800万円までは15%で守る、それ以上は本則税率
中小企業の法人税軽減税率|800万円ルールと適用除外・令和7年度改正の影響
中小企業に適用される法人税軽減税率15%(所得800万円以下)の仕組みと、軽減税率が使えない適用除外法人の条件を解説。令和7年度税制改正で延長された軽減税率特例と所得10億円超の中小法人に課される17%への引き上げ、地方税を含めた実効税率の試算まで2026年5月時点で整理します。
中小企業が支払う法人税には、所得800万円以下の部分について税率を低く抑える軽減税率の仕組みがあります。同じ売上規模・所得水準でも、大法人の本則税率23.2%と中小企業の軽減税率15%では、税負担に大きな差が生まれます。
本記事では、軽減税率の適用要件、適用除外となる法人の条件、令和7年度税制改正で延長・見直しされた内容、地方税まで含めた実効税率の計算まで、2026年5月時点の情報を整理します。
法人税の基本構造と中小企業の軽減税率
法人税は、法人の所得(益金から損金を引いたもの)に税率を掛けて計算します。本則税率は23.2%ですが、中小法人については所得800万円までの部分に軽減税率が適用される特例があります。
中小法人と大法人の税率比較
中小法人と大法人で適用される税率の違いを整理します。
| 区分 | 所得800万円以下の部分 | 所得800万円超の部分 |
|---|---|---|
| 中小法人(軽減税率特例適用) | 15%(本則19%・特例で2%引き下げ) | 23.2% |
| 中小法人(軽減税率特例不適用) | 19%(本則) | 23.2% |
| 大法人(資本金1億円超) | 23.2% | 23.2% |
中小法人については、本則19%に対し租税特別措置法で15%への引き下げ特例が設定されています。この特例は時限措置で、令和7年度税制改正により令和9年(2027年)3月31日までに開始する事業年度まで延長されました。
軽減税率の対象となる「中小法人」の定義
法人税法上の「中小法人」とは、各事業年度終了の時点で次のいずれかに該当する法人を指します。
- 資本金または出資金の額が1億円以下の普通法人
- 資本金または出資金を有しない普通法人(事業協同組合・人格のない社団等は別途要件)
- 公益法人等のうち収益事業を行うもの
ここでの「中小法人」は、中小企業基本法の中小企業(業種ごとに資本金や従業員数で定義)とは別の概念です。法人税法上の中小法人判定は資本金1億円が分岐点になります。
軽減税率が適用されない法人(適用除外法人)
資本金1億円以下であっても、次に該当する法人は軽減税率の適用から除外されます。
大法人の100%子法人
資本金または出資金が5億円以上の法人(大法人)に発行済株式・出資の全部を直接または間接に保有されている法人(完全支配関係にある法人)は、軽減税率の適用対象外です。これは中小法人税制の濫用防止のために設けられた除外規定です。
例えば、資本金10億円の親会社が100%出資して資本金3,000万円の子会社を設立した場合、子会社は資本金1億円以下であっても軽減税率は使えません。所得800万円以下の部分にも本則税率23.2%が適用されます。
投資法人・特定目的会社・受託法人など
投資信託および投資法人に関する法律に基づく投資法人、資産流動化法に基づく特定目的会社、受託法人については、軽減税率の対象から除外されています。
相互会社
保険業法に基づく相互会社(生命保険会社等)も、軽減税率の対象外です。
適用除外事業者の特例
過去3事業年度の所得金額の年平均が15億円を超える中小法人については、研究開発税制や中小企業投資促進税制など一部の中小企業向け税制が制限されます。軽減税率の特例(15%)そのものの適用除外ではありませんが、関連する優遇措置が使えなくなるため、注意が必要です。
令和7年度税制改正で追加された変更点
令和7年度(2025年4月開始の改正)税制改正で、中小法人軽減税率について2つの重要な変更がありました。
軽減税率特例の2年延長
時限措置だった軽減税率15%の特例は、令和7年度改正で2年間延長され、令和9年(2027年)3月31日までに開始する事業年度まで適用されることになりました。これにより、令和8年度・令和9年度の中小企業の税負担見通しが立てやすくなっています。
所得10億円超の中小法人は17%に引き上げ
令和7年度改正では、中小法人のうち所得が10億円を超える事業年度については、軽減税率を15%から17%に引き上げる改正が同時に行われました。所得800万円以下の部分について従来15%だったところ、所得10億円超の年度に限って17%が適用されます。
| 対象事業年度の所得規模 | 所得800万円以下の税率 | 適用開始 |
|---|---|---|
| 所得10億円以下 | 15%(従来どおり) | 引き続き適用 |
