労働審判は初動が勝負を分ける
労働審判への対応方法|中小企業が知っておくべき手続き
労働審判制度の概要と中小企業が対応すべき手続きの流れを解説。申立てから審判確定までのスケジュール、答弁書の準備、和解交渉のポイントをまとめています。
労働審判は、解雇や未払い残業代、ハラスメントなどの個別労働紛争を迅速に解決するための裁判手続きです。労働審判法(平成16年法律第45号)に基づき2006年4月から運用が開始され、原則3回以内の期日で審理が終結するという迅速性が特徴です。中小企業にとって、従業員や元従業員から労働審判を申し立てられた場合、短期間で適切な対応を行わなければ不利な結果を招くリスクがあります。本記事では、労働審判の仕組みと中小企業が取るべき対応について解説します。
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労働審判制度の概要と特徴
労働審判は、労働者個人と事業主との間の個別労働関係紛争を対象とした制度です。労働組合と使用者の間の集団的労働紛争は対象外であり、別途、労働委員会による不当労働行為審査手続き等の対象となります。
労働審判委員会の構成
労働審判は、労働審判官(裁判官)1名と、労働関係に関する専門的知識経験を有する労働審判員2名(使用者側・労働者側各1名)の合計3名で構成される労働審判委員会によって審理されます(労働審判法第7条)。労働審判員は、労働組合の役員経験者や企業の人事労務担当経験者などから選任されるため、現場の実態を踏まえた判断が期待できます。
対象となる紛争
労働審判の対象は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争です(労働審判法第1条)。典型的には、解雇・雇止めの有効性、未払い賃金・残業代の請求、退職金の請求、ハラスメントに基づく損害賠償請求、配置転換・出向命令の有効性などが対象となります。
通常訴訟との違い
通常の民事訴訟では解決まで1〜2年程度を要することが一般的ですが、労働審判は原則3回以内の期日で審理を終結させなければならないとされています(労働審判法第15条第2項)。この迅速性が労働審判制度の最大の特徴であり、企業側にとっても長期にわたる訴訟負担を回避できるメリットがあります。一方で、準備期間が限られるため、短期間で証拠の収集と主張の整理を行う必要がある点に留意が必要です。
労働審判を申し立てられた場合の対応手順
労働審判の申立てを受けた場合、限られた時間の中で効果的な対応を行うことが重要です。申立てから審判確定までの流れと各段階での対応ポイントを解説します。
申立書の受領と初動対応
裁判所から労働審判の申立書(相手方の主張と証拠書類)が届いたら、速やかに内容を確認します。申立書には、申立ての趣旨(相手方が求める結論)と申立ての理由(事実関係と法的主張)が記載されています。
初動対応として最も重要なのは、労働法に精通した弁護士への早期相談です。第1回期日は申立てから約40日後に指定されることが多く、答弁書の提出期限は第1回期日の約1週間前に設定されるのが通常です。弁護士への依頼が遅れると、答弁書の準備が不十分となり、企業側に不利な結果を招くおそれがあります。
答弁書の作成と証拠の準備
答弁書は、申立人の主張に対する企業側の反論を記載する書面です。労働審判では3回以内の期日で審理が終結するため、第1回期日までに企業側の主張と証拠を可能な限り網羅的に提出することが極めて重要です。通常訴訟と異なり、後から追加主張や追加証拠を提出する機会が限られるためです。
答弁書に記載すべき事項として、申立ての趣旨に対する答弁(申立て棄却を求める旨)、申立書に記載された事実に対する認否、企業側の主張する事実関係と法的主張があります。証拠としては、雇用契約書、就業規則、賃金台帳、タイムカード、人事評価記録、業務上のメールやチャット記録、指導記録などが典型的です。
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期日における審理と調停
第1回期日では、労働審判委員会が双方の主張と証拠を検討し、争点の整理を行います。申立人と相手方(企業側)の双方が出席し、労働審判委員会から事実関係について質問が行われます。企業側の代表者や担当者は、事実関係を正確に説明できるよう準備しておく必要があります。
労働審判手続きでは、審理の過程で調停(話し合いによる和解)が試みられます(労働審判法第1条)。実務上、労働審判事件の約7割が調停により解決しているとされており、審判に至るケースは少数です。調停は双方が合意すれば成立し、確定判決と同一の効力を持ちます(労働審判法第29条、民事調停法第16条)。
調停が成立しない場合、労働審判委員会は審判を下します。審判に対して2週間以内に異議申立てがなければ確定し、確定判決と同一の効力を有します。異議が申し立てられた場合は通常の民事訴訟手続きに移行します。
中小企業が日頃から備えるべきこと
