財務改善ナビ
組織再編

事業の切り出しで経営を再構築

組織再編 7分で読める

会社分割の実務|新設分割・吸収分割の手続き

会社分割(新設分割・吸収分割)の手続きと実務を解説。会社法に基づく分割計画書の作成から、債権者保護手続き、登記申請、税務処理まで中小企業向けにまとめました。

事業の成長や経営環境の変化に伴い、「採算部門を切り離して独立させたい」「グループ内で事業を再編したい」といったニーズが生じることがあります。こうした場合に活用されるのが、会社法に定められた会社分割という組織再編手法です。不良資産の整理と併せて検討されることも多い施策です。

会社分割には「新設分割」と「吸収分割」の2種類があり、それぞれ手続きの流れや効果が異なります。中小企業がこの制度を活用することで、不採算事業の切り離しによるBSのスリム化や、事業承継の柔軟な設計が可能になります。

本記事では、会社分割の基本的な仕組みから、手続きの流れ、税務上の留意点までを解説します。

会社分割の基本と2つの種類

会社分割とは

会社分割とは、会社法第2条第29号・第30号に定められた組織再編行為です。会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を、他の会社に包括的に承継させる手続きです。

事業譲渡が個別の契約に基づいて資産・負債を移転するのに対し、会社分割は包括承継であるため、個別の移転手続きが不要です。従業員の労働契約についても、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(労働契約承継法)に基づき、原則として分割先の会社に承継されます。

新設分割と吸収分割の違い

会社分割は、事業を承継する会社が新たに設立される「新設分割」と、既存の会社に承継される「吸収分割」に分かれます。

新設分割は、分割する会社の事業の一部を切り出して、新たに設立する会社に承継させる手法です。会社法第762条以下に規定されています。採算部門を子会社として独立させる場合や、持株会社体制への移行に活用されます。

吸収分割は、分割する会社の事業の一部を、既存の他の会社に承継させる手法です。会社法第757条以下に規定されています。グループ内の事業再編や、M&Aの前段階として不採算事業を分離する場合に用いられます。

いずれの場合も、対価として株式を交付するのが一般的ですが、会社法上は金銭やその他の財産を対価とすることも認められています(会社法第758条第4号)。

事業譲渡との比較

中小企業の事業再編では、会社分割と事業譲渡のどちらを選ぶかが重要な判断ポイントになります。

会社分割は包括承継であるため、許認可や契約関係がそのまま引き継がれるケースが多く、手続きの煩雑さが軽減されます。一方、事業譲渡は移転する資産・負債を個別に選べるため、簿外債務のリスクを回避しやすいというメリットがあります。

適格分割なら税負担を大幅に軽減できる

法人税法上の適格要件を満たす会社分割では、資産移転に伴う譲渡損益が繰り延べられます。消費税も非課税となるため、事業譲渡と比べて税務面で有利です。

税務面では、会社分割のうち「適格分割」の要件を満たすものは、資産の移転に伴う譲渡損益が繰り延べられます(法人税法第62条の2〜第62条の4)。事業譲渡では、原則として時価による譲渡として課税が発生します。

会社分割の手続きの流れ

分割計画書・分割契約書の作成

新設分割の場合は「分割計画書」、吸収分割の場合は「分割契約書」を作成します。これらは会社法で記載事項が法定されています。

分割計画書(新設分割)には、新設会社の商号・本店所在地・事業目的、承継する資産・負債・雇用契約その他の権利義務に関する事項、対価として交付する株式の数または内容などを記載します(会社法第763条)。

分割契約書(吸収分割)には、承継会社の商号・住所、承継する権利義務の内容、対価の内容、効力発生日などを記載します(会社法第758条)。

これらの書類は、株主総会の承認を得る前に、本店に備え置く必要があります(会社法第782条、第794条)。

株主総会の決議と簡易分割・略式分割

会社分割を行うには、原則として株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要です(会社法第783条第1項、第795条第1項)。

ただし、一定の要件を満たす場合は株主総会決議を省略できます。

簡易分割は、承継する資産の帳簿価額が分割会社の総資産額の5分の1以下の場合に、分割会社側の株主総会決議を省略できる制度です(会社法第784条第2項)。中小企業でも比較的小規模な事業の分割であれば、この制度を利用して手続きを簡素化できます。

略式分割は、特別支配会社(議決権の90%以上を保有する会社)との間で行う分割の場合に、被支配会社側の株主総会決議を省略できる制度です(会社法第784条第1項)。親子会社間の事業再編で活用されます。

債権者保護手続きと登記

会社分割では、債権者を保護するための手続きが法定されています。分割会社は、官報に公告を行い、知れたる債権者に対して個別に催告しなければなりません(会社法第789条、第799条)。この期間は最低1ヶ月です。

債権者が異議を述べた場合、会社はその債権者に対して弁済、担保の提供、または相当の財産の信託をしなければなりません。ただし、分割後も分割会社が当該債務の履行を引き続き負担する場合は、催告の個別通知を省略できるケースもあります。

