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健診義務を果たしてリスク回避

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健康診断の義務と費用相場|違反罰則50万円を避ける中小企業の実務ガイド【2026年版】

「パートも対象?費用は誰が払う?」健康診断の義務・費用負担(相場5,000〜15,000円/人)・対象範囲を中小企業向けに整理。違反時の罰則、電子申請義務化、協会けんぽ補助の活用法まで労務担当者が迷うポイントを解説します。

「うちは小さい会社だから関係ない」。健康診断について、そう考えている経営者は少なくありません。しかし、従業員が1人でもいれば、健康診断の実施は労働安全衛生法第66条で事業者に課せられた法的義務です。企業規模による例外はありません。

健康診断を実施しなかった場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります。罰金だけでなく、従業員が過労や疾病で倒れた際に「健康診断を実施していなかった」という事実が安全配慮義務違反の根拠となり、損害賠償責任を問われるリスクもあります。

本記事では、健康診断の実施義務の範囲、費用負担のルール、中小企業の実務対応まで、経営者・労務担当者が押さえるべきポイントを解説します。

健康診断の実施義務 ── 種類と対象範囲

一般健康診断(雇入時・定期)

労働安全衛生法第66条第1項に基づき、事業者は労働者に対して一般健康診断を実施する義務を負います。一般健康診断には「雇入時」と「定期」の2つがあります。

雇入時の健康診断(労働安全衛生規則第43条)は、労働者を雇い入れる際に実施します。雇入れ後速やかに行い、原則として省略できる項目はありません。ただし、入社前3か月以内に医師の健康診断を受けており、その結果を書面で提出した場合は、該当項目を省略できます。

定期健康診断(労働安全衛生規則第44条)は、1年以内ごとに1回、常時使用する労働者を対象に実施します。検査項目は身長・体重・腹囲・視力・聴力・胸部エックス線検査・血圧・貧血検査・肝機能検査・血中脂質検査・血糖検査・尿検査・心電図検査などです。年齢や直近の健診結果により、医師の判断で一部項目を省略できる場合があります。

特殊健康診断

有機溶剤・鉛・石綿・特定化学物質などを取り扱う業務や、騒音を伴う業務に従事する労働者に対しては、労働安全衛生法第66条第2項に基づき、特殊健康診断を6か月以内ごとに1回実施する義務があります。

2023年の省令改正により、一定の条件を満たせば実施頻度を年2回から年1回に緩和できる対象業務が拡大されました。自社の業務が該当するか判断が難しい場合は、担当の産業医や所轄の労働基準監督署に確認してください。

対象となる労働者 ── パート・派遣の扱い

健康診断の対象となる「常時使用する労働者」とは、以下の2つの要件をいずれも満たす者を指します。

1つ目は、期間の定めのない契約で使用されている者であること(有期契約の場合は、契約期間が1年以上、または1年以上引き続き使用されている者・使用が予定されている者)。2つ目は、1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であることです。

パートタイマーの適用判断

所定労働時間が4分の3未満であっても、2分の1以上であれば健康診断の実施が望ましいとされています(平成19年10月1日基発第1001016号通達)。パートタイマーが多い業種では、誰が対象になるかを就業形態ごとに一覧表にして整理しておくことが重要です。

派遣労働者については、一般健康診断は派遣元が実施義務を負います。一方、有害業務に関する特殊健康診断は派遣先が実施義務を負います(労働者派遣法第45条)。派遣社員を受け入れている場合、特殊健康診断の対象業務に該当しないか必ず確認が必要です。

費用負担のルールと相場

法定の健康診断は全額会社負担

法定の健康診断にかかる費用は、使用者が全額負担すべきとされています。これは昭和47年9月18日基発第602号通達で明確に示された行政解釈であり、費用を労働者に転嫁することは認められません。

定期健康診断の費用相場は、1人あたり5,000円〜15,000円程度です。地域・医療機関・検査内容によって幅がありますが、健診の種類ごとの目安は以下のとおりです。

