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AIが変える税務調査の選ばれ方

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KSK2で国税AIが変える税務調査の実態

2026年9月稼働予定のKSK2(次世代国税総合管理システム)により、税務調査の対象選定にAIが本格活用されます。現行KSKとの違い、AI分析で検知されやすいパターン、中小企業経営者が今から備えるべき点を実務視点で解説します。

国税庁が2026年9月の稼働を目標に開発を進めているKSK2(次世代国税総合管理システム)は、日本の税務行政をデータ中心へ転換する基幹インフラです。現行のKSK(国税総合管理システム)が1995年以降に順次整備されたものであるのに対し、KSK2はAI-OCRによる書類デジタル化、税目横断のデータベース統合、外部情報との連携という3点で根本的に刷新されます。

この変化が税務調査に直結するのは、調査対象の選定プロセスが変わるからです。これまで調査官の経験と判断に依存していた部分が、データ分析で客観的にリスクを点数化する方向に移行しつつあります。中小企業の経営者にとって他人事ではない変化といえます。

本記事では、現行KSKの限界を整理したうえで、KSK2の刷新内容、AI分析で検知されやすいパターン、そして経営者が今から取り組むべき準備を解説します。KSK2の導入背景と経営者の準備全般はKSK2で税務調査はどう変わる?で詳しく取り上げています。税務調査の基礎知識は税務調査の確率は業種で違う?にまとめていますので、あわせてご覧ください。

本記事で扱う情報の性質について

KSK2は2026年9月稼働予定ですが、詳細な機能仕様は国税庁から網羅的に公表されていません。本記事は国税庁の公表資料、税務行政DX工程表、業界報道をもとに記述しています。AI活用の具体的な仕様は推測を含む部分があり、「予想されます」「見込まれます」等の表現で明示しています。

KSKとは何か、なぜ刷新が必要だったか

KSKは「国税総合管理システム」の略称で、全国の国税局と税務署をネットワークで結ぶコンピュータシステムです。1995年に先行導入が始まり、2001年に全国の税務署での本格稼働が完了しました。

KSKが導入される以前は、申告書の管理や納税者情報の参照が税務署ごとに分散しており、「A税務署では申告していたが、B税務署管内では申告漏れがあった」といった状況を把握するのも容易ではありませんでした。KSKはこれを解消し、全国の納税者約8,000万件のデータを一元的に管理できる体制を整えました。

KSKが稼働した2001年当時としては先進的なシステムでしたが、20年以上が経過するなかで3つの課題が顕在化していました。

1点目はデータ分析機能の制限です。KSKは申告データを「蓄積・管理」する機能に優れていた一方、蓄積されたデータから異常値やリスクを「分析・検知」する機能は限定的でした。業種平均との比較、複数年の時系列分析といった高度な処理は、調査官が手作業で行う部分が大きかったとされています。

2点目は外部データとの連携不足です。インボイス制度(2023年10月開始)や電子帳簿保存法(電子取引の電子保存が2024年1月から義務化)で蓄積される構造化されたデータを、KSKのアーキテクチャに取り込むことは設計上の制約があったとみられています。

3点目はシステム基盤そのものの老朽化です。メインフレームを中心とした設計は、現代のオープン環境やクラウドとの親和性が低く、新機能の追加やシステム連携にコストとリードタイムがかかる構造になっていました。

国税庁はこれらの課題を解消するため、「税務行政DX構想の実現に向けた工程表」(令和3年公表)のなかで次世代システムの開発を明確に位置づけ、KSK2の開発に着手しました。

KSK2で変わる3つのポイント

KSK2の刷新内容は多岐にわたりますが、税務調査という文脈で特に意識すべき変化点を3つに絞って整理します。

AI-OCRによる申告書類の全量デジタル化

KSK2では、紙で提出された申告書・申請書をすべてスキャナーで読み取り、AI-OCRで構造化データとして蓄積する仕組みが導入されます。現行KSKでは電子申告(e-Tax)で提出されたデータはそのまま蓄積できましたが、紙提出の書類は手入力や限定的なスキャニングにとどまっていました。

AI-OCRの導入にともない、2,300種類以上の申告書や様式がAI-OCRの読み取りに適した新様式に改定される予定です。これにより、電子申告か紙かを問わず、あらゆる申告データが分析可能な形で一元管理されるようになります。

税目横断のデータベース統合

現行KSKは法人税、所得税、相続税・贈与税、消費税といった税目別に分断したデータベース構造をとっています。KSK2ではこれを統合し、税目をまたいだ横断的な分析が可能になります。

