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中小企業の資本政策|増資・減資の実務

中小企業の資本政策(増資・減資)の手続きと実務を解説。第三者割当増資、DES、有償減資、無償減資の仕組みから、会社法・法人税法上の留意点まで経営者向けにまとめました。

会社の資本金は、設立時に決めたまま変更していない、という中小企業が多いのではないでしょうか。しかし、資本金の額は自己資本比率や税負担に直結するため、経営環境の変化に応じて見直すことが財務改善につながります。

資本金を増やす「増資」は財務基盤の強化に、資本金を減らす「減資」は欠損填補や税制メリットの活用に効果があります。いずれも会社法に基づく法定手続きが必要であり、税務上の影響も慎重に検討しなければなりません。

本記事では、中小企業の資本政策として増資・減資の仕組みと実務を解説します。

資本政策の基本と中小企業のメリット

資本金がBSと税務に与える影響

資本金はBS(貸借対照表)の純資産の部に計上され、自己資本の中核を構成します。資本金が大きいほど純資産が厚くなり、自己資本比率が高まります。金融機関は融資審査で自己資本比率を重視するため、資本金の増加は信用力の向上に寄与します。

資本金1億円超で中小企業の税制優遇が適用外に

資本金が1億円を超えると、法人税の軽減税率や交際費の損金算入特例、外形標準課税の適用除外など、多くの中小企業向け優遇が受けられなくなります。増資額の設計は税務面の検討が不可欠です。

一方、税務面では資本金の額によって適用される税制が異なります。法人税法では、資本金1億円以下の法人を「中小法人等」として、いくつかの税制優遇措置を設けています。

主な優遇措置として、法人税の軽減税率(年800万円以下の所得に対して15%、通常は23.2%)、貸倒引当金の損金算入、交際費等の損金算入の特例(年800万円まで全額損金算入可能)、少額減価償却資産の即時償却(取得価額30万円未満、年間合計300万円まで)などがあります。

また、地方税の法人住民税均等割は資本金等の額に応じて段階的に増加するため、資本金が大きくなると均等割の負担も増えます(地方税法第312条)。

増資の種類と活用場面

増資には主に3つの方法があります。

株主割当増資は、既存株主に対してその持株比率に応じて新株を割り当てる方法です。持株比率が変わらないため、既存株主の利害に影響しにくいのが特徴です。

第三者割当増資は、特定の第三者(取引先、金融機関、投資家など)に新株を割り当てる方法です。中小企業では事業提携先からの出資受入れに活用されます。既存株主の持株比率が希薄化するため、株主総会の特別決議が必要です(会社法第199条第2項、第309条第2項第5号)。

DES(デット・エクイティ・スワップ)は、金融機関等の債権者が保有する貸付金を現物出資して株式に転換する方法です。負債が減少し資本金が増加するため、BSが劇的に改善します。過剰債務の解消に有効ですが、既存株主の持株比率が大幅に希薄化する点に注意が必要です。

増資の手続き

募集株式の発行手続き

増資(募集株式の発行)の手続きは、会社法第199条以下に規定されています。

まず、募集事項の決定を行います。発行する株式の数、払込金額、払込期日、増加する資本金の額などを決定します。非公開会社(株式の譲渡制限がある会社)では、原則として株主総会の特別決議で募集事項を決定します。

次に、株式の引受けです。第三者割当の場合は、引受人に対して通知し、申込みを受け付けます。引受人が払込期日までに出資金を払い込むことで、株式が発行されます。

払込みが完了したら、変更登記を行います。資本金の額の変更登記は、払込期日から2週間以内に法務局に申請します(会社法第915条第1項)。登録免許税は増加する資本金の額の0.7%(最低3万円)です(登録免許税法別表第一)。

DES(デット・エクイティ・スワップ)の実務

DESは現物出資の一形態として、会社法第207条に基づいて行われます。金融機関が保有する貸付債権を現物出資し、代わりに株式の交付を受けます。

DESの税務上の取り扱いは複雑です。平成18年度税制改正以降、DESは原則として時価による現物出資として取り扱われます。債権の時価が額面を下回る場合、差額は債務消滅益として法人税の課税対象となります(法人税法第22条第2項)。

例えば、額面1億円の貸付金の時価が6,000万円と評価された場合、4,000万円の債務消滅益が発生し、課税される可能性があります。ただし、当該法人に繰越欠損金がある場合は、欠損金と相殺して税負担を軽減できます。

