破産せずに廃業する選択肢
特定調停スキーム(廃業支援型)とは|経営者保証を整理して円滑に廃業する方法
特定調停スキーム(廃業支援型)の仕組みと手続きの流れを解説。経営者保証ガイドラインとの併用で保証債務を整理し、破産を回避しながら廃業する方法、費用の2/3補助制度、税務上の取扱いを整理します。
事業の継続が困難になり廃業を決断したとき、最大の壁になるのが「借金と個人保証」です。法人の借入に経営者個人が連帯保証している場合、法人を清算しても保証債務は残ります。保証債務を整理する方法として真っ先に思い浮かぶのは破産ですが、破産には官報公告、信用情報への登録、管財人による財産の換価処分といった負担が伴います。
「破産せずに廃業できないか」——その答えの一つが、特定調停スキーム(廃業支援型)です。
日本弁護士連合会が2017年に策定したこのスキームは、裁判所の特定調停手続と経営者保証ガイドラインを組み合わせ、法人の債務と経営者の保証債務を一体として整理する仕組みです。破産と比較して費用が低廉で、経営者の再起を確保しやすいという利点があります。
特定調停スキーム(廃業支援型)の仕組み
2つの制度の組み合わせ
特定調停スキーム(廃業支援型)は、以下の2つの制度を組み合わせて運用されます。
1つ目は裁判所の特定調停手続です。民事調停法に基づく裁判所での手続きで、法人の債務について金融機関と調停を行い、債務免除を含む合意を目指します。
2つ目は経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理です。法人の債務整理と一体的に、経営者個人の保証債務を整理します。ガイドラインに基づく整理であれば、信用情報に「事故」として登録されないため、経営者の再チャレンジが可能になります。
破産との比較
| 比較項目 | 特定調停スキーム(廃業支援型) | 破産 |
|---|---|---|
| 手続きの性質 | 合意型(金融機関の同意が必要) | 裁判所の決定 |
| 官報公告 | なし | あり |
| 信用情報 | ガイドライン利用で限定的 | 登録あり(5〜10年) |
| 費用 | 弁護士費用+DD費用(補助あり) | 予納金50万〜数百万円 |
| 経営者の自宅 | 華美でなければ残存可能 | 原則換価処分 |
| 手続期間 | 3〜6ヶ月程度 | 6ヶ月〜1年以上 |
| 再起のしやすさ | 比較的容易 | 制約が多い |
破産は「最後の手段」であり、特定調停スキームは「破産の手前で使える円滑な廃業支援」と位置づけられます。
すべてのケースで使えるわけではない
特定調停スキームは金融機関の同意が前提です。債務の内容が複雑(商工ローン、ノンバンク等)な場合や、経営者に不正行為があった場合は、金融機関の同意が得られない可能性があります。利用の可否は弁護士に相談のうえ判断してください。
手続きの流れ
弁護士への相談・依頼
事業再生に詳しい弁護士に相談し、特定調停スキームの利用が適切かどうか判断を仰ぎます。弁護士が代理人として一連の手続きを進めます。
事業デューデリジェンス(DD)の実施
法人の資産・負債の実態を調査します。清算価値(すべての資産を処分した場合に回収できる金額)を算定し、弁済計画の基礎資料とします。
弁済計画の策定
法人の資産から金融機関にどれだけ弁済できるか、経営者の保証債務をどのように整理するかを計画にまとめます。
金融機関との事前調整
特定調停の申立前に、弁護士が金融機関と弁済計画について事前調整を行います。金融機関の同意の見込みを確認してから申立てに進みます。
特定調停の申立て
簡易裁判所に特定調停を申し立てます。同時に、経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理も並行して進めます。
調停成立・債務免除
裁判所での調停が成立すれば、弁済計画に基づいて債務が整理されます。残った債務は免除され、経営者の保証債務も整理されます。
手続き全体で3ヶ月から6ヶ月程度が目安です。金融機関との事前調整に時間がかかるケースでは、さらに延びることがあります。
費用と補助制度
主な費用
特定調停スキームの利用にかかる主な費用は、弁護士費用(代理人報酬)と事業デューデリジェンス費用です。案件の規模により異なりますが、弁護士費用は50万円〜200万円程度、DD費用は30万円〜100万円程度が目安です。
経営改善支援センターの費用補助
中小企業活性化協議会(旧・経営改善支援センター)に申請することで、計画策定費用・事業DD費用の2/3(上限200万円)の補助を受けられます。自己負担を大幅に軽減できるため、必ず利用を検討してください。
破産手続の予納金(法人の場合、東京地裁で最低50万円、負債額に応じて数百万円)と比較すると、補助制度を利用した特定調停スキームのほうが費用負担は軽くなるケースが多くなります。
税務上の取扱い
特定調停スキームに基づく債権放棄について、国税庁は文書回答で以下の取扱いを明確にしています。
