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調査官の目線で電帳法対応を点検する

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税務調査と電子帳簿保存法|調査官が見る6つのチェックポイント

電子帳簿保存法の2024年義務化後、税務調査では電子取引データの保存状況が必ず確認されます。調査官が実際に何を見るか、違反時のリスク、中小企業の実務対応を解説します。

2024年1月、電子取引データの電子保存が完全義務化されてから、税務調査の現場が静かに変わっています。調査官は従来の帳簿・証憑確認に加えて、電子取引データの保存状況を体系的に確認するようになりました。「クラウドサービスの領収書は印刷してファイリングしている」「メールで受け取った請求書は紙にして綴じている」——そういった運用を続けている企業は、調査の場で思わぬ指摘を受けるリスクが高まっています。

本記事では、調査官が電子帳簿保存法(以下「電帳法」)に関して具体的に何を確認するか、どの要件が見落とされやすいか、そして違反が発覚した場合のリスクを整理します。制度の仕組みや保存方法の手順については電子帳簿保存法の実務対応(電帳法対応の全体像)を参照してください。本記事は「調査の目線」に特化した内容です。

電帳法の3区分と税務調査上の位置付け

電帳法は「電子取引データの保存」「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」の3区分で構成されています。税務調査との関係で重要なのは、3区分の義務・任意の違いを正確に把握しておくことです。

電子取引データの保存は2024年1月から義務です。メール添付のPDF請求書、ECサイトの領収書、クラウドサービスの利用明細、EDI取引データなど、電子的に授受した取引情報が対象です(電子帳簿保存法第7条)。これを紙のみで保管することは、同日以降は認められていません。

電子帳簿等保存は任意です。会計ソフトで作成した仕訳帳や総勘定元帳を電子データのまま保存する制度で、対応していなくても問題はありません。ただし、国税庁が定める「優良な電子帳簿」の要件を満たすと過少申告加算税が5%軽減される優遇措置があります(電子帳簿保存法第8条第4項)。

スキャナ保存も任意です。紙で受領した領収書・請求書を電子化して保存できますが、義務ではないため、対応状況が税務調査で直接問題になることはありません。

義務は電子取引データの電子保存だけ

紙で受け取った書類を電子化しなくても問題はありません。電帳法対応の核心は「電子で受け取ったものを電子のまま保存する」という点にあります。スキャナ保存や会計帳簿の電子化は任意であり、税務調査で未対応を問われることはありません。

2024年以降も残る「猶予措置」の扱い

2023年12月末で宥恕措置が終了し、2024年1月から完全義務化されたことは事実です。一方で、2024年1月以降も「相当の理由がある場合」の猶予措置は継続しています。この2点は混同されやすいため、整理しておきます。

宥恕措置(終了)は、電子取引データを紙に出力して保存することを一律に容認していた経過措置です。2023年12月31日をもって廃止されました。

相当の理由がある場合の猶予(継続)は、保存要件を満たした電子保存が困難な「相当の理由」がある場合に限り、税務調査時に電子データと書面の両方を提示することで保存義務を果たしたと見なす措置です。国税庁は「システム整備のための資金不足」「外部サービスの仕様変更待ち」などを相当の理由の例示として挙げています。

調査の実務では、この猶予措置を使い続けることに頼った運用は通用しにくくなっています。2025年以降の調査では「なぜいまだに対応できていないのか」という問いに答えられなければ、相当の理由として認められない可能性が高まっています。

調査官が確認する6つのチェックポイント

税務調査において電帳法の対応状況がどのように確認されるか、実際のチェックポイントを6つに整理します。事前準備の際は税務調査の事前準備チェックリストと並行して、以下の項目を点検してください。

1. 電子取引データが電子保存されているか

調査の入口となる確認です。「電子取引の保存はどのように管理していますか」という質問で始まり、保存先と保存形式を確認します。メールで受け取ったPDF請求書を印刷してファイリングしているだけであれば、義務を果たしていないと記録されます。

確認対象になりやすい電子取引の例を挙げます。

  • メール添付で受け取った請求書・納品書
  • Amazon・楽天・モノタロウなどECサイトの購入明細
  • AWS・Google Workspace・Zoom等クラウドサービスの利用料明細
  • 電子契約(クラウドサイン等)で締結した契約書
  • 銀行のインターネットバンキングで受け取った入出金明細

