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廃業でも従業員への責任は最後まで果たす

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廃業時の従業員退職金|支払義務と手続きの実務

会社廃業時の従業員への退職金支払義務と手続きを解説。解雇予告30日ルール、未払賃金立替払制度、社会保険・雇用保険の脱退手続きまで、経営者が知るべき労務実務をまとめました。

廃業を決断した後、経営者が最初に直面するのが従業員への対応です。解雇の通知をいつ、どのように行うか。退職金の支払い義務はあるのか。資金が不足した場合はどうなるのか。こうした問いに、正確な答えを持っている経営者は多くありません。

廃業時の従業員対応を誤ると、後から未払賃金請求や労働審判に発展するケースがあります。逆に適切な対応ができれば、長年一緒に働いた従業員を次のキャリアへ送り出すことができます。本記事では、廃業時の退職金・解雇手続き・社会保険脱退の実務を、法令根拠とともに解説します。

廃業時の退職金の支払い義務はあるか

支払義務の有無は就業規則で決まる

退職金の支払いは、法律上の一般的な義務ではありません。就業規則や退職金規程に退職金の定めがある場合に限り、会社は支払義務を負います(労働基準法第89条)。

規程がある場合、廃業による解雇は「会社都合退職」に分類されます。自己都合退職より支給率が高く設定されているケースが多いため、就業規則の内容を確認してから退職金の総額を試算することが必要です。

規程が存在しない場合でも、慣行として退職金を支払ってきた実績がある場合は、慣行的な退職金請求権が認められることがあります。過去の支給実績・計算方法・支給対象範囲の三要件が揃っていると、労働慣行として法的拘束力を持つ可能性があるため注意が必要です。

退職金規程の確認が先決

廃業を決断したら、まず退職金規程と就業規則を確認してください。規程がある場合は支給額の総額を試算し、廃業コストとして清算資金に織り込む必要があります。

中退共加入企業の場合は手続きが異なる

中小企業退職金共済(中退共)に加入している場合、退職金は共済機構が従業員に直接支払います。会社側の支払い義務は発生せず、手続きとして行うのは「退職金共済手帳」の返却と、共済機構への解約申請のみです。

一方、社内積立(引当金方式)で準備していた場合は、積立残高と実際の退職金総額との差額が生じることがあります。積立不足のケースでは、清算資金の配分を検討しながら対応することになります。

廃業時の退職金相場

規程がない場合の参考として、東京都産業労働局の調査(2022年)によると、中小企業の勤続10年・会社都合退職の退職金水準は次のとおりです。

学歴・職種退職金の目安
大卒・事務職(勤続10年)約130〜180万円
高卒・生産職(勤続10年)約100〜150万円
大卒・事務職(勤続20年)約300〜450万円
高卒・生産職(勤続20年)約250〜380万円

あくまで目安であり、業種・企業規模によって大きく差があります。従業員が納得できる水準での支払いが円満廃業につながります。

解雇予告と解雇予告手当の実務

30日前ルールの内容と注意点

廃業に伴い従業員を解雇する場合、少なくとも30日前に解雇の予告を行う必要があります(労働基準法第20条)。書面で通知することが望ましく、解雇日・理由・各種手続きの予定を明記します。

30日前に予告できない場合は、30日から予告日数を差し引いた日数分の平均賃金を「解雇予告手当」として支払わなければなりません。

計算例:

  • 平均賃金が1日2万円の従業員を10日前に予告した場合
  • 不足日数 = 30日 − 10日 = 20日
  • 解雇予告手当 = 2万円 × 20日 = 40万円

廃業のスケジュールが決まったら、逆算して従業員への通知タイミングを設定してください。廃業手続きには官報公告の債権申出期間(最低2か月)が含まれるため、早めに動くほど解雇予告手当を支払わずに済みます。

解雇予告手当と退職金は別物

解雇予告手当は予告なしで解雇した場合のペナルティ的な支払いで、退職金とは別に発生します。両方が必要になるケースもあるため、区別して管理してください。

廃業理由の整理と従業員への説明

廃業理由を従業員に説明する義務は法律上ありませんが、納得できる説明がなければ後日トラブルになる可能性があります。後継者不在・資金繰りの悪化・業況の見通しなど、真実に即した説明を行うことが経営者としての誠意です。

解雇通知と同時に、退職金の支払い時期・有給休暇の取り扱い・社会保険の脱退手続き・離職票の発行スケジュールについても案内しておくと、従業員の不安を最小限に抑えられます。

未払賃金立替払制度と資金不足への対処

退職金が払えない場合のセーフティネット

廃業ではなく破産や特別清算の局面になると、退職金・未払賃金が支払えない状況が生じることがあります。そのような場合に活用できるのが「未払賃金立替払制度」です(賃金の支払の確保等に関する法律第7条)。