効力発生後は、2週間以内に分割の登記を行います(会社法第923条、第924条)。新設分割の場合は新設会社の設立登記と分割会社の変更登記を、吸収分割の場合は承継会社と分割会社それぞれの変更登記を行います。

会社分割の税務と留意点

適格分割と非適格分割

法人税法上、会社分割は「適格分割」と「非適格分割」に区分されます。適格分割に該当すれば、移転資産の譲渡損益の計上が繰り延べられるため、税負担なく事業を移転できます。

適格分割の主な要件を、支配関係の態様ごとに整理します(法人税法第2条第12号の11)。

完全支配関係にある法人間の分割では、分割後に完全支配関係が継続する見込みがあること、移転する主要な資産・負債が承継されること、が求められます。

支配関係(50%超の持株関係)にある法人間の分割では、上記に加え、移転事業の従業者のおおむね80%以上が引き続き業務に従事する見込みがあること、移転事業が承継会社で引き続き営まれる見込みがあること、が必要です。

共同事業を行うための分割では、さらに事業の関連性や規模の均衡などの要件が加わります。

消費税・不動産取得税の取り扱い

会社分割による資産の移転は、消費税法上は「資産の譲渡等」に該当しないため、消費税は課税されません(消費税法第2条第1項第8号、消費税法基本通達5-2-5)。事業譲渡の場合は課税取引となるため、この点は大きな違いです。

不動産取得税についても、一定の要件を満たす会社分割であれば非課税とされます(地方税法第73条の7第2号の3)。具体的には、分割対価として株式以外の資産が交付されないこと、分割事業に係る主たる資産・負債が移転すること、などの要件があります。

登録免許税についても、会社分割による不動産の移転登記は、一般の売買に比べて軽減税率が適用されます(登録免許税法別表第一)。

濫用的会社分割に注意

濫用的会社分割は法的リスクが大きい

採算部門だけを分割して債務を旧会社に残す行為は、債権者から詐害行為取消権を行使されるリスクがあります。会社法改正により、残存債権者が承継会社に直接履行請求できる制度も創設されています。

会社分割を利用して、採算部門だけを新会社に移し、債務を旧会社に残して実質的に債権者を害する行為は「濫用的会社分割」と呼ばれ、法的リスクがあります。

平成26年の会社法改正により、分割会社に残された債権者が、承継会社に対して直接履行を請求できる制度が創設されました(会社法第759条第4項〜第7項)。また、民法上の詐害行為取消権(民法第424条)に基づく訴訟が提起されるケースもあります。

中小企業が事業再編のために会社分割を検討する際は、債権者の利益を不当に害しないよう、弁護士や税理士と十分に協議したうえで手続きを進めることが重要です。分割後のBSについてはBSの読み方と改善ポイントも参考にしてください。会社分割や事業再編についてのご相談は無料相談から受け付けています。

まとめ

この記事のポイント

  • 会社分割は新設分割と吸収分割の2種類があり、権利義務が包括承継されるため事業譲渡より手続きが簡便
  • 株主総会の特別決議と最低1か月の債権者保護手続きが必要だが、簡易分割・略式分割で省略できる場合もある
  • 適格分割なら譲渡損益の繰り延べと消費税非課税のメリットがあるが、濫用的会社分割のリスクには十分注意

よくある質問

Q. 会社分割と事業譲渡の違いは何ですか?
A. 会社分割は会社法上の組織再編行為であり、権利義務が包括的に承継されます。一方、事業譲渡は個別の契約に基づく取引であり、資産・負債・契約を個別に移転する必要があります。会社分割では従業員の労働契約も原則として承継されますが、事業譲渡では個別に同意を得て新たに契約を結び直す必要があります。
Q. 会社分割にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 一般的に3〜6ヶ月程度です。分割計画書の作成、取締役会・株主総会の決議、債権者保護手続き(官報公告1ヶ月)、登記申請という流れになります。簡易分割や略式分割の要件を満たす場合は、株主総会決議を省略でき、手続き期間を短縮できます。
Q. 債務超過の会社でも会社分割はできますか?
A. 可能です。ただし、債務超過の会社が会社分割を行う場合、債権者保護手続きが厳格に求められます。また、採算部門だけを分割して不採算部門を残す「濫用的会社分割」と見なされると、債権者から詐害行為取消権(民法424条)を行使されるリスクがあるため、専門家の助言のもとで慎重に進める必要があります。
Q. 会社分割にかかる費用の目安を教えてください。
A. 主な費用は、登録免許税(資本金額の1.5/1000、最低3万円)、官報公告費(約3〜4万円)、司法書士報酬(15〜30万円程度)、税理士・弁護士の助言費用です。中小企業の場合、総額で50〜150万円程度が目安となります。適格分割であれば資産移転に伴う法人税・消費税は発生しません。

関連記事

BS改善・不良債権整理の新着記事

BSに残る不良債権を、決算前に確認する

長期滞留している売掛金・貸付金は、買取や貸倒処理の検討対象になります。債権明細と決算時期をもとに整理方法を確認します。

不良債権の整理方法を確認する