これらをすべて洗い出し、電子データとして保存されているかを確認することが対策の第一歩です。

2. 真実性の確保措置が取られているか

電子取引データの保存では「真実性の確保」が要件として定められています。具体的には、次の4つの方法のいずれかが求められます(電子帳簿保存法施行規則第4条第1項)。

  • タイムスタンプが付与されたデータを受領する
  • 受領後にタイムスタンプを付与する
  • 訂正・削除の履歴が残るシステムで保存する
  • 訂正・削除の防止に関する事務処理規程を整備・運用する

調査官はどの方法を採用しているかを確認し、採用した方法が実際に機能しているかを照合します。事務処理規程を整備している場合は、規程の現物と運用状況の両方が確認対象です。

3. 検索機能が確保されているか

可視性の要件として、取引年月日・取引金額・取引先の3項目での検索が求められます。調査官は実際に「2025年10月の株式会社〇〇からの請求書を検索してください」のように具体的な条件で検索を求めることがあります。

前々事業年度の売上高が5,000万円以下の事業者には緩和措置があります。この場合、検索機能の確保は不要で、調査官のダウンロードの求めに応じられれば足ります。ただし「ダウンロードに応じられる状態」とは、ファイルが整理されていて合理的な時間内にデータを提出できることを意味します。ファイルが散在して目的のデータを見つけるのに1時間かかるような状態は、要件を満たしていないと判断される可能性があります。

ファイル名の命名規則で検索要件を代替できる

会計システムを使わず、フォルダにPDFを保存している場合でも、ファイル名に「20251005_33000_ABC商事.pdf」のように取引年月日・金額・取引先名を入れると、OS標準の検索機能で取引を絞り込めます。国税庁のQ&Aでも認められた方法です。

4. システム関係書類が整備されているか

電帳法では、電子帳簿・書類を保存する場合に「システム関係書類等の備え付け」が求められています(電子帳簿保存法第4条第1項)。具体的には使用しているソフトウェアの操作マニュアルや、データ管理に関する社内ルールをまとめた書類です。

調査官がシステムの操作方法がわからない場合、データの確認作業が進まなくなります。「このシステムのマニュアルはありますか」と求められた際に用意できるようにしておく必要があります。会計SaaSのマニュアルはベンダーのサイトからダウンロードできますが、社内独自のフォルダ管理ルールについては自社で文書化する必要があります。

5. 帳簿と電子取引データの関連性が確認できるか

調査官は、会計帳簿の仕訳と証憑の電子データが紐付けられているかを確認します。「この仕訳の根拠となる請求書データはどこにありますか」という問いに答えられる状態を維持することが求められます。

会計SaaS上で仕訳と証憑を直接紐付けている場合はスムーズです。フォルダ管理の場合は、仕訳日付・金額・取引先が一致するファイルをすぐに見つけられるフォルダ構成かどうかが問われます。

6. 電子データの一部だけ対応していないケースがないか

電子取引が発生する経路は複数あることが多く、一部の経路だけ対応が漏れているケースが見落とされやすいポイントです。

例えば、主要取引先からのメール添付請求書は会計SaaSに取り込んでいるが、経費精算で利用するECサイトやクラウドサービスの領収書は各担当者が印刷しているだけ、というケースです。また、電子契約サービスで締結した契約書をダウンロードせずサービス上だけに保存している場合も、自社の管理下に電子データを保存しているとは言えない可能性があります。

違反が発覚した場合のリスク

電帳法の保存要件を満たしていないことが税務調査で判明した場合、発生しうるリスクを段階別に整理します。

保存要件の不備(段階1)では、調査報告書に保存義務の不備として記録されます。直ちにペナルティが発生するわけではありませんが、記録は累積します。電子データの証明力が低下するため、税務調査で否認されやすい経費の問題と重なると影響が大きくなります。

経費の証拠書類としての有効性が問われる(段階2)では、保存要件を満たしていない電子データであっても、取引の事実が確認できれば経費が直ちに否認されるわけではありません。ただし、データの真実性を確認できない状態では、その取引の存在そのものが疑われる可能性があります。