たとえば、ある法人の法人税申告データと、その代表者の所得税申告データを突合する。あるいは相続税の申告内容と過去の贈与税申告の整合性を確認する。こうした作業が、これまでより効率的に行えるようになることが期待されています。

外部情報とのクロスチェック機能の強化

KSK2では、インボイス(適格請求書)のデータ、電子帳簿保存法で保存された電子取引データ、金融機関からの法定調書、登記情報など、複数の外部情報との連携・突合が強化される見込みです。

売り手が発行した適格請求書のデータと、買い手が申告した仕入税額控除の金額を照合する。取引先が提出した支払調書と自社の売上申告額を比較する。これらの突合作業が、人手を介さずシステム側で自動的に行えるようになれば、不一致の検知精度は大幅に高まります。

海外の先行事例

税務当局のAI活用は世界的に広がっています。英国の歳入関税庁(HMRC)は「Connect System」で複数データベースを横断分析し、オーストラリア国税庁(ATO)はSMSF分野でAIリスク評価を運用しています。カナダ歳入庁(CRA)もAIベースのリスクスコアリングを導入済みです。KSK2は日本がこの潮流に追いつく取り組みに位置づけられています。

調査対象の選定はどう変わるか

KSK2が導入されると、税務調査の対象選定はどのように変化するのでしょうか。現行の仕組みとの比較で考えます。

現行KSKでの選定プロセス

現在の調査対象の選定は、KSKに蓄積されたデータを参照しながら、調査官が各自の経験則に基づいて行うケースが多いとされています(選定基準は公開されていませんが、税理士業界での経験則として共有されている情報に基づきます)。

調査対象になりやすいパターンとして知られているのは、前回調査から一定年数が経過している、申告内容に形式的な不備がある、売上や経費の変動が大きい、現金取引が多い業種に該当する、内部告発や取引先調査で端緒を把握した、といった要素です。これらを調査官が個別に判断して優先順位をつける仕組みは、担当者の経験量によってばらつきが生じる余地がありました。

業種別の調査確率については税務調査の確率は業種で違う?に整理していますので参照してください。

KSK2でのデータドリブンへの転換

KSK2では、こうした選定プロセスにデータ分析が組み込まれる方向へ移行する見込みです。国税庁が公表している「税務行政DX工程表」では、「決算事績や資料情報等の蓄積した情報をもとに多角的な分析を行い、税務調査対象の選定や滞納整理対象者の抽出を支援する」と明記されています。

具体的には、各納税者の申告データを複数の指標で分析し、リスクの高い案件を優先的にリストアップする仕組みが想定されます。業種・規模が類似する企業群との比較、複数年にわたる申告内容の時系列分析、電帳法データやインボイスデータとの不一致検知といった処理がシステム側で自動化されると予想されます。

ただし、AIが「調査する」という決定を下すわけではありません。システムが検知した異常値を調査官に提示し、最終的な判断は人間が行うという構造になることが明確にされています。

「量より質」への移行

国税庁の統計によると、税務職員の定員は近年減少傾向にある一方、インボイス制度の開始で課税事業者となった事業者数は増加しています。限られたリソースで効果的な調査を実現するため、AIによる事前絞り込みを活用し、少ない調査件数でも追徴税額の回収率を高める方向性は合理的です。

税務調査の件数は横ばいまたは微減でも、1件あたりの非違発見率(問題を発見できる割合)や追徴税額は上昇する可能性があります。「数撃てば当たる」から「絞り込んで確実に当てる」への移行と言えます。

AIに検知されやすいパターン

KSK2のデータ分析が本格稼働した場合、どのような申告内容が検知されやすくなるか。現行の税務調査での指摘傾向とAIの分析特性を組み合わせると、以下のパターンが浮かび上がります。

業種平均との経費率の乖離

AIが得意とするのは、大量のデータから「パターンからの逸脱」を検知することです。「飲食業で売上1億円規模の法人」という母集団から原価率・人件費率・交際費率の平均値と標準偏差を算出し、大きく乖離する企業をフラグ付けすることは技術的に難しくありません。

交際費率が同業他社の2〜3倍になっているケースや、外注費比率が著しく高いケースは、AIが異常値として検知する可能性があります。実際の事業内容や営業戦略によって説明がつくものも多いですが、「なぜ業界平均より高いのか」を根拠資料つきで説明できる状態を整えておくことが求められます。

