税負担を抑えて事業を継ぐ
事業承継税制|納税猶予100%の特例は2026年期限
事業承継で贈与税・相続税が重荷になる前に。納税猶予100%の特例措置は計画提出2026年3月末が期限です。適用要件・手続きの流れ・猶予取消リスクまで、中小企業オーナーが知るべきポイントを整理しました。
中小企業の事業承継において、自社株式に係る贈与税・相続税の負担は大きな課題です。企業の純資産が大きい場合、株式評価額が高額になり、後継者が多額の税負担を抱えることで事業継続が困難になるケースがあります。
事業承継税制は、この課題に対応するために設けられた制度で、非上場株式等に係る贈与税・相続税の納税猶予および免除を認めるものです。2018年度税制改正で創設された特例措置は、適用要件が大幅に緩和され、より利用しやすくなっています。本記事では、事業承継税制の仕組みと適用要件、手続きの流れを解説します。
事業承継税制の概要
制度の目的と法的根拠
事業承継税制は、中小企業の円滑な事業承継を支援するために設けられた税制上の特例です。租税特別措置法第70条の7(贈与税の納税猶予)および第70条の7の2(相続税の納税猶予)を根拠とし、2009年に創設されました。
制度の基本的な仕組みは、先代経営者から後継者に非上場株式等を贈与または相続により移転した場合に、一定の要件を満たすことを条件として、その株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予するものです。猶予された税額は、後継者が死亡した場合などに最終的に免除されます。
一般措置と特例措置の違い
事業承継税制には「一般措置」と「特例措置」の2種類があり、適用要件と猶予の範囲が異なります。
| 比較項目 | 一般措置 | 特例措置 |
|---|---|---|
| 対象株数の上限 | 総株式数の3分の2 | 全株式 |
| 相続税の猶予割合 | 80% | 100% |
| 贈与税の猶予割合 | 100% | 100% |
| 承継パターン | 1人の先代経営者→1人の後継者 | 複数の株主→最大3人の後継者 |
| 雇用確保要件 | 5年間平均80%維持(未達で猶予取消) | 要件未達でも猶予継続(理由書提出) |
| 事前計画 | 不要 | 特例承継計画の提出が必要 |
| 適用期限 | なし | 2027年12月31日まで |
特例措置は一般措置と比べて大幅に有利な内容ですが、適用期限が設けられている点に注意が必要です。
特例措置の適用要件
会社の要件
特例措置の適用を受ける会社は、いくつかの要件を満たす必要があります。
中小企業であること: 中小企業経営承継円滑化法第2条に定める中小企業者に該当すること。業種ごとに資本金または従業員数の基準が定められています(製造業: 資本金3億円以下または従業員300人以下、小売業: 資本金5,000万円以下または従業員50人以下、等)。
非上場会社であること: 金融商品取引所に上場していない株式会社であること。
風俗営業会社でないこと: 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律第2条第5項に規定する性風俗関連特殊営業に該当しないこと。
資産管理会社でないこと: 有価証券や不動産の保有を主たる事業とする「資産管理会社」に該当しないこと。ただし、事業実態がある場合(従業員5人以上、事務所の保有等)は資産管理会社に該当しないとされる特例があります。
先代経営者の要件
- 会社の代表権を有していたこと
- 贈与時(相続開始時)において代表権を有していないこと(贈与の場合)
- 贈与時に同族関係者と合わせて議決権の50%超を保有していること
後継者の要件
- 贈与時(相続開始時)において会社の代表権を有していること
- 贈与時に同族関係者と合わせて議決権の50%超を保有すること
- 後継者と同族関係者の中で最も多くの議決権を保有すること
- 贈与時に18歳以上であること(贈与の場合)
- 贈与時に3年以上役員であること(贈与の場合)
手続きの流れ
特例承継計画の提出
特例措置の適用を受けるには、まず特例承継計画を作成し、都道府県知事に提出する必要があります。提出期限は2026年3月31日です。
特例承継計画には、主に次の項目を記載します。
- 会社の概要(名称、所在地、代表者、事業内容等)
- 先代経営者の氏名
- 後継者の氏名
- 承継までの経営の見通し
- 承継後5年間の事業計画
計画の作成にあたっては、認定経営革新等支援機関(税理士、中小企業診断士、金融機関等)の所見を記載する必要があります。顧問税理士に相談して作成するのが一般的です。
贈与・相続の実行
