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廃業の税金処理は届出4種類と申告の特殊論点から始まる

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個人事業主の廃業時の税金と確定申告|届出4種類と廃業年の特殊処理【2026年版】

個人事業主の廃業に必要な税務手続きを実務手順で整理。所得税の青色申告取りやめ届出、事業廃止届、廃業年の確定申告の特殊論点(棚卸資産処分・固定資産の家事転用・開業費の一括償却)、消費税対応まで2026年版で解説します。

個人事業主が事業を廃業するとき、税務面で行うことは「届出書の提出」と「廃業年の確定申告」の2つに大別されます。法人の解散・清算と異なり、個人事業の廃業は会社法上の手続きを伴わないため一見シンプルですが、廃業年の所得計算には特殊な論点があり、見落とすと納税額が変わります。

本記事は、個人事業主の廃業時に必要な届出4種類、廃業年の確定申告の特殊処理、消費税対応、国民健康保険・年金との接続まで2026年版で整理します。法人と個人事業の違いを踏まえた廃業全体の判断は廃業手続きガイドを参照してください。

廃業時に提出する届出書 4種類

個人事業主の廃業で必要な税務署への届出書は、状況に応じて以下の4種類です。

届出書提出期限提出が必要なケース
個人事業の開業・廃業等届出書廃業日から1ヶ月以内全員必須
所得税の青色申告の取りやめ届出書取りやめたい年の3月15日まで青色申告者で廃業翌年以降も継続しない場合
事業廃止届出書(消費税)速やかに消費税課税事業者だった場合
給与支払事務所等の廃止届出書廃業日から1ヶ月以内従業員を雇用していた場合

個人事業の開業・廃業等届出書

これは廃業時に必ず提出する基本書類です。税務署で配布されているか、国税庁ウェブサイトからダウンロード可能です。

記載項目は事業主の氏名・住所・職業、廃業日、屋号、廃業の理由、提出先税務署など。提出先は廃業日時点で納税地を管轄する税務署です。「廃業」欄にチェックを入れ、廃業日を明記します。

所得税の青色申告の取りやめ届出書

青色申告を行っていた個人事業主が廃業する場合、青色申告承認を取り下げるかどうかを判断します。

  • 廃業翌年以降、別の所得(不動産・株式譲渡など)で青色申告を続けたい→取りやめない
  • 廃業を機に青色申告を完全に終わらせたい→取りやめ届を提出

取りやめる場合、廃業した年の翌年3月15日までに提出します。

事業廃止届出書(消費税)

消費税課税事業者だった個人事業主は、所得税の届出と別に消費税法上の事業廃止届出書を提出します。提出先は同じ税務署です。

簡易課税の届出をしている場合や、適格請求書発行事業者(インボイス登録事業者)の場合も、それぞれ「簡易課税制度選択不適用届出書」「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を併せて検討します。

給与支払事務所等の廃止届出書

従業員(家族専従者を含む)に給与を支払っていた場合は、給与支払事務所等の廃止届出書を提出します。源泉徴収を行っていた事業主の義務終了の届出という位置づけです。

廃業年の確定申告——3つの特殊処理

廃業年の確定申告は通常の確定申告と基本的な流れは同じですが、廃業に伴う特殊論点が3つあります。

1

棚卸資産の処分損益を計上

廃業日時点で残っている商品在庫は、自家消費・廃棄・売却のいずれかで処分する。自家消費は通常の販売価額または仕入価額の70%(所得税基本通達39-2)で売上計上、廃棄は廃棄損として経費計上、売却は売却額を売上計上。

2

未償却の固定資産の家事転用処理

事業用固定資産(パソコン・車両・店舗内装等)を廃業後も個人で使用する場合、廃業日時点での未償却残高を「家事転用」として処理。所得税法上、家事転用は譲渡所得の対象外だが、後日売却した場合は事業用ではなく譲渡所得として課税される。

3

開業費・繰延資産の一括償却(任意)

創業時に計上した開業費(5年定額償却)や繰延資産で未償却分が残っている場合、廃業日付で一括償却して経費計上できる(所得税法第50条)。これにより廃業年の所得を圧縮可能。

3つの処理を漏らすと所得計算が不正確になり、後日の修正申告が必要になります。特に棚卸資産の処分は「自家消費70%ルール」を知らずに見落とすケースが多いため要注意です。

廃業年の所得計算例

総売上1,200万円(廃業日まで10ヶ月分)、必要経費900万円、棚卸資産期首200万円・期末0万円(全て自家消費)、固定資産未償却残高100万円(家事転用)、開業費未償却分20万円(一括償却)のケースで計算します。

項目金額
総売上1,200万円
自家消費(200万円×70%)140万円
売上合計1,340万円
必要経費900万円
開業費の一括償却20万円
経費合計920万円
事業所得(売上 - 経費)420万円

家事転用した固定資産(100万円分)は所得計算には影響しないが、後で売却したら譲渡所得対象になる、という整理になります。

廃業年の青色申告特典

青色申告を継続している個人事業主は、廃業年でも青色申告特典を受けられます。

  • 青色申告特別控除(最大65万円または55万円):廃業日まで複式簿記が保たれていれば適用可
  • 青色事業専従者給与:廃業日までの支払分は経費算入可
  • 純損失の繰越控除:廃業年に赤字が出た場合、翌年以降3年間(青色申告者)または翌年のみ(白色申告者)で繰越可

