財務改善ナビ
事業承継

税金ゼロで事業を渡す方法

事業承継 6分で読める

事業承継税制の特例措置|納税猶予の要件と手続き

事業承継税制の特例措置(納税猶予制度)の要件・手続き・注意点を解説。贈与税・相続税の全額猶予の仕組み、特例承継計画の策定、取消事由まで中小企業向けにまとめました。

中小企業の事業承継における最大の障壁のひとつが、自社株式にかかる贈与税・相続税の負担です。業績が好調な企業ほど株式の評価額が高くなり、後継者が支払うべき税額が数千万円から億単位に達することもあります。

この税負担を大幅に軽減するために設けられた制度が事業承継税制です。なかでも平成30年度税制改正で創設された特例措置は、自社株式にかかる贈与税・相続税の全額の納税猶予が受けられる画期的な制度です。

本記事では、事業承継税制の特例措置の仕組み、適用要件、手続き、注意すべき取消事由について解説します。

事業承継税制の概要

制度の趣旨

事業承継税制は、中小企業の円滑な事業承継を税制面から支援する制度です。「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)に基づき、後継者が先代経営者から自社株式を贈与または相続により取得した場合に、一定の要件を満たすことで贈与税・相続税の納税が猶予されます(租税特別措置法第70条の7〜第70条の7の8)。

納税猶予された税額は、一定の事由が生じた場合に免除されます。例えば、後継者が死亡するまで株式を保有し続けた場合や、後継者がさらに次の後継者に株式を贈与した場合(贈与税の納税猶予との切替え)に、猶予税額が免除されます。

一般措置と特例措置の違い

事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2つがあります。

一般措置は平成21年度に創設されたもので、発行済議決権株式の3分の2までを対象に、贈与税の全額(相続税は80%)が猶予されます。5年間の経営継続期間中に雇用の8割を維持する要件が厳格に課されます。

特例措置は平成30年度税制改正で10年間の時限措置として創設されたもので、一般措置と比較して大幅に拡充されています。

対象株式の上限が撤廃され、全株式が対象となります。猶予される税額も贈与税・相続税ともに全額(100%)です。先代経営者以外の株主からの贈与・相続も対象となり、後継者も最大3名まで認められます。雇用維持要件は実質的に緩和されており、5年平均で8割を維持できなくても、正当な理由があれば猶予が取り消されません。

特例承継計画の提出

特例承継計画の提出期限は2026年3月31日、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日です。計画の提出自体にデメリットはなく、実際の贈与・相続を行う義務も生じないため、検討中の方はまず計画を提出しておくことを推奨します。

提出期限は2026年(令和8年)3月31日です。

特例承継計画には、会社の概要、先代経営者と後継者の情報、承継時期の見込み、承継後の経営計画などを記載します。認定経営革新等支援機関(税理士、中小企業診断士、金融機関等)の所見を添付する必要があります。

特例承継計画の提出は贈与・相続の実行前に行う必要がありますが、計画の提出自体は将来の承継に向けた「予約」のようなものであり、実際に贈与・相続を行う義務は生じません。

適用要件と手続き

会社の要件

事業承継税制の対象となる会社は、中小企業基本法に定める中小企業者であること(ただし医療法人や社会福祉法人は対象外)、上場会社でないこと、資産管理会社に該当しないこと、風俗営業会社に該当しないこと、などの要件を満たす必要があります。

資産管理会社の要件は特に注意が必要です。資産管理会社とは、有価証券、不動産、現預金等の資産の保有割合が総資産の70%以上である会社、またはこれらの資産からの運用収入が総収入の75%以上を占める会社をいいます。ただし、3年以上事業を行っており、常時使用する従業員が5名以上であれば、資産管理会社に該当しないとされます。

先代経営者(贈与者・被相続人)の要件

贈与の場合は、贈与時までに代表者を退任していること、贈与直前に会社の筆頭株主であること(同族関係者を含む議決権の過半数を保有)などが要件です。

相続の場合は、相続開始直前に会社の代表者であったこと(または過去に代表者であったこと)、議決権の過半数を保有していたことなどが要件です。

後継者(受贈者・相続人)の要件

後継者の要件は、贈与時(または相続開始時)に会社の代表者であること、贈与時に18歳以上であること、贈与時に3年以上役員として在任していること(贈与の場合)、同族関係者と合わせて議決権の過半数を保有し、かつ後継者のなかで最も多くの議決権を保有していることなどです。