健診の種類費用相場(1人あたり)実施頻度備考
定期健康診断(法定11項目)5,000〜8,000円年1回法定義務。全額会社負担
定期健康診断(フルコース)8,000〜15,000円年1回胸部X線・心電図含む
特殊健康診断5,000〜25,000円6か月に1回有害業務従事者向け。検査項目で変動大
ストレスチェック300〜1,000円年1回50人以上の事業場で義務(労働安全衛生法第66条の10)
人間ドック(任意)30,000〜50,000円任意法定義務なし。福利厚生として導入する企業も多い

従業員20人の企業が定期健康診断のみ実施する場合、年間費用は10万〜30万円程度です。特殊健康診断やストレスチェックが加わると上乗せになりますが、助成金・保険者補助を活用すれば実質負担を抑えられます。

協会けんぽの費用補助(2026年度)

協会けんぽ(全国健康保険協会)では、35歳以上の加入者を対象に一般健診の費用補助を行っています。自己負担額は約5,282円です。2026年度からは人間ドック費用に対する一律25,000円の補助制度も開始されました。健康保険組合でも独自の補助制度を設けている場合があるため、健診機関を手配する前に加入している保険者の補助メニューを確認してください。

法定項目を超えるオプション検査(胃カメラ・乳がん検診・人間ドックなど)の費用は、会社に負担義務がありません。福利厚生として会社が負担するか、個人負担とするかは労使間の取り決めで定めます。

受診時間中の賃金はどうなるか

一般健康診断の受診時間について、賃金の支払義務を直接定めた法律はありません。行政通達では「受診に要した時間の賃金は労使間の協議によって定めるべきであるが、円滑な受診を考えれば、事業者が支払うことが望ましい」としています。実務上は、受診時間を有給扱いとしている企業が多数です。

特殊健康診断の受診時間は、有害業務に従事させるために事業者が行うべき健診であるため、労働時間として取り扱い、賃金を支払う必要があります。所定労働時間外に実施した場合は、割増賃金の対象にもなります。

中小企業が実務で押さえるべき対応

健診実施の3つの方法

中小企業が健康診断を実施する方法は、大きく3つに分かれます。

1

個別受診方式

近隣の医療機関や健診機関に、従業員が個別に受診する方法。最も手軽で、少人数の企業に向いています。複数の機関から見積りを取り、費用を比較してください。

2

巡回健診方式

巡回健診業者が機材を持参し、事業所内で集団実施する方法。受診のための移動時間が不要になり、従業員数が多い場合に効率的です。

3

地域産業保健センターの活用

50人未満の事業場では、地域産業保健センターを通じて医師の意見聴取や保健指導を無料で受けられます。費用面の負担を軽減できるため、積極的に活用する価値があります。

年間スケジュールに組み込む

健康診断は「やらなければ」と思いつつ後回しにされがちです。年度初めに実施月を決め、年間スケジュールに組み込んでおくと漏れを防げます。たとえば毎年6月に実施すると決めておけば、4月に健診機関を手配し、5月に従業員へ日程を案内し、6月に受診、7月に結果取りまとめという流れが定着します。

受診率が低い企業では、[就業規則](/roumu/shuugyou-kisoku-guide/)に健康診断の受診義務と、正当な理由なく拒否した場合の取扱いを明記しておくことが有効です。

罰則規定 ── 違反するとどうなるか

労働安全衛生法第120条の罰金

健康診断を実施しなかった事業者には、労働安全衛生法第120条に基づき50万円以下の罰金が科されます。この罰則は企業規模にかかわらず適用されるため、「小さい会社だから見逃してもらえる」ということはありません。

罰金の対象となる違反は、以下のように複数あります。

違反内容根拠条文罰則
健康診断の未実施労働安全衛生法第66条50万円以下の罰金
健診結果の未通知同法第66条の650万円以下の罰金
健診個人票の未保存安衛則第51条50万円以下の罰金
報告書の未提出(50人以上)安衛則第52条50万円以下の罰金
産業医の未選任(50人以上)同法第13条50万円以下の罰金