廃業翌年以降に他の所得(不動産所得・給与所得など)が発生する見込みがあれば、純損失の繰越控除を活かすために青色申告承認を取りやめないという選択もあります。

廃業翌年も確定申告が必要なケース

廃業した翌年も、廃業年に課された所得税の精算(過大納付があれば還付、不足があれば追加納付)の他、不動産所得や年金収入があれば確定申告が必要です。「廃業したから今後は申告不要」とは限らない点に注意してください。

国民健康保険・国民年金との接続

廃業後の社会保険対応は税務とは別の手続きですが、廃業日が連動するため税務手続きと並行して進めます。

健康保険

事業主自身が国民健康保険だった場合、廃業に伴う特別な手続きはありません。廃業後も国保加入を継続します。従業員を雇用して社会保険(協会けんぽ)に加入していた場合は、社会保険の任意継続加入か国保切替を選択します。

国民年金

事業主自身は廃業前後で国民年金第1号被保険者のまま継続します。配偶者を青色事業専従者として雇用していた場合は、廃業に伴って配偶者の被保険者区分が変わる可能性があります(第3号被保険者への変更等)。

詳しい手続きは廃業時の社会保険脱退を参照してください。

法人成りで廃業する場合の特例

個人事業主が法人を設立して事業を継続する「法人成り」では、税務処理に特例があります。

個人事業の廃業届と法人設立届を同時期に提出し、個人事業の資産・負債を法人に引き継ぎます。引継ぎは現物出資(資産を法人の出資金とする)または売買(個人から法人への売却)のいずれかで処理します。

現物出資の場合、譲渡所得が発生する可能性があるため事前に税理士と試算してください。売買の場合は譲渡対価を時価で設定する必要があり、低額譲渡として認定されると贈与税の対象になります。

法人成りに伴う廃業の場合、廃業届の「廃業の理由」欄に「法人成りのため」と記載するのが慣例です。

まとめ

この記事のポイント

  • 個人事業主の廃業に必要な届出は4種類(事業廃止・青色取りやめ・消費税廃止・給与支払事務所廃止)
  • 廃業年の確定申告では棚卸処分・固定資産家事転用・開業費一括償却の3特殊処理が必要
  • 棚卸資産の自家消費は通常販売価額または仕入価額の70%で売上計上(所得税基本通達39-2)
  • 青色申告特典(特別控除・専従者給与・純損失繰越)は廃業年も適用可
  • 法人成り廃業の場合は資産引継ぎの方法(現物出資 or 売買)で課税が変わるため事前試算必須

廃業の税務処理は届出書の提出だけで終わらず、廃業年の確定申告に特殊論点が複数残ります。届出を出した後に「思っていた以上に所得が出てしまった」とならないよう、廃業を決めた時点で税理士と相談し、棚卸処分のタイミングや家事転用の範囲を整理しておくことを推奨します。

借入金が残っている場合の処理は廃業時の借入金返済、廃業時の確定申告全般は廃業時の確定申告で損しないための5つの注意点も参考にしてください。

よくある質問

Q. 個人事業主の廃業届はいつまでに出せばよいですか?
A. 個人事業の開業・廃業等届出書は廃業日から1ヶ月以内に税務署に提出します(所得税法第229条)。期限を過ぎても受付はされますが、青色申告承認の取消し申請など他の手続きとの整合性が取れなくなる可能性があるため、廃業日と同日かその直後に提出するのが実務的です。
Q. 廃業年の確定申告は通常と何が違いますか?
A. 廃業日までの所得を計算する「準確定申告」ではなく、通常の所得税確定申告として、その年の1月1日から廃業日までの事業所得を集計します。特殊な処理として、棚卸資産の処分損益、未償却の固定資産の家事転用に伴う所得計算、開業費・繰延資産の一括償却(任意)が必要です。
Q. 青色申告の取りやめ届はどのタイミングで出しますか?
A. 青色申告を取りやめたい年の3月15日までに「所得税の青色申告の取りやめ届出書」を提出します(所得税法第151条)。廃業の場合は事業廃止届と同時に出すのが一般的ですが、廃業翌年以降に不動産所得など別の所得で青色申告を継続する選択もあります。
Q. 消費税課税事業者の場合、廃業時の処理はどうなりますか?
A. 「事業廃止届出書」を消費税の届出として別途提出します(消費税法第57条)。廃業日までの売上に対する消費税を、廃業した年の課税期間の確定申告で納付します。簡易課税事業者の場合も同様で、廃業した年分の消費税申告書を期限内に提出します。
Q. 廃業後に債務が残った場合、税金はどうなりますか?
A. 個人事業主の借入金は事業廃止後も個人債務として残ります。返済不能で債権放棄を受けた場合、原則として一時所得(債務免除益)として課税対象です。ただし、自己破産・個人再生で免責された債務は非課税です(所得税法基本通達36-17)。具体的な処理は税理士に相談してください。

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