独立行政法人労働者健康安全機構が、倒産した会社の未払賃金を従業員に代わって立替払いし、後日会社に求償する仕組みです。

制度を利用するには、一定の条件を満たす必要があります。

  • 企業が法律上の倒産(破産・特別清算・民事再生・会社更生)、または事実上の倒産(事業活動停止・再開見込みなし・賃金支払い能力なし)に至っていること
  • 従業員が退職していること(退職日が倒産申請日等の6か月前から2年以内)
  • 未払賃金の総額が2万円以上であること

立替払いの限度額と対象範囲

立替払いの対象は、退職前6か月間の未払賃金と退職金(一定の限度額あり)です。

区分立替払いの上限
退職前6か月の未払賃金退職時の年齢によって110〜370万円
退職金(直近3か月分相当)上限30万円

退職金については上限が30万円と低く設定されているため、多額の退職金規程がある場合は全額の補塡にはなりません。財源不足が見込まれる場合は、早い段階で従業員と協議し、支払い可能な水準について合意を得ておくことが重要です。

自主廃業では立替払いを使えないケースがある

未払賃金立替払制度は法律上の倒産が前提です。資産超過での自主廃業(通常清算)では利用できません。退職金の原資が不足している場合は、清算資金の配分を検討するか、廃業の形式(特別清算・破産)も含めて専門家に相談することをお勧めします。

退職金財源が不足する場合の選択肢

清算資産で退職金を全額支払えない場合、経営者が取り得る選択肢としては次のものがあります。

  • 規程の減額改定 — 従業員の同意を得て退職金規程を改定し、廃業時の支給率を調整する
  • 分割払いの合意 — 将来的な回収見込みがある資産を担保に、分割払いを提案する
  • 特別退職金の支払い — 規程がない場合でも、在籍年数に応じた特別一時金として一定額を支払う
  • 再就職支援での代替 — 金銭的な補塡が難しい場合、取引先・同業者への紹介や再就職支援会社の利用で支援する

どの選択をとるにせよ、従業員に隠すことなく状況を説明し、誠実に協議する姿勢が最終的には円満廃業へとつながります。

社会保険・雇用保険の脱退手続き

社会保険・労働保険の届出期限は5〜10日以内と短く、事前のスケジュール設計が欠かせません。届出先・必要書類・保険料精算の詳細は廃業時の社会保険脱退手続きガイドにまとめています。以下では要点を整理します。

雇用保険の手続き

廃業にあたり、会社は雇用保険の脱退手続きをハローワークで行います。主な提出書類は次のとおりです。

手続き書類名提出先タイミング
従業員の資格喪失雇用保険被保険者資格喪失届ハローワーク解雇日の翌日から10日以内
離職票の発行雇用保険被保険者離職証明書ハローワーク資格喪失届と同時
事業所の廃止雇用保険適用事業所廃止届ハローワーク廃業後速やかに

従業員は離職票を受け取ったうえで、ハローワークに失業給付を申請します。廃業による解雇は「特定受給資格者」に該当するため、待期期間(7日間)終了後すぐに給付が始まります(通常の自己都合退職では3か月の給付制限がある)。

社会保険(健康保険・厚生年金)の手続き

社会保険については、年金事務所への届出が必要です。

1

被保険者資格喪失届の提出

従業員ごとに「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を、資格喪失日(最終出勤日の翌日)から5日以内に年金事務所へ提出

2

健康保険証の回収

退職日までに全従業員から健康保険証を回収して返却。被扶養者の保険証も回収対象

3

適用事業所全喪届の提出

会社が社会保険の適用事業所でなくなった日から5日以内に、「健康保険・厚生年金保険適用事業所全喪届」を提出

4

従業員の次の保険への切り替え案内

退職後は①任意継続被保険者(最大2年)②国民健康保険③家族の被扶養者のいずれかに切り替わる。選択肢と手続き先を案内しておく

社会保険料は退職月の扱いに注意が必要です。月の途中退職の場合、退職月の保険料は発生しませんが、月末退職の場合は退職月分も発生します(健康保険法第156条、厚生年金保険法第81条)。給与計算の最終処理時に確認してください。

労働保険(労災保険・雇用保険)の年度更新と確定精算

廃業年度の労働保険料は確定精算が必要です。労働基準監督署に「労働保険確定保険料申告書」を提出し、精算後に廃業の届出を行います。廃業による清算期間中も、従業員が在籍している間は労働保険の加入義務が継続します。

廃業前の再就職支援と経営者の責任

従業員への再就職支援の方法

廃業が決まったら、退職金の支払いと並行して従業員の再就職支援を行うことが経営者の責任です。法的な義務ではありませんが、長年の信頼関係に報いる行動として多くの経営者が取り組んでいます。

