でも、未収金が生まれる構造は業態ごとに異なります。歯科は自費補綴など高額な自由診療の割合が高く、調剤薬局は調剤報酬と一部負担金の構造が異なり、介護は国保連への請求と利用者家族への請求が併存し、美容クリニックは全額が自由診療契約です。自院の業態に近いものを選んでください。

業種特有の未収金を、まとめて整理する

MVNO・新電力・家賃保証・美容など、少額多数の未収金は買取で一括整理できる場合があります。件数、額面、滞留期間をもとに確認します。

業種ハブ

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業種ごとに未収金・資金繰り・補助金の事情は異なります。自社に近い業界のガイドを参照してください。

よくある質問

Q. 未収金がある患者の診療を拒否できますか?
A. 原則として拒否できません。医師法第19条の応召義務により、正当な事由がなければ診療を拒否してはならないとされています。ただし、厚生労働省の通知(令和元年12月25日医政発1225第4号)では、緊急性のない診療において支払い能力があるにもかかわらず悪質な未払いを繰り返す場合は、正当な事由に該当しうるとの解釈が示されています。個別の判断は慎重に行ってください。
Q. 医療費の時効は何年ですか?
A. 2020年4月の民法改正後は、権利を行使できることを知った時から5年(民法第166条第1項)です。改正前に発生した医療費は旧民法の3年の短期消滅時効(旧民法第170条)が適用される場合があります。なお、健康保険の保険者に対する診療報酬請求権の時効は3年です(健康保険法第193条)。
Q. 未収金を貸倒損失として処理するにはどうすればいいですか?
A. 法人税基本通達9-6-1(法律上の貸倒れ)、9-6-2(事実上の貸倒れ:全額回収不能が明らか)、9-6-3(形式上の貸倒れ:継続的取引の停止後1年以上)のいずれかに該当する場合に損金算入が可能です。医療機関の場合、通院が途絶えた患者の未収金に9-6-3の形式基準を適用できるケースがあります。
Q. 保証金やデポジットを患者から徴収することは認められますか?
A. 法律上、禁止されていません。入院時に保証金(入院預り金)を徴収する病院は一般的です。ただし、保証金がないことを理由に診療を拒否することは、応召義務との関係で問題が生じる可能性があります。保証金はあくまで未収金リスクの軽減策であり、診療提供の前提条件とはしない運用が安全です。

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