申告内容の時系列での不連続

売上が毎年安定して推移していたのに、ある年だけ大きく落ち込んでいる、あるいは特定の科目の経費が突然増減しているといったパターンは、AIの時系列分析で着目される可能性があります。

正当な事業上の理由(大口顧客の喪失、設備投資の有無など)がある場合でも、AIはまず「パターンの逸脱」として検知します。その背景を合理的に説明できるかどうかが重要になります。売上計上時期のずれ(期ずれ)は税務調査での定番指摘項目であり、時系列分析でも目立ちやすいと予想されます。

法定調書やインボイスとの不一致

取引先A社が支払調書で「○○社への支払500万円」と申告しているのに、○○社の法人税申告書にA社からの売上が400万円しか計上されていない。こうした差異は、人手での突合なら見落とすこともありましたが、システム的な自動照合では検知される可能性が高くなります。

インボイスデータとの突合も同様です。適格請求書の発行記録と受領側の仕入税額控除の申告が整合していない場合、KSK2では自動的に差異が検出される可能性があります。

電子帳簿保存法と税務調査の具体的な関係については電子帳簿保存法と税務調査の対応を参照してください。

現金比率の高い業種固有のリスク

飲食業、美容業、建設業の一人親方、医療・福祉など現金取引が多い業種は、従来から調査対象に選ばれやすい傾向がありました。KSK2の導入後もこの傾向は変わらないと考えられます。

加えて、クレジットカードや電子決済の普及に伴い、決済データが構造化された形で蓄積されるようになっています。決済事業者からの資料と申告売上の照合がより精密になれば、現金売上の過少申告の検知精度は向上すると予想されます。

AI検知は調査開始の決定を意味しない

AIがリスクとして検知したからといって、直ちに税務調査が実施されるわけではありません。システムは異常値を調査候補として提示するにとどまり、調査を実施するかどうかは調査官が判断します。合理的な説明がつく内容であれば、調査に至らないケースも多いと予想されます。

経営者が今から取り組むべき準備

KSK2の稼働が2026年9月に予定されている以上、稼働直前になってから準備を始めるのは得策ではありません。AIは過去の申告データも分析対象とするため、直近の申告だけ整えても、それ以前との不連続がかえって検知対象になりかねないからです。

1

電子帳簿保存法の対応状況を確認する

2024年1月に義務化された電子取引データの電子保存が、要件を満たした形で行われているか確認してください。「保存しているつもり」でも、検索機能の要件(日付・取引先・金額での検索)が満たされていないケースがあります。KSK2が電帳法データを分析対象にする可能性がある以上、この確認は最優先事項です。

2

日常の記帳精度を上げる

AIの分析精度が高まれば、帳簿の小さな不整合も検知対象になりえます。売上の計上時期の一貫性(発生主義の徹底)、経費科目の適切な区分、領収書と帳簿の対応関係など、日常の記帳を丁寧に行うことが最も確実な対策です。期末だけの一括計上や科目の恣意的な振り替えは、時系列分析で目立ちやすくなります。

3

経費の説明根拠を整備する

同業他社と比較して交際費・外注費・人件費などの経費率が高い場合、その理由を合理的に説明できる根拠資料を準備しておきます。AIは業界平均との乖離を検知しますが、正当な理由があれば調査に至らない可能性が高い。議事録、契約書、業務委託の実態を示す資料などを整備しておくことで、万一調査を受けても対応しやすくなります。

4

インボイス対応を再点検する

適格請求書の発行・受領・保存が正しく行われているか確認します。仕入税額控除の要件を満たしているか、適格請求書発行事業者でない取引先からの仕入に経過措置を正しく適用しているかが具体的なチェック項目です。KSK2でインボイスデータが突合対象になれば、不備は自動的に検知される可能性があります。

5

税理士との認識を共有する

KSK2の稼働後は、AIが検知した異常値に対して「なぜそうなっているのか」を論理的に説明する能力がこれまで以上に求められます。顧問税理士がいれば日頃から申告内容について認識を共有し、担当者任せにならない体制を整えましょう。特に過去の申告内容に不安がある場合は、早めに相談しておくことが重要です。

