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来ないのは安心材料ではない

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税務調査が10年以上来ないのはなぜ?理由と油断できないポイント

税務調査が10年以上来ない法人・個人事業主の特徴と理由を解説。来ないから安心とは限らない根拠、調査対象に選ばれるきっかけ、今からやるべき備え方まで、実務的な視点でまとめました。

「うちは設立から10年以上経つが税務調査が一度も来たことがない」「個人事業を始めて15年、調査とは無縁だ」という声は少なくありません。しかし、しかし、調査が来ないことは「申告が正しいと税務署が認めた」という意味ではなく、単に調査の順番が回ってきていないだけです。

本記事では、税務調査が長期間来ない理由を整理したうえで、油断が招くリスクと、今からすぐにできる実務的な備え方を解説します。

税務調査が10年以上来ない理由

税務署の調査リソースには限りがある

法人全体の実調率は約3%、個人事業主は約0.7〜1%で推移しています。法人約280万社に対して年間の実地調査件数は7〜9万件にとどまり、単純計算で30年以上に1回の頻度です。税務署は限られた人員で追徴の見込みが高い案件に集中する方針をとっており、追徴課税の見込みが大きい案件から優先的に調査を実施しています。

国税庁の組織再編や定員の問題もあり、調査官一人あたりの担当件数は増加傾向にあります。調査の質を維持するために件数を絞り、1件あたりの追徴額を大きくする戦略がとられていることが、近年の実調率の低下と1件あたり追徴税額の増加というデータに表れています。

調査の優先度が低いと判断されている

国税庁のKSK(国税総合管理)システムは、全国の申告データを分析し、異常値のある申告を検出しています。このシステムに引っかからない申告を続けている事業者は、調査の優先リストに上がりにくいと考えられます。

調査が来にくい事業者には共通する傾向があります。

売上規模が比較的小さく、追徴額が少ないと見込まれる事業者は優先度が下がります。毎年安定した売上と利益を申告しており、急な変動がない事業者も、KSKシステムの異常値検出に引っかかりにくいため、調査の対象になりにくい傾向があります。税理士に依頼して申告書を作成しており、書面添付制度(税理士法第33条の2)を利用している事業者は、税務署にとって「信頼性の高い申告」と判断される可能性があります。過去に一度調査を受けて問題がなかった事業者も、しばらくは再調査の優先度が低くなります。

業種による差

業種別の調査確率でも解説していますが、現金取引が少ないサービス業やIT業は、飲食業や小売業に比べて調査の優先度が低い傾向があります。国税庁が毎年公表する「申告漏れ所得金額が大きな業種」のランキングを見ると、経営コンサルタント業や不動産業など、1件あたりの追徴額が大きい業種に調査リソースが集中していることがわかります。

自社の業種が上位にランクインしている場合は、たとえ10年以上調査が来ていなくても油断は禁物です。逆に、調査の優先度が低い業種であっても、取引先の反面調査や内部通報をきっかけに調査が入る可能性は常に残っています。

「来ない=安心」ではない理由

調査は突然やってくる

税務調査は事前通知なしで行われる「無予告調査」のケースもあります(現金商売など)。通常は事前通知がありますが、いずれにしても調査のタイミングを事業者側で選ぶことはできません。

長年調査がなかった事業者に調査が入るきっかけとして多いのが、取引先への税務調査(反面調査)です。取引先の帳簿から自社との取引が確認され、その整合性を確認する目的で調査が入ることがあります。反面調査の仕組みも理解しておくと、突然の連絡に慌てずに済みます。

業種全体の重点調査が実施される場合もあります。国税庁は毎年の重点施策として特定の業種やテーマを設定しており、自社がその対象になれば過去の調査履歴に関係なく調査が入ります。2023年のインボイス制度導入後は、消費税に関する調査が強化されており、消費税の免税点付近の事業者に対する関心も高まっています。