労働審判への対応は、申立てを受けてからでは間に合わない面があります。日頃からの労務管理体制の整備が、労働審判のリスク軽減につながります。
就業規則と労務書類の整備
就業規則は常時10人以上の労働者を使用する事業場において作成と届出が義務付けられていますが(労働基準法第89条)、10人未満の事業場でも作成しておくことが望ましいといえます。解雇事由、懲戒事由と手続き、賃金の計算方法、労働時間の管理方法などが明確に定められていることが、紛争時の重要な根拠となります。
労働条件通知書の交付(労働基準法第15条)、36協定の締結と届出(労働基準法第36条)、賃金台帳の作成と保存(労働基準法第108条)、出勤簿やタイムカードの保存(賃金台帳の保存期間は5年間、当分の間は3年間の経過措置あり。労働基準法第109条、附則第143条第3項)など、法定の書類を適正に作成・保存しておくことが重要です。
人事評価と指導記録の文書化
能力不足や勤務態度不良を理由とする解雇が争われた場合、企業側が指導・教育を行った記録や改善の機会を付与した証拠がなければ、解雇の有効性を主張することが困難になります。日常的な業務指導の内容と日時、改善目標の設定と進捗確認、面談の記録などを文書化しておくことが労務リスクの軽減につながります。
未払い残業代リスクへの対応
労働審判で最も多い申立て類型の一つが未払い残業代の請求です。労働時間の適正な把握と管理が不可欠であり、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省)に沿った運用を行うことが求められます。固定残業代制度を導入している場合は、その有効要件(基本給との明確な区分、対象時間数の明示、超過分の追加支払い)を満たしているかを確認しましょう。
労働審判における和解(調停)のポイント
前述のとおり、労働審判事件の多くは調停による和解で解決します。企業側として、和解に臨む際のポイントを整理します。
解決金の相場と交渉
解雇に関する労働審判では、復職ではなく金銭解決(解決金の支払い)によって和解が成立するケースが多いとされています。解決金の金額は、事案の内容、勤続年数、解雇の態様、未払い賃金の有無などによって異なりますが、賃金の3〜6か月分程度が一つの目安とされることがあります。ただし、これはあくまで傾向であり、個別の事案によって大きく異なります。
和解条項の確認事項
調停が成立する場合、調停条項の内容を慎重に確認する必要があります。解決金の金額と支払い時期、退職日の確定、離職票の離職理由(会社都合か自己都合か)、秘密保持条項(和解内容を第三者に口外しないこと)、清算条項(当事者間に他に債権債務がないことの確認)などが主要な確認事項です。
訴訟移行のリスク判断
調停が成立せず審判が下された場合、異議を申し立てて通常訴訟に移行するかどうかの判断が必要です。訴訟に移行した場合、審理期間は1〜2年以上に及ぶことがあり、弁護士費用を含む訴訟コストも増加します。労働審判の結果と訴訟のリスク・コストを比較検討し、弁護士と協議のうえで方針を決定しましょう。
まとめ
この記事のポイント
- 労働審判は原則3回以内の期日で終結。速やかに弁護士に相談し答弁書を準備する
- 多くは調停(和解)で解決。解決金の水準と和解条項を事前に方針決定しておく
- 就業規則の整備・労務書類の保存・指導記録の文書化が日頃からのリスク軽減策
労務管理や就業規則の整備で確認事項がある場合は、無料相談からご連絡ください。
よくある質問
- Q. 労働審判とはどのような制度ですか?
- A. 労働審判は、労働審判法に基づき、個別労働関係紛争を迅速かつ適正に解決するための制度です。地方裁判所に申立てを行い、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理を行います。通常の民事訴訟に比べて短期間で結論が出る点が特徴です。
- Q. 労働審判の申立てから解決までどのくらいの期間がかかりますか?
- A. 労働審判法第15条により、原則として3回以内の期日で審理が終結します。実務上は申立てから約2〜3か月で審判が出されるケースが多く、通常の民事訴訟(1〜2年程度)に比べて大幅に短い期間で解決が図られます。ただし、異議申立てがあった場合は通常訴訟に移行します。
- Q. 労働審判を申し立てられた場合、弁護士に依頼すべきですか?
- A. 法的には弁護士への委任は必須ではありませんが、実務上は強く推奨されます。労働審判は3回以内の期日で終結するため、第1回期日までに充実した答弁書を作成し、証拠を整理する必要があります。労働法に詳しい弁護士に早期に相談することで、適切な対応が可能になります。
- Q. 労働審判の結果に不服がある場合はどうなりますか?
- A. 労働審判の告知を受けた日から2週間以内に異議を申し立てることができます(労働審判法第21条)。適法な異議申立てがあった場合、労働審判は効力を失い、労働審判の申立ての時に訴えの提起があったものとみなされて通常の民事訴訟手続きに移行します。