返済を止めて、立て直しの時間を作る
暫定リスケとプレ再生計画|銀行交渉の進め方と中小企業活性化協議会の活用
暫定リスケジュール(暫定リスケ)とプレ再生計画の違い、銀行への申し出の手順、中小企業活性化協議会のプレ再生支援の活用方法を解説。リスケ実行率95%超のデータも紹介し、銀行交渉に臨む中小企業経営者の不安を解消します。
銀行への返済が厳しくなり、このままでは資金が底をつく——そのとき最初に検討すべきが「リスケジュール(リスケ)」です。
リスケとは、銀行への返済条件を一時的に変更してもらうことです。元金返済を一定期間猶予してもらい、その間に経営を立て直す時間を確保します。「銀行に返済を待ってもらうなんて、信用を失うのでは」と心配する経営者は多いですが、金融庁の統計ではリスケの実行率は95%を超えています。銀行にとっても、取引先が倒産するより返済条件を変更して存続してもらうほうが合理的です。
ただし、リスケはあくまで「時間を買う」措置です。その間に経営改善計画を作り、実行に移さなければ意味がありません。本記事では、暫定リスケとプレ再生計画の位置づけ、銀行への申し出の手順、中小企業活性化協議会の活用方法を解説します。
暫定リスケとは——本格計画までの「つなぎ」
リスケには段階があります。いきなり精緻な再生計画を作って銀行に持ち込むのは現実的ではないため、まず「暫定リスケ」で時間を確保し、その間に本格的な計画を策定するという段階的なアプローチが実務では一般的です。
暫定リスケの定義
暫定リスケとは、本格的な経営改善計画(再生計画)を策定するまでの間、暫定的に返済条件を変更する措置です。3事業年度(再生計画成立年度を含まない)を限度として認められます。
この期間中に求められるのは、事業の収支実態の把握、滞納している税金や社会保険料の解消計画、本格的な再生計画の策定に向けた準備です。暫定リスケは「とりあえず返済を止める」ことが目的ではなく、「計画を作るための猶予期間」として位置づけられています。
暫定リスケ・プレ再生計画・本再生計画の違い
| 段階 | 内容 | 期間 | 支援主体 |
|---|---|---|---|
| 暫定リスケ | 返済条件の暫定変更、簡易な資金繰り計画の提出 | 原則6ヶ月〜1年 | 金融機関との直接交渉 |
| プレ再生計画 | 事業の実態分析、課題の特定、改善の方向性整理 | 1〜2年 | 中小企業活性化協議会 |
| 本再生計画 | 数値計画(P/L・B/S・CF)を含む本格的な経営改善計画 | 5〜10年 | 認定支援機関 or 協議会 |
暫定リスケは自社と銀行の二者間で進められますが、プレ再生計画以降は中小企業活性化協議会の支援を受けるのが一般的です。
銀行にリスケを申し出る手順
リスケの申し出は、順序を間違えると銀行の心証を悪くします。以下の手順で進めてください。
資金繰り表を作成する
直近6ヶ月の実績と向こう12ヶ月の見込みを月次で作成します。返済を続けた場合にいつ資金がショートするかを数値で示せる状態にします。
メインバンクに相談する
複数行から借入がある場合は、まずメインバンクに相談します。「返済が厳しくなってきたので、条件変更をお願いしたい」と正面から切り出します。
暫定リスケの条件を提示する
元金返済の猶予期間(6ヶ月〜1年)、利息の支払い継続、経営改善計画の策定スケジュールを提示します。
全取引金融機関に同条件を要請する
メインバンクの了承を得たら、他の取引金融機関にも同条件でリスケを要請します。金融機関間で条件が異なると不公平感が生じるため、原則として同一条件(プロラタ方式)にします。
中小企業活性化協議会に相談する
暫定リスケの合意が得られたら、本格的な再生計画の策定に向けて協議会への相談を検討します。
メインバンクへの切り出し方
「もう返せません」という言い方は最悪です。銀行が聞きたいのは「どうすれば返せるようになるか」です。
伝えるべき内容は3点。現状の資金繰り状況(数値で)、返済が困難になった原因(一時的か構造的か)、改善に向けた方向性(まだ具体的な計画でなくてもよい)です。
「売上が落ちているが、○○の施策で回復の余地がある。改善計画を策定するために6ヶ月の猶予をいただきたい」という伝え方であれば、銀行も前向きに検討しやすくなります。銀行交渉の進め方もあわせて参考にしてください。
絶対にやってはいけないこと
返済日に黙って入金しない(延滞する)のは最悪の選択です。延滞が発生すると「事故」として記録され、以後の交渉が極めて困難になります。返済が厳しいと感じた時点で、延滞する前に銀行に相談してください。
プレ再生支援——中小企業活性化協議会の活用
暫定リスケで時間を確保したら、次は本格的な再生計画の策定に着手します。ここで活用できるのが、中小企業活性化協議会の「プレ再生支援」です。
プレ再生支援の位置づけ
プレ再生支援は、本格的な再生計画の策定に先立って、事業の実態を分析し、改善の方向性を整理する支援です。「再生計画を作りたいが、自社の問題がどこにあるのか整理できていない」という段階の企業に適しています。
協議会が外部専門家(中小企業診断士、公認会計士、弁護士等)を派遣し、以下の作業を支援します。
事業の収益性分析(事業別・部門別の損益把握)、資金繰りの実態把握、過剰債務の状況整理、改善施策の洗い出しと優先順位付け。これらの支援は原則無料です。