DESを実施する際は、債権の時価評価、課税関係のシミュレーション、金融機関との交渉を総合的に進める必要があり、税理士・弁護士・金融アドバイザーとの連携が不可欠です。

DESは繰越欠損金がある場合に特に有効

DESで債務消滅益が発生しても、繰越欠損金と相殺することで税負担を軽減できます。過去の赤字を「資産」として活用できる点で、債務超過企業にとっては有力な選択肢です。

減資の手続きと活用

無償減資(欠損填補のための減資)

無償減資は、資本金の額を減少させ、その減少額を「その他資本剰余金」に振り替えたうえで、累積した繰越欠損金と相殺する手続きです。会社の資産は増減せず、株主への払戻しも行わないため「無償」と呼ばれます。

繰越欠損金がBSの利益剰余金をマイナスにしている場合、無償減資によって欠損を一掃し、BSの見た目を改善できます。これにより、利益が出た際に配当可能な状態に戻すことや、金融機関への信用力改善のアピールに活用できます。

手続きとしては、株主総会の特別決議(会社法第447条第1項)と、債権者保護手続き(官報公告と個別催告、会社法第449条)が必要です。ただし、資本金の減少額が欠損の額を超えない場合は、債権者保護手続きが不要となります(会社法第449条第1項ただし書)。

有償減資(資本金の払戻し)

有償減資は、資本金を減少させ、減少額に相当する金銭等を株主に払い戻す手続きです。会社から資金が流出するため、債権者保護手続きが常に必要です。

有償減資では、株主に払い戻される金額のうち、資本金等の額に対応する部分を超える金額はみなし配当として課税されます(所得税法第25条第1項第4号、法人税法第24条第1項第5号)。個人株主に対してはみなし配当部分に所得税が課税され、法人株主に対しては受取配当等の益金不算入の適用が検討されます。

資本金1億円以下への減資

資本金が1億円を超える中小企業が、中小法人等の税制優遇措置を受けるために資本金を1億円以下に減資するケースがあります。

令和4年度税制改正では、資本金を1億円以下に減資しても資本剰余金が多額に残る「形だけの減資」に対する規制が強化されました。外形標準課税の判定において、資本金と資本剰余金の合計額が基準とされるようになったため(地方税法第72条の2)、減資だけで外形標準課税を回避することは難しくなっています。

減資による税制メリットを検討する際は、最新の税制改正の動向を踏まえ、税理士に相談することが重要です。

まとめ

この記事のポイント

  • 増資は自己資本の強化、減資は欠損填補・税制メリットに活用でき、経営環境に応じた戦略的な検討が財務体質の強化につながる
  • DESは過剰債務の解消に有効だが、債務消滅益の課税リスクがあるため繰越欠損金との相殺を含めたシミュレーションが必要
  • 減資は会社法上の特別決議・債権者保護手続きに加え、みなし配当課税や外形標準課税の影響を総合的に判断する

資本政策と合わせて検討したい自己資本比率の改善手法や、M&A・事業承継の局面で求められる財務デューデリジェンスの実務も参考にしてください。自社の増資・減資について専門家に相談したい方は無料相談をご利用ください。

よくある質問

Q. 増資と融資はどう違いますか?
A. 増資は返済義務のない資金調達であり、BSの純資産(自己資本)が増加します。融資は返済義務があり、BSの負債が増加します。増資は自己資本比率の改善に直結しますが、既存株主の持株比率が希薄化するデメリットがあります。融資は持株比率に影響しませんが、利息負担が生じます。
Q. 1円でも減資はできますか?
A. 会社法上、資本金の最低額に関する規定は撤廃されているため、資本金を1円にする減資も法律上は可能です。ただし、資本金が1,000万円未満になると消費税の免税事業者の要件(設立から2年間)を活用できるメリットがある一方、取引先や金融機関からの信用力に影響する可能性があります。
Q. 減資すると株主に税金はかかりますか?
A. 無償減資(資本金の額の減少のみで、株主に払戻しがない場合)は、株主に課税は生じません。有償減資(資本金を減らして株主に払戻しを行う場合)は、みなし配当として所得税が課税される部分が生じる可能性があります(所得税法第25条、法人税法第24条)。
Q. 中小企業がDESを実施する際の注意点は何ですか?
A. DESでは債権の時価と額面の差額が債務消滅益として課税対象になる可能性があります。繰越欠損金で相殺できるかを事前にシミュレーションすることが重要です。また、既存株主の持株比率が大幅に希薄化するため、株主構成への影響も検討してください。税理士・司法書士との事前協議が不可欠です。

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