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最終契約書(DA)の要点と注意事項|M&A実務ガイド

M&Aの最終契約書(DA)で定めるべき主要条項と注意点を解説。表明保証、補償条項、クロージング条件など中小企業M&Aの実務をまとめました。売り手・買い手別の交渉ポイントも掲載しました。

M&Aのプロセスにおいて、デューデリジェンスの完了後に締結されるのが「最終契約書(DA: Definitive Agreement)」です。株式譲渡の場合は株式譲渡契約書(SPA)、事業譲渡の場合は事業譲渡契約書と呼ばれ、取引の確定条件を法的に拘束力のある形で規定する、M&Aの最も重要な書面にあたります。

中小企業のM&Aでは仲介会社がひな形を用意するケースもありますが、表明保証や補償条項の内容は個々の案件に応じたカスタマイズが不可欠です。本記事では、最終契約書に盛り込むべき主要条項と、売り手・買い手それぞれの立場から注意すべきポイントを解説します。

最終契約書の概要と構成

最終契約書の役割

最終契約書は、M&Aの取引条件を法的に確定させる文書です。基本合意書(LOI)の段階では暫定的だった価格・スキーム・条件が、デューデリジェンスの結果を反映して確定されます。

最終契約書の締結後、クロージング条件が充足された時点でクロージング(株式の引渡しと代金の支払い)が実行されます。サイン(署名)とクロージングを同日に行う「サイン&クロージング」のケースもありますが、中小企業のM&Aでは一定期間を空ける「分離型」が多い傾向です。

契約書の基本構成

最終契約書は通常、定義条項、取引の内容と対価、表明保証、クロージング前の誓約事項、クロージング条件、補償条項、解除条項、一般条項の順で構成されます。株式譲渡契約書の場合で40ページから80ページ程度の分量になるのが一般的です。

主要条項の解説

取引の内容と対価

譲渡対象(株式数、事業範囲等)と取引価格を確定的に定める条項です。価格調整条項(プライスアジャストメント)として、クロージング日時点の純資産額や運転資本の変動に応じて最終的な対価を調整する仕組みが組み込まれることもあります。

中小企業のM&Aでは、取引価格を固定額とするケースが多いものの、デューデリジェンスで発見された修正事項を反映した価格調整が行われる場合もあります。

表明保証

表明保証と補償条項の設計が、M&A後のリスク管理に直結します。中小企業のM&Aであっても弁護士によるリーガルレビューは必須です。

表明保証は、最終契約書の中核を成す条項の一つです。売り手は対象会社の状態について一定の事実を表明し、その正確性を保証します。

売り手の表明保証として代表的なものは、財務諸表が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されていること、帳簿に記載のない簿外債務が存在しないこと、重要な法令違反や係属中の訴訟がないこと、重要な取引先との関係に変動がないこと、税務申告が適正に行われていることなどです。

表明保証の範囲と限定(重要性の基準、開示例外)は、売り手と買い手で利害が対立する部分であり、交渉の焦点となります。

補償条項(インデムニティ)

表明保証の違反、誓約事項の不履行、その他の契約違反があった場合に、相手方が被った損害を填補する義務を定める条項です。

補償条項では、補償の上限額(キャップ)、最低請求額(バスケット/デミニミス)、補償請求の期限(サバイバル期間)が重要な交渉ポイントとなります。中小企業のM&Aでは、補償の上限額を取引価格の10%から30%程度に設定するのが一般的です。サバイバル期間は1年から3年程度が多く見られます。

クロージング条件

クロージングの実行に先立って充足されるべき前提条件を定めます。代表的なクロージング条件としては、表明保証がクロージング日においても真実かつ正確であること、重要な許認可や取引先の同意が取得されていること、対象会社に重大な悪影響(MAC: Material Adverse Change)が発生していないこと、競争法上の届出・待機期間が完了していることなどが挙げられます。

クロージング前の誓約事項

契約締結日からクロージング日までの間、対象会社の事業を通常の範囲で運営する義務(オーディナリーコース条項)を売り手に課します。大規模な設備投資、重要な契約の締結・変更・解除、役員の変更、配当の実施などを制限し、対象会社の事業価値がクロージングまでに毀損されることを防ぎます。

競業避止義務

売り手(特にオーナー経営者)がM&A後に同業の事業を開始することを一定期間制限する条項です。期間は2年から5年程度、地理的範囲を限定して設定されるのが通例です。

売り手・買い手それぞれの注意点

売り手の留意事項

売り手は表明保証の範囲を過度に広げないこと、買い手はDDで発見したリスクが適切にカバーされているかの確認が、それぞれ最重要の交渉ポイントです。

売り手としては、表明保証の範囲を過度に広げないことが重要です。自社が認識している事項についてはディスクロージャー・レター(開示書面)で例外として開示し、表明保証違反のリスクを低減します。また、補償の上限額と期間についても合理的な水準に収まるよう交渉することが必要です。

買い手の留意事項

デューデリジェンスで発見したリスクが表明保証と補償条項で適切にカバーされているかを確認することが肝要です。特に簿外債務や偶発債務のリスクについては、特別補償条項(スペシフィック・インデムニティ)として個別に手当てすることを検討してください。

まとめ

要点

  • 最終契約書はM&Aの取引条件を法的に確定させる最重要文書であり、表明保証と補償条項の設計がM&A後のリスク管理に直結する
  • 補償の上限額(キャップ)は取引価格の10%〜30%、サバイバル期間は1〜3年が中小企業M&Aの一般的な水準
  • 売り手はディスクロージャー・レターの活用、買い手は特別補償条項の検討がそれぞれ重要な交渉戦略となる

最終契約書に至るまでの流れは基本合意書(LOI)の書き方で、DDの実務はデューデリジェンスの進め方で解説しています。

最終契約書の作成やM&Aの手続きに関するご相談は、無料相談からご連絡ください。

よくある質問

Q. 最終契約書と基本合意書の違いは何ですか?
A. 基本合意書(LOI)はM&Aの基本条件に関する予備的な合意であり、原則として法的拘束力を持ちません。一方、最終契約書(DA)はデューデリジェンス後に締結される法的拘束力のある契約書であり、取引の確定条件が記載されます。最終契約書の締結をもってM&Aの条件が法的に確定し、クロージングへ進みます。
Q. 表明保証とは何ですか?
A. 表明保証とは、売り手(または買い手)が一定の事実が真実かつ正確であることを相手方に表明し、その内容を保証する条項です。売り手の表明保証としては、財務諸表の正確性、簿外債務の不存在、重要な訴訟の不存在などが代表的です。表明保証に違反した場合は、補償(インデムニティ)請求の対象となります。
Q. クロージング条件とはどのような内容ですか?
A. クロージング条件とは、M&Aの実行(株式の譲渡や対価の支払い)を行うために充足されるべき前提条件です。許認可の取得、表明保証の正確性の維持、重要な契約の承継に関する同意取得などが設定されます。条件が充足されない場合、当事者は契約の解除が可能です。
Q. 最終契約書の交渉にはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 中小企業のM&Aでは、デューデリジェンス完了後から最終契約書の締結まで2〜4週間程度が一般的です。ただし、表明保証の範囲や補償条項の上限額をめぐる交渉が難航する場合は、さらに時間を要することもあります。

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