税務調査に向けた具体的な事前準備のチェックリストは税務調査の事前準備チェックリストで確認できます。

KSK2が変えないこと

変化を正しく把握するためには、変わらない部分も明確にしておく必要があります。

税務調査の法的枠組みはKSK2の導入によって変更されません。事前通知の原則(国税通則法第74条の9)、質問検査権の範囲(同法第74条の2)、調査結果の説明義務(同法第74条の11)といった手続きは維持されます。AIがリスクを検知したとしても、いきなり無予告で調査が始まるわけではありません(無予告調査の例外規定を除く)。

調査官による実地調査も残ります。AIの役割は「調査すべき対象を絞り込む」こととリスクの提示に限られ、現場での帳簿確認、経営者へのヒアリング、事実認定は引き続き人間が行います。AIは調査の精度を高めるツールであり、調査を置き換えるものではありません。

また、税務調査の結果に不服がある場合の救済手段(異議申立て、国税不服審判所への審査請求、取消訴訟)も変わりません。AIが検知した内容を根拠に調査が行われたとしても、納税者の権利は保護されています。

もっとも重要なのは、適正な申告と記帳が最善の対策であるという原則がKSK2でも変わらないことです。AIの分析精度が上がれば、不正や重大な誤りのある申告はより確実に検知されます。一方、適正に申告し帳簿を正確に管理している企業にとっては、AIが「調査不要な企業」を識別するフィルターとして機能する面もあります。

まとめ

要点

  • KSK2は2026年9月稼働予定の次世代国税総合管理システム。AI-OCRによる全量デジタル化、税目横断のデータ統合、外部データとのクロスチェック強化が主要な変化点
  • 調査対象の選定が、調査官の経験則からデータ分析に基づくリスクスコアリングへ移行する方向にある
  • 業種平均との経費率乖離、申告内容の時系列不連続、法定調書・インボイスとの不一致がAIで検知されやすいパターン
  • 税務調査の法的枠組み(事前通知・質問検査権・調査結果説明)や調査官の実地調査はKSK2でも変わらない
  • 対応の優先順位は、電帳法の対応・日常記帳の精度向上・経費の説明根拠整備の3点。適正申告が最善の対策であることは不変

KSK2の稼働を「税務署のシステム更新」と静観するのではなく、自社の申告・記帳体制を見直す機会と捉えることが重要です。AIによる分析精度の向上は、適正に経理処理をしている企業にとってはむしろ無用な調査が減る方向に働く可能性もあります。備えがある企業にとってKSK2は脅威ではなく、公正な競争環境を整える変化と位置づけることができます。

よくある質問

Q. KSK2とはどのようなシステムですか?
A. KSK2は、国税庁が令和8年(2026年)9月の稼働を目標に開発中の次世代国税総合管理システムです。現行のKSKシステム(1995年から順次導入)の後継として、税目別に分断されていたデータベースを一元化し、AI-OCRを活用した申告書のデジタル化、複数情報源のクロスチェックなど、データ中心の税務行政を実現する基盤として位置づけられています。
Q. KSK2でAIは税務調査の対象選定にどう関わりますか?
A. KSK2では、蓄積された申告データを多角的に分析することで、調査対象の選定を支援する機能が強化される見込みです。業種平均との乖離分析、複数年の時系列分析、インボイスや電子帳簿保存法データとのクロスチェックなどをシステムが自動的に行い、リスクの高い案件を調査官に提示する仕組みへの移行が予想されます。ただし最終判断は調査官が行います。
Q. AIに申告内容を検知されやすいのはどのような場合ですか?
A. 同業他社と比較して経費率(交際費・外注費・人件費など)が大きく乖離しているケース、売上が不自然に増減しているケース、法定調書(支払調書)の金額と申告書の売上計上額に差異があるケース、インボイスの発行・受領データと消費税の申告内容が整合しないケースが検知されやすいと予想されます。
Q. KSK2が稼働した後、税務調査の件数は増えますか?
A. 税務職員の定員は近年減少傾向にあるため、調査の総件数が大幅に増えるとは考えにくい状況です。ただし、AIによる事前絞り込みにより、調査に踏み切られた案件の非違発見率(問題を発見できる確率)は上昇すると予想されます。件数は横ばいでも1件あたりの精度が高まる方向へ移行することになります。
Q. KSK2への対応として今すぐできることは何ですか?
A. 電子帳簿保存法の電子取引データ保存要件を満たしているか確認すること、日常の記帳を正確に行うこと、同業他社と比較して説明しにくい経費率がないか見直すこと、の3点が基本的な対策です。AIは過去の申告データも分析対象とするため、過去の申告内容に不安がある場合は早めに税理士に相談することが重要です。

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