手続きの流れ

事業承継税制の適用を受けるための手続きは、大きく3つのステップで進みます。

まず、特例承継計画を都道府県知事に提出します(2026年3月31日まで)。次に、贈与または相続を実行し、都道府県知事に認定申請を行います。認定を受けた後、所轄税務署に贈与税または相続税の申告を行い、納税猶予の適用を受けます。

認定後は、5年間の経営継続期間中は毎年、都道府県知事と税務署に報告書を提出します。経営継続期間経過後も、3年ごとに税務署に継続届出書を提出します。

注意すべき取消事由とリスク

主な取消事由

納税猶予が取り消される事由は複数定められています。

後継者が会社の代表者でなくなった場合(5年間の経営継続期間中)。後継者および同族関係者の持株数が総議決権数の50%以下になった場合。会社が解散した場合。対象株式を譲渡した場合。会社が資産管理会社に該当することとなった場合。

取消事由に該当すると、猶予されていた税額の全部または一部に加え、**利子税(年3.6%〜)**を納付する必要があります。長期にわたる報告義務も課されるため、税理士と連携した継続的な管理体制が不可欠です。

長期にわたる報告義務も課されるため、税理士と連携した継続的な管理体制の構築が求められます。

雇用維持要件の実質的緩和

特例措置では、5年間の経営継続期間中の各年で雇用の8割を維持できなかった場合でも、正当な理由を記載した書類を都道府県知事に提出すれば、猶予が取り消されません。正当な理由には、経営環境の変化(取引先の倒産、災害等)が含まれます。

この緩和措置は一般措置にはない特例措置の大きなメリットです。一般措置では5年平均で雇用の8割を維持できなければ猶予が取り消されるため、利用のハードルが高いとされてきました。

適用期限への対応

特例措置は時限立法であり、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日、贈与・相続の適用期限は2027年12月31日です。

期限の延長について議論されていますが、現時点では確定していません。事業承継を検討している場合は、期限内に特例承継計画を提出しておくことが望ましいです。計画の提出自体にデメリットはなく、実際の贈与・相続を行う義務も生じません。

まとめ

要点

  • 特例措置は全株式を対象に贈与税・相続税の全額猶予が受けられ、雇用維持要件も実質的に緩和されている
  • 特例承継計画の提出期限は2026年3月31日であり、この期限を過ぎると特例措置は利用できなくなる(一般措置は期限なし)
  • 取消事由に該当すると猶予税額に利子税を加えた納付義務が生じるため、税理士と連携した継続的な管理体制が不可欠

事業承継税制の特例措置は事業承継の進め方を検討するうえで欠かせない制度です。M&Aとの比較検討も含め、中小企業のM&A手続き全体像も合わせてご確認ください。

事業承継税制の適用判断や特例承継計画の策定について、専門家への無料相談を受け付けています。ご連絡ください。

よくある質問

Q. 事業承継税制の特例措置はいつまで利用できますか?
A. 特例承継計画の提出期限は2026年(令和8年)3月31日までです。贈与・相続の適用期限は2027年(令和9年)12月31日までとなっています。期限内に特例承継計画を提出し、贈与または相続を実行する必要があります。期限の延長が議論されていますが、確定していないため早めの対応が推奨されます。
Q. 納税猶予が取り消されるのはどのような場合ですか?
A. 主な取消事由は、後継者が代表者でなくなった場合、後継者の持株数が一定割合を下回った場合、会社が上場した場合、会社が資産管理会社に該当することとなった場合、5年間の経営継続期間中に雇用の8割を維持できなかった場合(ただし特例措置では実質的に緩和)などです。取消されると猶予されていた税額に利子税を加えて納付する必要があります。
Q. 一般措置と特例措置の違いは何ですか?
A. 一般措置は猶予される税額が贈与税・相続税の一部(最大で発行済議決権株式の3分の2に対応する税額の80%まで)ですが、特例措置は全株式に対応する贈与税・相続税の全額が猶予されます。また、一般措置では5年間の雇用維持要件(8割維持)が厳格ですが、特例措置では実質的に緩和されています。
Q. 特例承継計画の提出にデメリットはありますか?
A. 特例承継計画を提出すること自体にデメリットはありません。計画を提出しても実際の贈与・相続を行う義務は生じず、あくまで将来の承継に向けた予約的な位置づけです。ただし、認定経営革新等支援機関(税理士等)の所見を添付する必要があるため、顧問税理士への相談が必要です。

関連記事

M&A・事業承継の新着記事

売却・承継前に確認する論点を整理する

株式譲渡、事業譲渡、承継、PMIで確認すべき資料と手順を現在の段階に合わせて整理します。

論点を確認する