債権放棄をした金融機関側では、放棄した債権の額は税務上の貸倒損失として損金算入が認められます。これは金融機関にとっても重要なポイントで、税務上の損金処理ができることが、債権放棄に応じるインセンティブになっています。
債務免除を受けた個人事業者側では、債務免除益は総収入金額に算入しない(課税されない)ことが確認されています。法人の場合は清算事業年度の所得計算の中で処理されます。
この税務上の取扱いが明確になっていることが、特定調停スキームが円滑に機能する前提条件の一つです。
経営者の再チャレンジを可能にする仕組み
特定調停スキームの最大の利点は、経営者の再起を確保しやすい点にあります。
華美でない自宅の残存
経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理では、「華美でない自宅」については残存資産として経営者の手元に残すことが認められています。破産手続では原則として自宅も換価処分の対象になりますが、ガイドラインに基づく整理であればこの取扱いが可能です。
「華美でない」の具体的な基準は明確に定められていませんが、一般的な住宅であれば認められる傾向にあります。
信用情報への影響
経営者保証ガイドラインに基づいて保証債務を整理した場合、信用情報機関への「事故情報」の登録は行われません。破産した場合は5年〜10年間事故情報が登録され、新たな借入やクレジットカードの作成が困難になりますが、ガイドラインに基づく整理であればこの制約がありません。
一定期間の生計費の確保
経営者保証ガイドラインでは、保証債務の整理にあたって、経営者が当面の生活を維持するために必要な一定期間の生計費を手元に残すことが認められています。標準的な目安として99万円(自由財産の範囲)から最大で年収の2倍程度まで確保できる場合があります。
利用を検討すべきケース
特定調停スキーム(廃業支援型)は、以下のような状況にある企業・経営者に適しています。
事業の継続が困難で廃業を検討しているが、経営者個人の連帯保証があるため踏み切れない場合。法人の債務が大きく、清算しても残債が残る見込みの場合。破産は避けたいが、保証債務を放置することもできない場合。廃業後に再び事業を起こす意思がある場合。
逆に、事業の立て直しの余地がある場合は、暫定リスケとプレ再生計画を先に検討してください。廃業か再生かの判断は廃業と事業再生の判断基準を参考にしてください。
まとめ
この記事のポイント
- 特定調停スキーム(廃業支援型)は、特定調停と経営者保証ガイドラインを組み合わせた円滑な廃業支援制度
- 破産と比較して費用が低廉で、官報公告なし、信用情報への影響が限定的、華美でない自宅の残存が可能
- 費用の2/3(上限200万円)の補助制度を利用できる。必ず中小企業活性化協議会に相談を
- 税務上、金融機関の債権放棄は貸倒損失として損金算入可能。個人事業者の債務免除益は非課税
- 経営者の再チャレンジを確保しながら廃業できる制度。破産を決断する前に必ず検討すべき選択肢
特定調停スキームの利用や廃業の判断について専門家への相談をご希望の場合は、無料相談からお問い合わせください。
よくある質問
- Q. 特定調停スキーム(廃業支援型)とは何ですか?
- A. 法人の主たる債務と経営者の保証債務を一体として、裁判所の特定調停手続と経営者保証ガイドラインを利用して整理するスキームです。日本弁護士連合会が2017年に策定した「手引3」に基づき運用されており、破産手続を経ずに円滑な廃業を実現できます。
- Q. 破産と特定調停スキームの違いは何ですか?
- A. 破産は裁判所が主導する法的整理で、官報公告・破産管財人の選任があり、経営者の信用情報に記録されます。特定調停スキームは金融機関との合意による私的整理に近い手続きで、官報公告がなく、経営者の信用情報への影響も限定的です。費用も破産の予納金と比較して低廉な場合が多くなります。
- Q. 特定調停スキームの費用はいくらかかりますか?
- A. 弁護士費用と事業デューデリジェンス費用が主な費用です。経営改善支援センターに申請することで、計画策定費用・事業DD費用の2/3(上限200万円)の補助を受けられます。破産手続の予納金(法人の場合50万円〜数百万円)と比較すると低廉なケースが多くなります。
- Q. 経営者の自宅は残せますか?
- A. 経営者保証ガイドラインでは、華美でない自宅については残存資産として経営者の手元に残すことが認められています。ただし、自宅が担保に入っている場合は別途交渉が必要です。具体的な条件は金融機関との協議によりますが、破産手続と比較すると経営者に有利な条件が得られやすくなります。
- Q. 特定調停スキームを使うにはどこに相談すればいいですか?
- A. 弁護士(特に事業再生に詳しい弁護士)への相談が出発点です。中小企業活性化協議会や、各都道府県の弁護士会が設置している中小企業法律支援センターも相談先になります。日本弁護士連合会のウェブサイトで特定調停スキームの手引を公開しています。