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入居費用の滞納を防ぐ

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老人ホームの未収金対策|入居費用の滞納管理

老人ホーム・介護施設で発生する入居費用の滞納対策を解説。利用料の回収手順、身元引受人への請求、介護保険報酬の管理まで実務目線でまとめました。

入居者3名の利用料滞納が3ヶ月続き、月の売上200万円のうち45万円が未回収 ― ある地方の老人ホームが直面した現実です。入居者本人の認知症が進み家族とも連絡がつかない、身元引受人が高齢化して支払い能力を失っている。一般の商取引であれば取引停止で済む話ですが、高齢者の住まいを預かる施設では、未払いを理由に即座に退去を求めることは社会的にも法的にも許されません。

本記事では、老人ホーム特有の未収金パターンを整理したうえで、入居者の権利に配慮しつつ経営を守るための実務的な対策を解説します。

老人ホームで発生する未収金の類型

月額利用料の滞納

老人ホームの月額利用料は、家賃相当額、食費、管理費、介護サービスの自己負担分などで構成されます。入居者の年金収入や預貯金の減少により、支払いが困難になるケースが最も多い類型です。

認知症の進行によって金銭管理能力が低下し、支払い手続き自体ができなくなることもあります。口座振替を設定していても、残高不足で引き落としが不能になる事態は珍しくありません。利用料の支払義務は契約当事者である入居者本人に帰属しますが、成年後見人が選任されている場合は、後見人が財産管理の一環として手続きを行います。

身元引受人(連帯保証人)からの回収困難

多くの老人ホームでは入居契約時に身元引受人(連帯保証人)を設定しますが、2020年施行の改正民法により、個人の根保証契約には極度額の設定が必須となりました(民法第465条の2第2項)。老人ホームの保証は将来の債務を包括的に保証する根保証にあたるため、極度額の定めがなければ保証契約自体が無効です。

改正法施行後(2020年4月1日以降)に締結・更新された契約で極度額の定めがない場合、身元引受人への請求はできません。さらに、身元引受人自身の高齢化や所在不明により連絡が取れないケースも増えています。

介護保険報酬の請求事務の問題

介護保険報酬は国民健康保険団体連合会(国保連合会)を通じて請求しますが、被保険者番号の誤り、サービスコードの不備、算定要件の不充足などによりレセプト(介護給付費明細書)が返戻されると入金が遅延します。

請求締切はサービス提供月の翌月10日です。この期限を逃すと入金が1ヶ月遅れるため、スケジュール管理の徹底が不可欠です。

ケーススタディ:50床施設で3名が滞納した場合

ある定員50床の住宅型有料老人ホーム(月額利用料:1名あたり平均15万円)を想定します。3名の入居者が利用料を滞納し始めた場合、月額45万円の未収金が発生します。

3ヶ月間放置すると累計135万円、半年で270万円に膨らみます。この施設の月間売上は約750万円、営業利益率を5%と仮定すると月の利益はわずか37.5万円です。つまり、3名の滞納1ヶ月分だけで月間利益を上回り、3ヶ月で四半期分の利益が消失する計算になります。

さらに深刻なのは、滞納している入居者にも食事や介護サービスの提供を続ける必要があるため、コストは発生し続けるという点です。未収金は単なる「入金の遅れ」ではなく、施設経営を直接圧迫する損失であることを認識する必要があります。

未収金の予防策

入居契約書の整備

未収金リスクを低減するために、入居契約書には次の条項を盛り込みます。

利用料の支払条件として、月額利用料の内訳と金額、支払期日と支払方法(口座振替を推奨)、遅延損害金の利率を明記します。身元引受人に関しては、連帯保証の範囲と極度額(改正民法第465条の2対応)、連絡先の定期更新義務を定めます。解約条件として、滞納を理由とする契約解除の要件、催告期間、退去猶予期間、退去先確保への協力義務を明確にします。

口座振替と入居時審査

利用料は口座振替を基本とし、入居時に手続きを完了させます。残高不足が続く場合は、年金受給口座への変更も検討してください。

入居契約前には、入居者(またはその家族)の年金受給額、預貯金、その他収入を確認し、月額利用料を持続的に支払えるか判断します。ただし確認にあたっては入居者のプライバシーに十分配慮し、必要最小限の情報に限定してください。