具体的な支援として考えられるのは次のものです。

  • 取引先・同業者への積極的な紹介 — 廃業の事情を説明したうえで、人材として推薦する。廃業を機に得られる紹介先のネットワークは思いのほか広い
  • ハローワークへの相談と大量雇用変動届の検討 — 1か月以内に30人以上を解雇する場合は「雇用保険法第21条」に基づく大量雇用変動届が必要になる場合がある
  • 職務経歴書・推薦状の作成支援 — スキルや実績を整理したうえで文書で支援する
  • 退職後の連絡先確保 — 源泉徴収票の送付など、退職後も事務的なやり取りが続くため、従業員の連絡先を控えておく

源泉徴収票と給与支払報告書の提出

廃業年度の年末調整が完了していない場合は、従業員が自分で確定申告する必要があります。退職時に「源泉徴収票」を交付することは法的義務です(所得税法第226条)。

また、廃業年の1月1日から最後の給与支払いまでの分について、翌年1月31日までに「給与支払報告書」を従業員の住所地の市区町村に提出します。この手続きが漏れると、従業員が住民税の計算で不利益を受ける可能性があるため、廃業手続きのチェックリストに必ず組み込んでください。

廃業時の従業員対応チェックリスト

廃業に向けた従業員対応を漏れなく行うための確認事項を整理します。

時期対応事項根拠法令
廃業決定後すぐ退職金規程・就業規則の確認、退職金総額の試算労働基準法第89条
廃業日の30日以上前解雇予告(書面で通知)労働基準法第20条
解雇日まで有給休暇の消化促進または買取の協議労働基準法第39条
解雇日まで未払賃金・残業代の精算労働基準法第24条
解雇日退職金の支払い(規程がある場合)退職金規程・就業規則
解雇日まで健康保険証の回収健康保険法
解雇日の翌日から5日以内社会保険資格喪失届の提出健康保険法・厚生年金保険法
解雇日の翌日から10日以内雇用保険資格喪失届・離職証明書の提出雇用保険法
退職後すみやかに源泉徴収票の交付所得税法第226条
翌年1月31日まで給与支払報告書の市区町村への提出地方税法第317条の6

廃業時の従業員対応 3つの要点

  • 退職金の支払義務は就業規則・退職金規程の有無で決まる。中退共加入企業は機構が直接支払うため、資金繰りリスクは低い。
  • 解雇予告は廃業日の30日以上前に書面で行う。直前の通知では解雇予告手当が追加発生する(労働基準法第20条)。
  • 雇用保険・社会保険の脱退手続きは会社側が行う。離職票の発行・保険証の回収・年金事務所への届出を漏れなく処理することで、従業員が速やかに次の手続きへ移れる。

廃業は経営者にとって重い決断ですが、従業員への誠実な対応が「有終の美」を飾る最後の仕事です。退職金の財源確保・解雇予告のタイミング・各種手続きの段取りについて不安がある場合は、無料相談からお気軽にご相談ください。廃業前の財務整理や清算資金の試算についても対応しています。

また、廃業を決断する前に、廃業と事業再生の違いと選択基準廃業手続きの全体フローも合わせてご確認ください。

よくある質問

Q. 廃業する際、退職金の支払いは法律上義務ですか?
A. 就業規則や退職金規程に退職金の定めがある場合は、支払義務が生じます。規程がなければ法律上の義務はありませんが、会社都合の解雇となるため、慣行的に支払う企業も多くあります。中退共(中小企業退職金共済)に加入していた場合は、掛金に応じた退職金が共済機構から従業員に直接支払われます。
Q. 廃業時に解雇予告手当はいくら支払う必要がありますか?
A. 30日以上前に解雇予告を行えば解雇予告手当は不要です。予告が30日未満の場合は、30日から予告日数を差し引いた残日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払います(労働基準法第20条)。たとえば予告が10日前であれば、20日分の平均賃金を支払います。
Q. 退職金を支払う資金がない場合はどうなりますか?
A. 退職金が未払いのまま会社が破産した場合、一定の要件を満たせば「未払賃金立替払制度」を利用できます。退職金は直近3か月分の上限(30万円)が対象で、機構が立替払いを行い、後に会社に求償します。ただし退職金の全額ではなく上限があるため、規程通りの支払いが困難な場合は事前に従業員と協議することが重要です。
Q. 廃業する際、従業員の雇用保険の脱退手続きは誰が行いますか?
A. 会社側が行います。具体的には、ハローワークに「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を提出し、離職票を発行します。従業員はこの離職票をもとに失業給付を申請します。廃業による解雇は「特定受給資格者」に該当するため、失業給付の待機期間(7日間)が短縮されます。
Q. 廃業時の有給休暇は買い取れますか?
A. 通常、有給休暇の買取は禁止されていますが、廃業などで会社が消滅する場合は例外的に認められています。買取単価は就業規則の定めがなければ1日あたりの平均賃金が基準となります。残日数の多い従業員がいる場合は、廃業スケジュールに有給消化期間を組み込むことも検討してください。

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