税務を味方に再建を進める
事業再生の税務|債務免除益と欠損金の活用
事業再生における税務上の重要論点を解説。債務免除益への課税、繰越欠損金の活用、資産評価損の計上、私的整理と法的整理での取り扱いの違いをまとめました。
事業再生を進めるうえで、税務面の検討は避けて通れません。特に債権者から債務免除を受けた場合、免除された金額が「債務免除益」として課税対象になるという問題は、再生計画の策定において大きな影響を及ぼします。
せっかく金融機関から借入金の一部を免除してもらっても、その分に法人税等が課されてしまえば、再生の効果が大幅に削がれてしまいます。この問題に対処するために、税法上は繰越欠損金の特例や資産評価損の損金算入など、事業再生を支援するための規定が設けられています。
本記事では、事業再生に関連する税務上の重要論点に加え、2024年4月に適用が開始された「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」改定版の内容と、それが税務上の取り扱いに与える影響についても解説します。
債務免除益の課税問題
債務免除益に対する課税に注意
金融機関から借入金の免除を受けると、免除額が「債務免除益」として法人税の課税対象になります。実効税率約30%で計算すると、2,000万円の免除に約600万円の税負担が発生します。事前の対策が不可欠です。
債務免除益は、法人税法第22条第2項に基づき益金の額に算入されます。たとえば、金融機関から5,000万円の借入金のうち2,000万円の免除を受けた場合、2,000万円が当期の益金として計上されます。実効税率を約30%とすると、約600万円の法人税等が発生する計算です。
再生途上にある企業がこの税負担を賄えるケースは稀であり、債務免除を受けたにもかかわらず税金のために資金が流出するという本末転倒な事態を招きかねません。このため、事業再生における債務免除益に対しては、繰越欠損金の控除や資産評価損の計上によって課税を回避(または軽減)する仕組みが用意されています。
繰越欠損金による相殺
繰越欠損金とは、過去の事業年度で生じた税務上の損失(欠損金)を翌期以降に繰り越して、将来の課税所得から控除できる制度です(法人税法第57条)。繰越期間は10年間(2018年4月1日以後開始事業年度で生じた欠損金)です。
通常、繰越欠損金の控除限度額は当期の課税所得の50%に制限されています(中小法人等は100%控除可能)。しかし、事業再生の場面では特例が設けられています。
法的整理の場合(民事再生法、会社更生法)は、法人税法第59条第2項により、再生計画認可の決定があった場合、債務免除益に対して繰越欠損金を優先的に充当し、全額控除することが認められます。これにより、繰越欠損金が十分にある企業は、債務免除益への課税を実質ゼロにすることが可能です。
私的整理の場合は、一定の要件を満たす「再建計画」に基づく債務免除であれば、法的整理に準じた取り扱いが認められます。具体的には、中小企業活性化協議会の再生計画、事業再生ADR、中小企業の事業再生等に関するガイドライン(中小企業版私的整理ガイドライン)に基づく計画などが該当します(法人税法施行令第24条の2)。
私的整理ガイドライン(中小企業版)の2024年改定と税務上の影響
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、2022年4月に施行された中小企業専用の準則型私的整理ガイドラインです。従来の「私的整理に関するガイドライン」(2001年策定)は大企業向けに設計されており、中小企業が使いにくい面がありました。この課題を解消するために策定されたのが中小企業版です。
2024年1月に改定が公表され、同年4月1日から適用が開始されました(関係者全員の合意があれば3月以前の案件にも適用可能)。改定の主なポイントは以下のとおりです。
債務超過解消目標の延長 改定前は「3年以内の債務超過解消」が求められていましたが、改定後は「5年以内」に延長されました。赤字体質の脱却に時間を要する中小企業にとって、計画の現実性が高まりました。
経営者退任の原則廃止 改定前は経営者責任の観点から退任が原則とされていましたが、改定後は「経営者の退任を原則としない」ことが明示されました。事業の中核を担う経営者が引き続き再生を主導できる環境が整備されています。
平時からの連携強化 ガイドラインは有事(経営困難時)だけでなく、平時における中小企業と金融機関の情報共有や対話のあり方についても規定が強化されました。早期の情報開示と連携を通じて、経営悪化の深刻化を防ぐことが狙いです。
税務上の位置付けへの影響
これらの改定によって、ガイドラインに基づく再生計画が法人税法施行令第24条の2に定める「合理的な再建計画」として税務署に認定されやすくなりました。結果として、繰越欠損金の全額控除特例が適用されるケースが増える可能性があります。ただし、税務上の判断は個別の事情によるため、税理士との事前確認は不可欠です。
私的整理ガイドライン(中小企業版)の利用フロー
主要債権者への申し出
債務者(中小企業)が主要債権者(金融機関)に対してガイドライン利用を申し出る。全金融機関の同意が前提となる。
第三者支援専門家の選任
中小企業活性化協議会等が関与し、中立的立場の第三者支援専門家(弁護士・公認会計士等)を選任する。
一時停止要請(任意)
資金繰りの安定化が必要な場合、対象債権者に対して元本返済等の一時停止を要請できる。
実態調査・計画策定
第三者支援専門家が資産・負債・損益の状況を調査検証し、事業再生計画の策定を支援する。
対象債権者への説明と同意