特例承継計画の提出後、実際に株式の贈与または相続を行います。特例措置の適用を受けるための贈与・相続の期限は2027年12月31日です。
贈与の場合は、先代経営者が保有する非上場株式等の全部または一部を後継者に贈与します。相続の場合は、先代経営者の死亡に伴い、後継者が株式を相続または遺贈により取得します。
認定申請
贈与税の申告期限(贈与の翌年3月15日)または相続税の申告期限(相続開始後10ヶ月)までに、都道府県知事に対して中小企業経営承継円滑化法に基づく認定を申請します。
認定を受けた後、税務署に対して贈与税または相続税の申告を行い、納税猶予の適用を受けます。申告の際には、猶予税額に相当する担保を税務署に提供する必要があります(原則として、納税猶予の対象となる株式そのものが担保)。
承継後の継続届出
納税猶予の適用後は、一定期間ごとに継続届出書を提出する義務があります。
承継後5年間: 毎年、都道府県知事への年次報告書と税務署への継続届出書を提出します。この期間中は、後継者が代表者であること、雇用の維持(特例措置の場合は未達でも理由書で継続可能)などの要件を充足する必要があります。
5年経過後: 3年に1度、税務署への継続届出書を提出します。
猶予税額の免除
猶予された税額が免除される主なケースは次の3つです。
- 後継者が死亡した場合
- 次の後継者に株式を贈与し、その後継者が新たに納税猶予の適用を受けた場合
- 一定の要件のもとで会社が解散した場合(免除額は株式の価値に応じて計算)
活用時の注意点
適用後のリスク
事業承継税制は強力な節税効果がある一方で、適用後に要件を満たさなくなった場合のリスクも理解しておく必要があります。
猶予取消事由に該当すると、猶予された税額の全部または一部を利子税と合わせて納付する義務が生じます。適用後のリスクも十分に理解したうえで制度を活用してください。
具体的には、後継者が代表者を退任した場合、株式を譲渡した場合、会社が資産管理会社に該当した場合などが取消事由にあたります。
会社の経営自由度への影響: 納税猶予の適用中は、会社の組織再編や事業縮小に制約が生じる場合があります。経営判断の自由度と税制上のメリットを天秤にかけた検討が必要です。
他の制度との併用
事業承継税制は、他の事業承継支援制度と併用することで効果を高められます。
事業承継・引継ぎ補助金: 事業承継に伴う設備投資や販路開拓にかかる費用を補助する制度です。事業承継税制による税負担の軽減と合わせて、承継にかかるトータルコストを軽減できます。
小規模宅地等の特例: 先代経営者が保有する事業用不動産については、小規模宅地等の特例(特定事業用宅地等: 400平方メートルまで80%減額)との併用が可能な場合があります。
まとめ
要点
- 特例措置は贈与税・相続税の100%納税猶予を認める制度で、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日、実行期限は2027年12月31日
- 適用要件として中小企業であること・後継者が代表者であることなどが求められ、承継後も継続届出の提出義務がある
- 猶予取消事由に該当すると多額の税額と利子税が発生するため、長期的な経営計画を踏まえて税理士と慎重に検討する
特例措置の詳細は事業承継税制の特例措置で、事業承継全体の進め方は事業承継の進め方ガイドで解説しています。
事業承継税制の適用判断や特例承継計画の策定に関するご相談は、無料相談からご連絡ください。
よくある質問
- Q. 事業承継税制の特例措置の申請期限はいつまでですか?
- A. 特例承継計画の提出期限は2026年3月31日です。また、特例措置の適用を受けるための贈与・相続の期限は2027年12月31日までとされています。期限内に計画提出と実際の承継を完了する必要があります(租税特別措置法第70条の7の5等)。
- Q. 事業承継税制を使うと税金はゼロになりますか?
- A. 特例措置では、非上場株式等に係る贈与税・相続税の全額(100%)が納税猶予されます。一般措置では贈与税は100%、相続税は80%の猶予です。猶予された税額は、一定の要件を満たし続けることで最終的に免除されます。
- Q. 事業承継税制の適用後に株式を売却するとどうなりますか?
- A. 猶予された税額の全部または一部を納付する必要があります。事業承継税制の趣旨は事業の継続であるため、承継後5年間は株式の保有継続が要件となり、5年経過後に株式を譲渡した場合も猶予税額の一部納付が必要です。
- Q. 個人事業主でも事業承継税制は使えますか?
- A. 使えます。2019年度税制改正で「個人版事業承継税制」が創設され、個人事業主の事業用資産(土地・建物・一定の減価償却資産)に係る贈与税・相続税の納税猶予制度が設けられました。特定事業用資産に係る納税猶予の特例です。