油断が蓄積するリスク

10年以上調査が来ないと、経理処理の精度が徐々に低下するケースがあります。「どうせ来ないだろう」という意識から、領収書の保管が疎かになる、摘要の記載が省略される、私的な支出と事業経費の区分が曖昧になる、といった状態が積み重なると、いざ調査が入った際に大きな追徴につながりかねません。

経理担当者が長年同じ方法で処理を続けている場合、税制改正に対応できていない処理が蓄積していることもあります。交際費の損金算入限度額の変更、少額減価償却資産の特例の期限延長と改正、電子帳簿保存法の要件変更など、知識のアップデートがなされないまま旧ルールで処理を続けていると、本人は正しいと思っている処理が実は誤りだった、というケースが調査で発覚することがあります。

不正があれば7年分遡及される

通常の申告誤りであれば調査対象は過去5年分ですが、仮装・隠蔽が認められた場合は7年分に遡及されます(国税通則法第70条第5項)。10年分の油断が7年分の追徴としてまとめて請求される可能性があります。

申告漏れの累積効果

毎年少額の経費の過大計上が続いた場合、1年分では小さな金額でも5〜7年分を合算すると相当な追徴額になります。たとえば年間50万円の申告漏れが7年分で350万円、これに延滞税と加算税が加わると400万円を超える負担になる可能性があります。

経費の否認で特に多いのが、交際費の事業関連性の不備、外注費と給与の区分の誤り、役員報酬の手続き不備です。10年間の間にこれらの処理が常態化していると、調査官にとっては「指摘しやすい案件」になりかねません。

よくある誤解

「調査が来ないのは申告が正しい証拠」

税務調査が来ないことは、税務署が申告内容を認めたことを意味しません。税務署には納税者の申告を個別に「承認」する仕組みはなく、申告は自己申告の原則に基づいています。調査が入っていないのは単に調査の順番が回ってきていないだけであり、「来ない=正しい」という解釈は誤りです。

「時効があるから古い年度は問題ない」

法人税の更正の期間制限は原則5年ですが、偽りその他不正の行為による場合は7年に延長されます(国税通則法第70条)。10年以上前の年度が直接の調査対象になることは通常ありませんが、7年以内の年度の処理の妥当性を確認するために、それ以前の帳簿が参考資料として確認される場合はあります。

消費税の更正の期間制限も原則5年(不正の場合は7年)ですが、消費税は法人税とは別に追徴が発生するため、同じ取引について法人税と消費税の両方で指摘を受けると追徴額が膨らみます。10年分の油断が7年分の複数税目にわたる追徴として請求される可能性がある点を理解しておくべきです。

今からできる備え方

帳簿と証拠書類を整理する

法人税法では帳簿書類の保存期間は原則7年(欠損金の繰越控除がある場合は10年)です。まずは過去7年分の帳簿、領収書、請求書、契約書が保管されているかを確認してください。電子データで受領した書類は、電子帳簿保存法の要件に沿った保管が求められます。

2024年1月以降、電子取引で受領した請求書・領収書などは電子データのまま保存することが義務化されました。メールで受領したPDFの請求書やクラウドサービスからダウンロードした領収書を紙に印刷して保管する方法では要件を満たさなくなっているため、電子データの保存環境を早急に整備する必要があります。

税理士に「調査に来たらどうなるか」を相談する

顧問税理士がいる場合は「仮に明日税務調査が入ったとして、過去の申告で問題になりそうな点はないか」を相談してみてください。事前に潜在的なリスクを把握しておくだけで、実際の調査時の対応負担が大幅に軽減されます。

顧問税理士がいない場合は、スポットで税務調査の事前診断を依頼できる税理士事務所もあります。費用は発生しますが、10年分の潜在リスクを専門家の目で確認してもらう価値は十分にあります。