策定した事業再生計画を対象債権者全員に説明し、同意を得て計画が成立する。
計画のフォローアップ
成立後も定期的に計画の実施状況を確認し、必要に応じて計画の見直しを行う。
このフローを通じて成立した再生計画が「合理的な再建計画」として認められれば、税務上の特例(繰越欠損金の全額控除等)が適用される可能性があります。
手続きの詳細については、中小企業活性化協議会への相談が出発点となります。
資産評価損の活用
事業再生において、含み損を抱えた資産の評価損を計上することで、債務免除益との相殺に充てることができます。
法人税法第33条第2項では、法的整理の場合に評価換えによる評価損の損金算入を認めています。対象となる資産は棚卸資産、固定資産(土地・建物・機械装置等)、有価証券などです。法的整理の場合は裁判所の監督のもとで資産評定が行われるため、評価損の計上が比較的スムーズに認められます。
私的整理の場合は、原則として評価損の損金算入は認められません。ただし、法人税法第33条第3項の「特別の事実」に該当する場合(たとえば、固定資産について1年以上にわたり遊休状態にある場合)は、私的整理であっても評価損の計上が可能です。
第二会社方式の税務
事業再生の手法として、採算部門を新会社に移転し、旧会社を特別清算する「第二会社方式」が中小企業で用いられることがあります。中小企業承継事業再生計画の認定(産業競争力強化法第31条)を受けた場合、登録免許税の軽減、不動産取得税の非課税、事業に必要な許認可の承継などの支援措置を受けられます。
税務上の主な論点は次の3点です。旧会社における特別清算での債務免除益と欠損金の取り扱い、新会社における資産の取得価額の決定、旧会社の株主における株式消滅損の取り扱いです。第二会社方式は税務・法務の論点が多岐にわたるため、税理士・弁護士と綿密に計画を策定する必要があります。
DES(デット・エクイティ・スワップ)の税務
DES(債務の株式化)は、債権者が貸付金を放棄する代わりに株式を取得する手法です。2006年度税制改正により、DESの際の債務消滅益については時価評価が基本とされています。
適格現物出資に該当する場合は、帳簿価額による引継ぎが認められ、債務消滅益は生じません。非適格の場合は、債権の時価と帳簿価額の差額が債務消滅益として課税対象となります。
事業再生の税務手続きを進める際の実務上の注意点
税務処理の検討は、再生計画の策定と同時並行で進める必要があります。計画が成立した後から税務対応を始めると、遡及適用できない処理が生じるリスクがあるためです。
特に重要な確認事項として、繰越欠損金の残高と繰越可能期限の確認、資産の含み損・含み益の把握、再生計画が「合理的な再建計画」として認められるかの税務署との事前折衝、複数年度にわたる税負担のシミュレーションが挙げられます。
金融機関との交渉を進める場合は、銀行との交渉ガイドも参考にしてください。また、事業再生計画の策定においてはADR(裁判外紛争解決手続)の活用を検討する価値があります。
まとめ
この記事のポイント
- 債務免除益は課税対象だが、繰越欠損金の特例により法的整理・一定の私的整理では全額相殺が可能
- 中小企業版私的整理ガイドライン(2024年4月改定)では、債務超過解消目標が5年以内に延長され、経営者退任が原則廃止されるなど中小企業が使いやすい内容に改善された
- 資産評価損の計上が法的整理では広く認められ、債務免除益との相殺に活用できる
- 再生手法により税務上の取り扱いが大きく異なるため、専門家との事前シミュレーションが不可欠
事業再生の税務処理についてご不明な点がある方は、無料相談窓口からご相談ください。
よくある質問
- Q. 債務免除益とは何ですか?
- A. 金融機関等の債権者が貸付金の一部を放棄した場合、債務者(企業)側で免除された金額が益金として計上されるものです。法人税法第22条第2項に基づき、債務免除益は課税所得に含まれます。ただし、繰越欠損金と相殺できるため、実際に課税が生じるかは企業の財務状況によります。
- Q. 繰越欠損金で債務免除益を全額相殺できますか?
- A. 法的整理(民事再生法・会社更生法)の場合、法人税法第59条第2項により再生計画認可の決定があった場合に全額控除が認められます。私的整理の場合も、中小企業活性化協議会の再生計画や事業再生ADR、中小企業の事業再生等に関するガイドライン(2024年4月改定版)に基づく計画であれば、法的整理に準じた取り扱いが認められる場合があります(法人税法施行令第24条の2)。
- Q. 私的整理ガイドライン(中小企業版)の2024年改定で何が変わりましたか?
- A. 2024年4月1日から適用された改定版では、「債務超過の解消目標が3年以内から5年以内に延長」「経営者の退任を原則としないことを明示」「平時からの金融機関との連携強化」といった変更が盛り込まれました。中小企業の実態により即した内容となり、ガイドライン活用のハードルが下がっています。
- Q. 資産評価損の計上は認められますか?
- A. 法的整理の場合は、棚卸資産・固定資産・有価証券等について評価損の損金算入が認められます(法人税法第33条第2項)。私的整理の場合は原則として認められませんが、民事再生法に基づく資産評定に準ずるものとして税務署長の承認を受けた場合は例外的に認められます。
- Q. 第二会社方式では税務上どのような注意点がありますか?
- A. 旧会社での特別清算に伴う債務免除益と欠損金の取り扱い、新会社での資産取得価額の決定、株主の株式消滅損の処理が主な論点です。中小企業承継事業再生計画の認定を受ければ登録免許税の軽減や不動産取得税の非課税措置も利用できます。税理士・弁護士との綿密な事前検討が不可欠です。