M&Aの税負担を賢く抑える
中小企業のM&A税制優遇|活用できる制度一覧
中小企業がM&Aで活用できる税制優遇措置を解説。経営資源集約化税制、事業承継税制、登録免許税・不動産取得税の軽減措置など、M&Aに関連する主要な税制を整理しました。
中小企業のM&A(合併・買収)は、後継者不在問題の解決策として年々増加しています。中小企業庁によると、中小企業のM&A件数は過去10年間で大幅に増加しており、これを後押しする税制優遇措置も拡充されてきました。
税制優遇はM&A実行前の申請が必須
経営資源集約化税制をはじめとする税制優遇は、M&A実行前に経営力向上計画の認定申請を済ませておく必要があります。事後申請では適用を受けられないため、M&A検討段階から税理士と連携してください。
しかし、税制優遇の存在を知らないまま、あるいは適用要件を満たすための準備をしないままM&Aを実行し、結果として活用できなかったというケースも少なくありません。本記事では、中小企業がM&Aで活用できる主要な税制優遇を整理します。
経営資源集約化税制(M&A準備金制度)
制度の概要
経営資源集約化税制は、中小企業がM&Aにより他の中小企業の株式を取得する場合に、株式取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立て、損金算入できる制度です。
この制度の目的は、M&A後に簿外債務や偶発債務といったリスクが顕在化した場合の備えを税制面で支援することにあります。準備金は5年間にわたって均等に取り崩して益金に算入するため、永久に課税が免除されるわけではありませんが、M&A実施年度の税負担を軽減する効果があります。
適用要件
経営力向上計画(中小企業等経営強化法に基づく)の認定を受けていること、計画に基づいてM&A(株式取得)を実施すること、取得する株式の過半数を取得すること(経営権の取得)などが主な要件です。認定申請はM&Aの実行前に行う必要があるため、スケジュール管理が重要です。
登録免許税・不動産取得税の軽減
登録免許税の軽減
経営力向上計画の認定を受けた中小企業が、合併や会社分割により不動産の所有権移転登記を行う場合、登録免許税の軽減措置が適用されます。例えば、合併による不動産の移転登記の税率は通常1,000分の4ですが、軽減措置により1,000分の2に引き下げられる場合があります。
不動産取得税の軽減
同様に、経営力向上計画の認定を受けた場合、合併や一定の会社分割に伴う不動産取得について、不動産取得税が非課税または軽減される措置があります。不動産を保有する会社のM&Aでは、この軽減効果が大きくなる場合があります。
事業承継に関する税制
事業承継税制の概要
事業承継税制(租税特別措置法第70条の7の5など)は、後継者が先代経営者から非上場株式を贈与または相続により取得した場合に、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。特例措置では、発行済株式の全部について100%の猶予が認められます。
事業承継税制は第三者M&Aには使えない
事業承継税制は親族内承継・従業員承継が対象であり、第三者への株式売却(M&A)には直接適用されません。M&Aの買い手側が活用する制度でもない点に注意が必要です。
ただし、この制度は第三者へのM&Aには直接適用されません。親族内承継や従業員承継において株式を移転する際に活用する制度であり、M&Aの買い手側が活用する制度ではない点に注意が必要です。
所得税の特例(みなし配当の特例)
中小企業のオーナー経営者がM&Aにより自社株式を譲渡した場合、一定の要件のもとで、みなし配当課税ではなく株式譲渡所得課税(申告分離課税、税率約20%)が適用される特例があります。みなし配当として総合課税の対象になると最高税率が約55%になる可能性があるため、この特例の適用可否はM&Aの手取り額に大きく影響します。
税制活用のポイント