書面添付制度を活用する

税理士法第33条の2に基づく書面添付制度は、税理士が申告内容の適正性を確認した旨を記載した書面を申告書に添付する制度です。この制度を利用すると、税務署は調査に先立って税理士に意見聴取を行い、その結果次第では調査自体が省略されることもあります。今後の申告から導入を検討する価値があります。書面添付制度を利用するためには、税理士が申告内容を詳細に確認する作業が必要になるため、顧問料とは別に追加の報酬が発生する場合があります。費用対効果を考慮したうえで、顧問税理士と導入の可否を相談してください。

過去の申告内容を自主的に見直す

過去の申告で誤りに気づいた場合は、税務調査を待たずに自主的に修正申告を行うことで、過少申告加算税を回避できます。修正申告の判断基準を参考に、顧問税理士と相談のうえ対応してください。

特に注意すべきなのが、消費税の課税事業者の判定です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えた年がありながら、翌々年に課税事業者としての届出を出していないケースは、無申告として重いペナルティの対象になり得ます。インボイス制度の導入に伴い、消費税の申告状況に対する税務署側の関心は高まっています。

定期的な「模擬調査」を行う

年に一度(できれば決算月前に)、「もし今日税務調査が来たら」という視点で自社の帳簿・書類を点検する習慣をつけることも有効です。領収書の保管状況、交際費の摘要記載、経費否認のリスクがある処理がないかをチェックし、問題があれば決算前に都度修正する。この地道な積み重ねが、実際に調査が入った際の対応力に直結します。

点検の際には、税務署が調査で最初に確認する項目(売上の計上漏れ、経費の水増し、期末の在庫評価)を重点的にチェックしてください。外注費と給与の区分、修繕費と資本的支出の区分、交際費の私的利用の有無は、中小企業の税務調査で指摘が多い3大論点です。

まとめ

税務調査が10年以上来ない場合のポイント

  • 調査が来ないのは申告内容が正しいと認められたわけではなく、調査の優先順位が低いだけ
  • 取引先の反面調査や業種別の重点調査で突然調査が入る可能性は常にある
  • 油断による経理精度の低下や税制改正への未対応が蓄積すると、5〜7年分まとめて追徴されるリスクがある
  • 帳簿・証拠書類の7年保存(電子帳簿保存法への対応含む)の確認と、書面添付制度の活用が実効性のある対策

税務調査の対応方法事前準備のチェックリストについて確認事項がある場合は、無料相談からご連絡ください。

よくある質問

Q. 税務調査が10年以上来ない法人は珍しくないのですか?
A. 珍しくありません。法人の実調率(税務調査を受ける割合)は約3%前後で推移しており、単純計算では約30年に1回しか調査が回ってこない確率です。売上規模が小さい法人や、申告内容に不審な点がない法人は、調査の優先順位が低くなるため、10年以上調査が来ないケースは十分にあり得ます。
Q. 税務調査が来ない理由として考えられることは何ですか?
A. 主な理由は、税務署の調査リソースが限られているため、追徴課税を多く見込める案件を優先して調査しているからです。売上規模が小さい、申告内容がKSKシステムの異常値検出に引っかからない、税理士が申告書を作成している、過去の調査で問題がなかった、といった事業者は優先度が下がります。
Q. 長年調査が来なくても、突然来ることはありますか?
A. あります。取引先の税務調査で自社との取引が把握された場合(反面調査)、業種全体の重点調査が決まった場合、申告内容に急な変化があった場合などに、長年調査がなかった事業者にも突然調査が入ることがあります。来ないからといって申告が正しいと認められたわけではありません。
Q. 10年以上調査が来ていない場合、何年分が調査対象になりますか?
A. 通常の申告誤りであれば過去5年分が調査対象です(国税通則法第70条第1項)。ただし、意図的な売上除外や架空経費の計上など『偽りその他不正の行為』があった場合は7年分に遡及されます(同法第70条第5項)。10年分すべてが対象になるわけではありませんが、保存期間内の帳簿は全て確認される可能性があります。

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