青色申告の承認取消し(段階3)は、帳簿書類の不適切な管理が継続・悪質と認定された場合の最も重い処分です(所得税法第150条第1項、法人税法第127条第1項)。承認が取り消されると、欠損金の繰越控除や各種特別控除など税制優遇を失います。現時点では電帳法の不備だけで直ちに取り消された事例は限定的ですが、対応が長期に及ぶほどリスクは高まります。

重加算税(段階4)は、電子取引データを意図的に改ざん・隠蔽した場合に課される可能性があります。通常の加算税(10〜15%)に対して重加算税は35〜40%と大幅に加重されます。日常的なデータ管理の不備と異なり、悪意ある操作が認定された場合に適用されます。

「対応できていない理由」を準備しておく

調査官から「なぜ電帳法に対応できていないのですか」と聞かれたとき、明確に答えられない場合は心証が悪くなります。相当の理由の猶予措置を使う場合も、理由を具体的に説明できる準備が必要です。「知らなかった」では通りません。

中小企業が最低限とるべき実務対応

電帳法の保存要件を満たすために、大規模な投資は必ずしも必要ありません。中小企業が現実的に対応できる方法を段階別に整理します。

1

電子取引の全経路を洗い出す

自社で発生している電子取引を網羅的にリストアップします。主要取引先からのメール添付書類、ECサイト・クラウドサービスの利用明細、電子契約サービスの契約書など、すべての受け取り経路を把握します。部署ごとに異なる運用が存在することが多いため、経理だけでなく営業・購買・総務の担当者にも確認が必要です。

2

真実性の確保方法を1つ選択する

4つの方法(タイムスタンプ受領、タイムスタンプ付与、履歴管理システム使用、事務処理規程)のうち自社に適したものを選びます。会計SaaSを使用中であれば、多くの場合は履歴管理機能が対応しており追加投資不要です。SaaSを使っていない場合は、国税庁が公開するサンプルをもとに事務処理規程を作成するのが最も手軽です。

3

保存先とファイル命名規則を決める

電子取引データの保存先(会計SaaSのファイルボックス、社内サーバー、クラウドストレージ等)を全社で統一します。ファイルサーバーやクラウドストレージを使う場合は「取引年月日_金額_取引先名.pdf」のような命名規則を定め、全社に周知します。売上5,000万円以下の事業者はこれで検索要件も満たせます。

4

運用を社内に定着させる

仕組みを整えても運用されなければ意味がありません。「メールで受け取った書類は印刷して経理に渡す」という従来のフローから「電子データを直接保存先に保存する」フローへの切り替えを徹底します。経理担当者だけでなく、電子書類を受け取るすべての担当者が理解している状態を作ります。

5

調査を想定した模擬検索で確認する

調査官に「2025年8月の株式会社〇〇からの請求書を見せてください」と求められた想定で、実際に該当データを1〜2分以内に提示できるか確認します。できない場合はフォルダ構成や命名規則の見直しが必要です。年1回程度、定期的に確認する習慣をつけると安心です。

インボイス制度との関係

電帳法とインボイス制度は別々の制度ですが、経理実務の中では連動して管理する必要があります。インボイス(適格請求書)を電子で受領した場合、電帳法の電子取引データの保存義務が発生します。電子インボイスを受け取ったにもかかわらず紙のみで保管するという運用は、電帳法の義務違反になります。

インボイス制度への対応では適格請求書発行事業者の登録番号の確認が主な作業ですが、電子で授受する書類が増えた場合は電帳法への対応も同時に必要です。インボイス制度の実務対応についてはインボイス制度の実務対応で詳しく解説しています。

電子インボイスを受領した場合は電帳法の要件も満たす必要がある

取引先から電子メールやPDFで適格請求書を受領した場合、インボイス制度上の仕入税額控除の要件を満たすためにも電子データの保存が必要です。紙に出力するだけでは、電帳法の保存義務とインボイスの保存要件の両方で問題が生じます。

調査前に確認しておくべき3点

税務調査の通知を受けた後、電帳法関連で優先的に確認すべき事項をまとめます。

調査対象期間のすべての電子取引データが保存されているかの確認が最初の作業です。対象期間の取引先一覧を出力し、電子的に授受した書類が保存されているか照合します。漏れがあれば、メール受信履歴やクラウドサービスの利用履歴から遡って保存し直します。