罰金だけでは済まないリスク

実務上、50万円の罰金よりも重大な影響をもたらすのが民事上の損害賠償責任です。従業員が脳・心臓疾患や精神疾患を発症した際、健康診断を実施していなかったり、異常所見への事後措置を怠っていたりすると、安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として数千万円規模の賠償を命じられた判例があります。

労働基準監督署の調査(臨検監督)は、従業員からの申告や労災発生を契機に行われることが多く、健康診断の実施記録が確認されます。記録がなければ是正勧告、改善しなければ送検という流れをたどります。

労災発生時に最も問題になる

従業員が業務上の疾病で倒れた場合、労基署は真っ先に健康診断の実施状況を確認します。「健診をやっていなかった」という事実は、法令違反であると同時に安全配慮義務違反の有力な証拠にもなるため、二重のリスクを抱えることになります。

産業医選任義務との関連

従業員50人以上の分水嶺

従業員数が常時50人以上になると、事業場に求められる義務が大きく変わります。健康診断の実施義務そのものは1人からですが、50人を境に以下の義務が追加されます。

義務の内容根拠対応期限
産業医の選任労働安全衛生法第13条50人到達から14日以内
衛生管理者の選任同法第12条50人到達から14日以内
衛生委員会の設置同法第18条速やかに
ストレスチェックの実施同法第66条の10年1回
定期健診結果報告書の提出安衛則第52条遅滞なく

産業医は、健康診断結果に基づく就業上の措置について医学的な意見を述べる役割を担います。健診の実施と事後措置を一貫して管理するうえで、産業医との連携は欠かせません。

50人未満の事業場の対応

50人未満の事業場には産業医の選任義務がないものの、健診後の医師の意見聴取は必要です。この場合、地域産業保健センター(独立行政法人労働者健康安全機構が運営)の無料サービスを利用できます。

地域産業保健センターでは、医師による健診結果の意見聴取だけでなく、長時間労働者への面接指導や高ストレス者への面談にも対応しています。50人未満の企業でも「健診を受けて終わり」にせず、異常所見のある従業員への対応を産業保健の専門家と進められる仕組みが用意されています。

労働時間の管理方法残業管理の実務と合わせて、長時間労働者への医師面接の要否判断にも活用できるため、積極的に問い合わせてみてください。

健診結果に基づく事後措置

結果の通知・保存・医師の意見聴取

健康診断を実施したら、結果を労働者本人に通知する義務があります(労働安全衛生法第66条の6)。同時に、健康診断個人票を作成して5年間保存しなければなりません(労働安全衛生規則第51条)。

結果は要配慮個人情報に該当します。産業医・衛生管理者など業務上必要な者のみが閲覧できるよう管理体制を整え、権限のない従業員がアクセスできない状態を保ってください。

異常の所見があった労働者については、健診実施から3か月以内に医師の意見を聴取する必要があります(労働安全衛生法第66条の4)。その意見を踏まえ、就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮・深夜業の回数の減少といった就業上の措置を講じます(同法第66条の5)。

50人未満の事業場向け無料サービス

産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、独立行政法人労働者健康安全機構が運営する地域産業保健センターで、医師による意見聴取や保健指導を無料で受けられます。「産業医がいないから意見聴取ができない」とはなりません。制度を知らずに放置しているケースが多いため、早めに地元のセンターに問い合わせてみてください。

労働基準監督署への報告義務

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断の結果を所轄の労働基準監督署に報告する義務があります(労働安全衛生規則第52条)。

50人未満の事業場には報告義務はありませんが、健康診断の実施義務そのものは同じです。「報告しなくていい」と「やらなくていい」は別の話である点に注意が必要です。

2025年1月施行:電子申請の義務化

2025年1月から、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断結果報告書などの労働安全衛生法関係手続きについて電子申請が原則義務化されました。

厚生労働省が提供する無料の入力支援サービスを使い、e-GovのIDとパスワードでログインして手続きを行います。電子署名は不要で、スマートフォンからも操作できます。