| 所得10億円超 | 17%(引き上げ) | 令和7年4月1日以後開始事業年度 |
実際に所得10億円を超える「中小法人」は限定的ですが、不動産売却益・株式売却益・特別利益などで一時的に所得が膨らむ年度には注意が必要です。
改正の背景と実務インパクト
所得10億円超の中小法人への17%引き上げは、税負担の公平性と中小法人税制の濫用防止が目的とされています。実際に対象となる法人数は限定的ですが、節税目的で資本金を1億円以下に圧縮しつつ大規模な事業を行う法人を念頭に置いた措置です。通常の中小企業の事業運営に大きな影響はありませんが、特別利益を計上する事業年度には所得規模を確認しておく必要があります。
法人税・地方税を含めた実効税率の計算
中小企業の実際の税負担を把握するには、法人税だけでなく地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税を含めた実効税率で考えます。
中小企業の実効税率(2026年5月時点)
中小企業の実効税率は、所得規模によって以下のように変動します。地方税は東京都の標準税率を前提とした参考値です。
| 所得規模 | 法人税の実質税率 | 地方法人税・住民税・事業税合計 | 実効税率(概算) |
|---|---|---|---|
| 所得400万円 | 15.0% | 約7.0% | 約22.0% |
| 所得800万円 | 15.0% | 約7.5% | 約22.5% |
| 所得1,500万円 | 約19.1%(軽減+本則の加重平均) | 約8.0% | 約27.1% |
| 所得3,000万円 | 約21.0% | 約8.5% | 約29.5% |
| 所得5,000万円 | 約21.9% | 約9.0% | 約30.9% |
| 所得1億円 | 約22.5% | 約9.0% | 約31.5% |
所得800万円までは実効税率が約22%に抑えられますが、所得が800万円を超えると本則税率23.2%が適用される部分が増え、実効税率は約30%前後まで上昇します。
具体的な計算過程は法人税の計算シミュレーションで所得別に詳しく整理しています。
軽減税率の節税インパクト
軽減税率15%と本則23.2%の差(8.2%)が、所得800万円以下の部分にどれだけの節税効果を生むかを試算します。
| 所得規模 | 軽減税率なし(19%固定) | 軽減税率15%適用 | 軽減税率による節税額 |
|---|---|---|---|
| 所得400万円 | 76万円 | 60万円 | 16万円 |
| 所得800万円 | 152万円 | 120万円 | 32万円 |
| 所得1,500万円 | 285万円 | 約282万円 | 約3万円(800万円超部分は本則) |
所得800万円以下の中小企業では、軽減税率15%の特例が直接的に大きな節税効果を生んでいます。仮にこの特例が廃止されると、所得800万円の中小企業で年間32万円の負担増になる試算です。
軽減税率を最大限活用するための実務ポイント
軽減税率の特例を活かしつつ、税負担を抑えるためのポイントを整理します。
所得を800万円以下に収める調整
所得が800万円を少し超える程度の中小企業の場合、決算前の役員報酬調整・賞与支給・経費の前倒し計上・設備投資の年内実行などで、所得を800万円以下に抑えるアプローチが考えられます。ただし、過度な調整は税務調査で否認されるリスクがあるため、節税目的だけでなく実態に基づいた処理にとどめる必要があります。
中小企業向け税制との併用
軽減税率の特例と並行して、中小企業向けの優遇税制を組み合わせます。
| 制度 | 概要 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 中小企業経営強化税制 | 認定設備投資の即時償却または税額控除(取得価額の10%) | 経営力向上計画の認定取得 |
| 中小企業投資促進税制 | 機械装置等の特別償却30%または税額控除7% | 業種・設備種類の要件あり |
| 所得拡大促進税制(賃上げ促進税制) | 給与等支給額の増加分について税額控除 | 雇用者給与等支給額が前年比一定割合以上増加 |
| 研究開発税制 | 試験研究費の税額控除(最大法人税額の25%程度) | 試験研究費の継続支出 |
| 欠損金の繰戻し還付 | 当期欠損金を前年度所得から控除し還付を受ける | 中小法人の青色申告 |
これらの制度を組み合わせることで、軽減税率と合わせて実効税率を更に押し下げることが可能です。
資本金1億円超への増資は慎重に
事業拡大に伴い資本金を1億円超に増資すると、軽減税率の適用対象から外れます。所得800万円以下の部分でも本則税率23.2%が適用されるため、年間32万円程度の負担増が見込まれます。資本金増資は事業上の必要性(金融機関の評価向上、対外信用力の向上など)と税負担増のバランスで判断する必要があります。