次に、検索機能(またはダウンロード対応)が機能するかの実地確認です。実際に取引先と日付を指定して検索し、該当データが1〜2分以内に提示できるかを確認します。できない場合は、調査日までにフォルダの整理とファイル名の修正が必要です。

事務処理規程を整備している場合は、規程と実際の運用が一致しているかを確認します。最後に規程を更新した日付が古い場合や、現在の業務フローと規程の内容が乖離している場合は修正が必要です。形骸化した規程は、整備していないよりも心証が悪くなる場合があります。

まとめ

電帳法は制度が複雑に見えますが、税務調査で問われる核心は「電子で受け取った書類を、証拠として機能する状態で保存しているか」という一点です。調査官が確認するのも、高度なシステムの有無ではなく、要件を理解して合理的な方法で対応しているかどうかです。

会計SaaSを導入済みであれば、日常的にデータを取り込む運用を徹底するだけで要件の大部分を満たせます。ファイルサーバーで管理する場合でも、命名規則と事務処理規程の整備で対応できます。重要なのは、制度の全体像を理解したうえで自社の運用に当てはめ、調査官に求められた際に迷わず対応できる体制を整えておくことです。

この記事のポイント

  • 2024年1月以降、電子取引データの電子保存は義務。宥恕措置は終了したが「相当の理由がある場合」の猶予措置は継続中
  • 調査官は保存の有無・真実性の確保・検索機能・システム書類・帳簿との紐付け・対応漏れの有無の6点を確認する
  • 違反リスクは保存要件の不備→経費証拠力低下→青色申告取消し→重加算税の順で重くなる
  • 売上5,000万円以下の事業者は検索機能不要。命名規則の整備とダウンロード対応で要件を満たせる
  • 調査通知後は①電子データの網羅確認、②検索の模擬テスト、③事務処理規程と運用の整合確認の3点を優先する

よくある質問

Q. 電子帳簿保存法に対応していなかった場合、税務調査でどうなりますか?
A. 2024年1月以降に電子取引データを紙のみで保存していた場合、保存義務の不備として調査報告書に記録されます。経費の証拠書類としての有効性が問われるほか、悪質と判断されれば青色申告の承認取消しや重加算税の対象になります。ただし、「相当の理由がある場合」に該当するなら、電子データと書面の両方を提示すれば保存義務を満たしたと見なされる猶予措置が継続しています。
Q. 税務調査で電子データは実際にどのように確認されますか?
A. 調査官は任意の取引を指定し、該当する電子取引データを画面表示またはダウンロードで提示するよう求めます(国税通則法第74条の2)。取引年月日・金額・取引先での検索機能、タイムスタンプの付与または訂正・削除履歴が残る仕組みの有無を確認します。さらに事務処理規程がある場合は、規程の内容と実際の運用が一致しているかも照合されます。
Q. 会計SaaSを使っていれば電帳法は問題ないですか?
A. freee・マネーフォワード・弥生などの主要会計SaaSは訂正・削除の履歴管理と検索機能を標準搭載しており、電帳法の保存要件を満たす設計になっています。ただし、システムに取り込まずに紙で保管しているデータや、サービス外で授受した電子取引データが漏れているケースは要注意です。SaaSを導入しているだけでなく、日々の業務で電子データを取り込む運用を徹底することが前提です。
Q. 事務処理規程だけで電帳法の保存要件を満たせますか?
A. タイムスタンプを付与せず、訂正・削除の履歴が残るシステムも使用しない場合、「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を整備・運用することで真実性の要件を満たせます。国税庁がサンプルを公開しており、自社向けに修正するだけで対応可能です。ただし、規程を作成するだけでなく実際に運用していることが前提で、形骸化していると調査時に問題になります。
Q. 売上5,000万円以下の中小企業でも電帳法の検索要件は必要ですか?
A. 前々事業年度の売上高が5,000万円以下の事業者は検索機能の確保が不要で、税務調査時に調査官のダウンロードの求めに応じることができれば要件を満たします(電子帳簿保存法施行規則第4条第3項)。ただし「ダウンロードの求めに応じられる」とは、整理された状態のデータを合理的な時間内に提出できることを意味します。

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