50人未満の事業場はこの電子申請義務の対象外ですが、健診の実施・記録保存・結果通知・事後措置の義務は企業規模にかかわらず発生します。

健康診断と密接に関連する従業員のメンタルヘルス対策については、メンタルヘルス対策の進め方で詳しく解説しています。また、健康診断と併せて整備しておきたい労働保険の加入手続き福利厚生制度の設計についてもあわせてご確認ください。

健康診断の受診義務を就業規則に明記しておくと、受診拒否への対応がスムーズになります。従業員50人以上の企業で社会保険の適用拡大への対応が必要な場合は、健診対象者の見直しもあわせて検討してください。

まとめ

この記事のポイント

  • 従業員1人からでも健康診断の実施義務がある。費用(1人5,000〜15,000円)は全額使用者負担
  • 違反した場合は労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰金。さらに安全配慮義務違反の損害賠償リスクも
  • パートタイマーは所定労働時間が通常の3/4以上なら対象。派遣労働者は一般健診が派遣元、特殊健診が派遣先の義務
  • 従業員50人以上になると、産業医選任・衛生委員会設置・ストレスチェック・監督署報告が追加で義務化
  • 異常所見があれば3か月以内に医師の意見聴取と就業上の措置が必要。健診結果は5年間保存
  • 50人未満の事業場は地域産業保健センターの無料サービスを活用し、産業医不在でも事後措置に対応できる

労務管理や就業規則の整備で確認事項がある場合は、無料相談からご連絡ください。

よくある質問

Q. 健康診断の費用は会社が全額負担する義務がありますか?
A. はい。労働安全衛生法に基づく法定の健康診断にかかる費用は、使用者が全額負担すべきとされています(昭和47年9月18日基発第602号通達)。法定項目を超えたオプション検査(人間ドック・がん検診等)は労使間の取り決めによります。
Q. 中小企業でも健康診断の実施義務はありますか?
A. 従業員が1人でもいれば、企業規模を問わず義務が発生します(労働安全衛生法第66条)。違反した場合は50万円以下の罰金が科される可能性があります。50人未満の事業場は労働基準監督署への報告義務はないものの、実施義務自体は同じです。
Q. パートタイマーにも健康診断を受けさせる義務はありますか?
A. 1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であるパートタイマーは対象です(平成19年10月1日基発第1001016号通達)。4分の3未満でも、2分の1以上であれば実施が望ましいとされています。
Q. 定期健康診断の費用相場はいくらですか?
A. 1人あたり5,000円〜15,000円程度が目安です。地域や医療機関、検査内容によって差があります。協会けんぽの補助制度を利用すれば一般健診が約5,282円で受診できるケースもあるため、加入している保険者に補助の有無を確認するとコストを抑えられます。
Q. 健康診断を受けない従業員にはどう対応すべきですか?
A. 労働者にも受診義務があります(労働安全衛生法第66条第5項)。まず受診の必要性を説明し、それでも拒否する場合は就業規則に基づく受診命令を出します。正当な理由のない拒否が続けば、就業規則の定めに従い懲戒処分の対象となりえます。
Q. 健康診断の結果はどのくらい保存する必要がありますか?
A. 健康診断個人票を作成し、5年間保存する義務があります(労働安全衛生規則第51条)。結果は要配慮個人情報に該当するため、閲覧権限を産業医や衛生管理者等の業務上必要な者に限定し、個人情報保護法に基づく管理が求められます。
Q. 健康診断の受診時間は労働時間に含まれますか?
A. 一般健康診断の受診時間は法律上の明確な規定がなく、労使の協議で決めます。行政通達では事業者が賃金を支払うことが望ましいとされています。一方、特殊健康診断の受診時間は労働時間として扱い、賃金を支払う必要があります。
Q. ストレスチェックも健康診断と同じように実施義務がありますか?
A. 常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェック実施が義務です(労働安全衛生法第66条の10)。費用は1人あたり300〜1,000円程度で、会社負担となります。50人未満の事業場は努力義務ですが、地域産業保健センターの無料相談を活用して実施することも可能です。

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