法人成りの判断材料
個人事業主が法人化を検討する場合、軽減税率の効果は重要な判断材料です。所得税の累進税率(5〜45%)と比較すると、所得600〜900万円程度を超える事業所得については、法人化したほうが軽減税率15%により税負担を下げられる可能性が高くなります。ただし、社会保険料負担、役員報酬の損金算入要件、決算公告義務などのコストも含めた総合判断が必要です。
軽減税率に関する申告実務
軽減税率の特例は、確定申告書に所定の記載をすることで適用されます。
申告書別表での記載
法人税確定申告書の別表一(法人税額の計算)で、所得金額を所得800万円以下と所得800万円超の部分に区分し、それぞれに該当する税率を適用して計算します。具体的には、別表一の税率欄に「800万円以下:15%」「800万円超:23.2%」と区分記載します。
電子申告(e-Tax)で申告する場合は、税率区分が自動計算される仕組みが組み込まれているため、所得金額を入力すれば適用税率の判定が自動で行われます。
適用除外法人に該当する場合の判定
期末時点で「資本金5億円以上の大法人の100%子法人」に該当するかどうかは、株主構成の確認が必要です。親会社の資本金は親会社の登記事項証明書で、完全支配関係の有無は株主名簿で確認します。中間期に株主構成が変動する場合は、期末時点での状況で判定します。
まとめ
この記事のポイント
- 中小法人(資本金1億円以下)には所得800万円以下の部分について軽減税率15%が適用される(本則19%の特例引き下げ)
- 大法人の100%子法人、相互会社、投資法人、特定目的会社などは資本金1億円以下でも軽減税率の適用除外
- 令和7年度税制改正で軽減税率特例は2年延長(令和9年3月31日まで)。同時に所得10億円超の中小法人については15%から17%へ引き上げ
- 中小企業の実効税率は所得800万円以下で約22%、所得規模が拡大すると約30%前後まで上昇。地方税まで含めた負担を把握する
- 中小企業経営強化税制・所得拡大促進税制・研究開発税制などと組み合わせることで実効税率をさらに押し下げられる
法人税・税務に関するご相談
軽減税率の適用判定、法人化のタイミング、決算前の所得調整、中小企業向け優遇税制の活用など、法人税に関する具体的なご相談は無料相談窓口へお問い合わせください。財務改善ナビでは中小企業の財務・税務戦略に精通した専門家がご相談に対応します。
法人税テーマの関連記事
よくある質問
- Q. 中小企業の法人税軽減税率15%はどんな会社に適用されますか?
- A. 資本金または出資金が1億円以下の中小法人で、所得800万円までの部分に対して15%が適用されます(本則は19%、特例措置として15%)。ただし、資本金5億円以上の大法人の100%子法人や、相互会社・投資法人・特定目的会社などは適用除外です。所得が800万円を超える部分には法人税の本則税率23.2%が適用されます。
- Q. 令和7年度の税制改正で軽減税率は変わりましたか?
- A. 令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の税制改正で、中小法人向けの軽減税率15%の特例措置が2年間延長され、令和9年(2027年)3月31日までに開始する事業年度まで適用されることになりました。一方、所得が10億円を超える事業年度については、軽減税率が15%から17%に引き上げられる改正も含まれています。
- Q. 軽減税率の適用除外法人とは何ですか?
- A. 資本金または出資金が1億円超の法人、資本金5億円以上の大法人の100%子法人(完全支配関係にある場合)、相互会社・投資法人・特定目的会社・受託法人などです。これらに該当する法人は所得800万円以下であっても本則税率23.2%が適用されます。資本金が1億円超になるかどうかが第一の判定軸です。
- Q. 実効税率を抑えるためにはどんな方法がありますか?
- A. 中小企業向けの主な税負担軽減策として、中小企業経営強化税制(設備投資の即時償却・税額控除)、所得拡大促進税制(賃上げ実施による税額控除)、研究開発税制(試験研究費の税額控除)、欠損金の繰戻し還付などがあります。これらを活用することで実効税率を本則約30%から数ポイント下げられる可能性があります。所得を800万円以下に収めるよう役員報酬や経費を調整するアプローチもあります。
- Q. 個人事業主から法人化すると軽減税率の恩恵を受けられますか?
- A. 個人事業主の所得税は累進税率(5%〜45%)で、所得900万円超では33%の税率が適用されます。法人化すれば中小企業の軽減税率15%(所得800万円以下部分)が使えるため、所得が一定水準を超えると法人のほうが税負担が軽くなります。一般的な法人化検討の目安は所得600〜900万円程度ですが、社会保険料負担や役員報酬の損金算入要件も含めて総合判断が必要です。