未収金が発生した場合の回収手順

入居者への配慮と段階的な対応

老人ホームの未収金回収は、入居者の居住安定を確保する福祉的観点が不可欠です。次の段階で対応します。

第一段階として、入居者本人または身元引受人に電話で状況を確認します。支払い意思の有無と、困難な場合はその理由を把握します。

第二段階として、分割払いの提案や、行政の福祉サービス(生活保護の申請、成年後見制度の利用など)への橋渡しを行います。支払い困難の根本原因を解決する支援も施設の役割です。

第三段階として、書面での催告を行い、身元引受人にも連帯保証に基づく支払いを催告します。

第四段階として、催告に応じない場合は法的手続き(少額訴訟、支払督促等)を検討します。退去を求める際は、老人福祉法や高齢者住まい法の趣旨を踏まえ、退去先の確保に協力するなど入居者保護に配慮した対応が求められます。

成年後見制度と生活保護の活用

認知症等で判断能力が低下した入居者には、成年後見制度の利用を検討します。成年後見の申立ては、本人・配偶者・4親等内の親族のほか、市区町村長も行うことができます(老人福祉法第32条)。家族の協力が得られない場合は、地域包括支援センターに相談してください。

収入が低下した入居者には、生活保護の申請を支援することも重要です。生活保護が適用されれば、介護扶助として介護サービス費の自己負担分が給付されます(生活保護法第15条の2)。ただし、施設が生活保護の指定介護機関として指定されていることが前提です。

未収金が長期化して自社での回収が難しい場合は、未収金買取の仕組みと活用方法も選択肢として検討してみてください。

回収不能となった未収金の帳簿上の処理については、未収金の会計処理についてで詳しく解説しています。

まとめ

要点

  • 入居契約書に極度額(民法第465条の2)を含む保証条項、支払条件、解約条件を明記し、口座振替を標準の支払方法とする
  • 滞納は放置せず段階的に対応し、分割払いの提案や行政サービスへの橋渡しを行ったうえで、回復が見込めない場合に法的手続きへ移行する
  • 成年後見制度(老人福祉法第32条)や生活保護(生活保護法第15条の2)など、公的制度の活用を視野に入れる

今週やるべきことは次の3つです。

  1. 入居契約書を確認し、極度額の記載がない保証契約がないか棚卸しする
  2. 現時点で滞納が発生している入居者のリストを作成し、滞納月数と金額を把握する
  3. 身元引受人の連絡先が最新かどうかを確認し、連絡不能になっているケースを特定する

未収金の回収や債権管理で判断に迷う場合は、無料相談窓口で債権の状態、回収状況、処理方針を共有してください。

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よくある質問

Q. 入居者が利用料を滞納しています。退去を求めることはできますか?
A. 入居契約書に滞納を理由とする解約条項がある場合、一定期間の催告を経て契約を解除し退去を求めることが可能です。ただし、高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)や老人福祉法の趣旨を踏まえ、退去先の確保など入居者の保護に配慮した対応が求められます。
Q. 入居者が認知症で支払い能力がない場合、家族に請求できますか?
A. 入居者本人が契約当事者であれば、原則として家族に直接の支払義務はありません。ただし、身元引受人(連帯保証人)が設定されていれば、連帯保証契約に基づいて請求できます。2020年施行の改正民法では、個人の根保証契約に極度額の定めが必要です(民法第465条の2)。
Q. 生活保護受給者の入居者について、自治体からの給付が遅延しています。
A. 生活保護の介護扶助は自治体から介護事業者に直接支払われる代理納付が原則です(生活保護法第54条の2)。支払い遅延がある場合は、管轄の福祉事務所に確認してください。代理納付が行われない場合は、被保護者本人への請求となりますが、回収は現実的に困難なケースが多いです。
Q. 介護保険の報酬請求(レセプト)が返戻された場合の対応は?
A. 国保連合会からのレセプト返戻は、請求内容の不備が原因です。返戻理由を確認し、修正のうえ再請求を行ってください。再請求の期限(サービス提供月の翌月から2年以内)に注意が必要です。返戻が繰り返される場合は、請求事務の体制を見直す必要があります。

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