M&A関連の税制優遇を活用するためには、M&Aの実行前に経営力向上計画の認定申請を行うなど、事前の手続きが不可欠です。M&Aの検討開始段階から税理士と連携し、活用可能な制度を洗い出して手続きスケジュールに組み込むことが、税制優遇を確実に活かすためのポイントです。
M&Aにかかる消費税と印紙税の取扱い
M&Aの実行時には、消費税と印紙税の取扱いについても理解しておく必要があります。
株式譲渡の場合、有価証券の譲渡は消費税法上の非課税取引(消費税法第6条、別表第一第2号)に該当するため、消費税は課税されません。一方、事業譲渡の場合は、譲渡する資産・負債の内容に応じて消費税の課税・非課税が判定されます。棚卸資産、機械装置、のれんなどは課税取引となり、土地、有価証券、売掛金などは非課税取引です。事業譲渡のスキームでは消費税の負担が大きくなることがあるため、スキーム選定の段階で消費税の影響をシミュレーションしておくことが重要です。
印紙税については、株式譲渡契約書そのものには印紙税は課税されません(不動産の譲渡や営業の譲渡に関する契約書ではないため)。しかし、事業譲渡契約書は印紙税法上の第1号文書(営業の譲渡に関する契約書)に該当し、契約金額に応じた印紙税が課税されます。
デューデリジェンスで税務リスクを確認する重要性
M&A実行前のデューデリジェンス(買収監査)において、対象企業の税務リスクを精査することは不可欠です。未払税金、税務調査の未了案件、移転価格税制に関するリスク、繰越欠損金の使用制限などは、M&A後の税負担に直接影響します。対象企業のバランスシートの健全性を確認することも、M&Aの成否を左右する重要な視点です。
特に繰越欠損金の取扱いは注意が必要です。M&Aに伴い50%超の株式の移転があった場合、対象法人が有する繰越欠損金の利用に制限が課される場合があります(法人税法第57条の2)。この制限の有無によってM&A後の実効税率が大きく変わるため、税務デューデリジェンスの段階で確認しておくべき重要事項です。
まとめ
この記事のポイント
- 経営資源集約化税制で株式取得価額の70%以下を準備金として損金算入できる
- 登録免許税・不動産取得税の軽減には経営力向上計画の事前認定が必須
- 事業承継税制は第三者M&Aには適用されない(親族内・従業員承継が対象)
- みなし配当の特例適用で税率が約55%から約20%に軽減される可能性がある
- M&A計画段階から税理士と連携し、活用可能な制度を漏れなく確認する
M&Aの税制活用や財務面の準備についてご相談がある場合は、無料相談からお問い合わせください。
よくある質問
- Q. 経営資源集約化税制とは何ですか?
- A. 中小企業がM&Aを行う際に活用できる税制で、経営力向上計画の認定を受けた中小企業が株式取得によりM&Aを実施した場合に、株式取得価額の70%以下の金額を準備金として積み立て、損金算入できる制度です(中小企業等経営強化法に基づく措置)。M&A後にリスクが顕在化した場合の備えとして機能します。
- Q. M&Aで登録免許税の軽減を受けるにはどうすればいいですか?
- A. 経営力向上計画の認定を受けたうえで、合併や会社分割による不動産の移転登記を行う場合に、登録免許税の軽減措置を受けられます。通常の税率の半分程度に軽減されるケースがあります。認定申請は事前に行う必要があるため、M&Aの実行前に手続きを済ませておくことが重要です。
- Q. 事業承継税制はM&Aにも使えますか?
- A. 事業承継税制は原則として親族や社内の後継者への株式移転を対象としており、第三者へのM&A(事業売却)には直接適用されません。ただし、M&Aの前段階で親族内承継を行い、その際に事業承継税制を活用するケースはあります。
- Q. M&Aの税制優遇を受けるにはいつから準備すべきですか?
- A. 経営資源集約化税制の適用には、M&A実行前に経営力向上計画の認定を受ける必要があります。認定申請から取得まで通常1〜2か月かかるため、M&Aの検討を開始した段階で税理士に相談し、スケジュールに組み込んでおくことが重要です。事後申請では適用を受けられません。