405事業との使い分け
プレ再生支援と405事業(経営改善計画策定支援)は、経営改善を支援するという点で共通していますが、対象となる企業の状況と支援の深さが異なります。
| 比較項目 | プレ再生支援 | 405事業 |
|---|---|---|
| 対象企業の状況 | 債務超過・リスケ中・抜本改善が必要 | リスケ検討中〜リスケ中 |
| 支援主体 | 中小企業活性化協議会が直接関与 | 認定支援機関に委託 |
| 費用 | 協議会の支援は無料 | 認定支援機関への費用の2/3を補助 |
| 計画の深さ | 事業実態の分析と改善方向の整理 | 数値計画を含む本格的な改善計画 |
| 金融調整 | 協議会が金融機関との調整を主導 | 企業と認定支援機関が主導 |
経営危機の深刻度が高い場合(債務超過が大きい、複数行からの借入がある、金融機関との関係が悪化している等)は、協議会の直接関与があるプレ再生支援が適しています。
暫定リスケ期間中に やるべきこと
暫定リスケは「時間を買う」措置ですが、その時間をどう使うかで再生の成否が決まります。
月次の資金繰り管理を徹底する
リスケ期間中は、銀行に対して月次の資金繰り実績を報告することが一般的です。資金繰り表の作り方を参考に、実績と計画の差異を毎月把握してください。
銀行が見ているのは「計画どおりに推移しているか」です。計画を上回っていれば本格的な再生計画への信頼度が高まり、下回っていれば計画の見直しが求められます。
滞納公租公課の解消
税金や社会保険料の滞納がある場合は、暫定リスケ期間中に解消に着手してください。滞納が残ったまま本格的な再生計画を策定しても、金融機関の合意を得にくくなります。
税務署や年金事務所に分割納付の相談をすれば、多くの場合は応じてもらえます。滞納の延滞税(年14.6%、納期限から2ヶ月以内は年7.3%)は高率ですが、換価の猶予が認められれば年1%台に軽減されます。
不採算事業の見極め
プレ再生計画の策定にあたり、事業別の損益を把握することは不可欠です。赤字を垂れ流している事業を特定し、撤退か縮小かの判断材料を揃えます。
廃業か事業再生かの判断基準も参考に、事業ごとに「存続させるべきか」を冷静に見極めてください。
経営者保証の整理
リスケ交渉と並行して、経営者保証ガイドラインに基づく経営者保証の整理も検討対象です。経営者保証があるために、事業再生に踏み切れない経営者は少なくありません。協議会のプレ再生支援では、経営者保証の扱いについても助言を受けられます。
リスケ後の出口戦略
暫定リスケはゴールではなく、出口に向けた通過点です。出口には大きく3つのパターンがあります。
1つ目は、経営改善計画を策定・実行して通常返済に復帰するパターンです。計画どおりに業績が改善し、リスケ前の返済条件に戻れる状態が理想です。
2つ目は、金融支援(元金カット、DDS等)を含む再生計画に移行するパターンです。通常返済への復帰が困難な場合、金融機関に債権の一部放棄やDDS(デット・デット・スワップ)を要請する本格的な再生計画が必要になります。
3つ目は、事業再生が困難と判断し、廃業・清算に移行するパターンです。この場合も、特定調停スキームや経営者保証ガイドラインを活用して、経営者の再起を確保しながら円滑に廃業する方法があります。
リスケ後に融資が再開した事例
リスケ=融資の永久停止ではありません。中小企業活性化協議会の支援を受けて経営改善計画を策定し、3年間計画どおりの実績を上げた結果、メインバンクからの新規融資が再開された事例は複数報告されています。計画の実行と報告の継続が信用回復のカギです。
まとめ
この記事のポイント
- 暫定リスケは本格的な再生計画を策定するまでの「つなぎ」。原則3事業年度が限度
- リスケの実行率は95%超。延滞する前に銀行に相談すれば、ほとんどのケースで応じてもらえる
- プレ再生支援(中小企業活性化協議会)を活用すれば、事業実態の分析から改善方向の整理まで無料で支援を受けられる
- 暫定リスケ期間中は月次の資金繰り報告、滞納公租公課の解消、不採算事業の見極めを並行して進める
- 出口は「通常返済復帰」「金融支援を含む再生計画」「廃業」の3パターン。早い段階で見通しを立てることが重要
暫定リスケや経営改善計画の策定について専門家への相談をご希望の場合は、無料相談からお問い合わせください。
よくある質問
- Q. 暫定リスケとは何ですか?
- A. 暫定リスケとは、本格的な経営改善計画(再生計画)を策定するまでの間、暫定的に返済条件を変更する措置です。通常3事業年度を限度とし、その間に事業の実態を分析して本格的な再生計画を策定します。金融機関に対して一定の返済意思を示しつつ、計画策定の時間を確保するための制度です。
- Q. 銀行にリスケを申し出ると融資が受けられなくなりますか?
- A. リスケ期間中は原則として新規融資が困難になります。ただし、日本政策金融公庫のセーフティネット貸付や、中小企業活性化協議会を通じた支援融資など、リスケ中でも利用可能な資金調達手段はあります。リスケ後に経営改善計画を実行し、計画どおりの実績を上げれば、融資の再開は可能です。
- Q. プレ再生支援と405事業の違いは何ですか?
- A. プレ再生支援は中小企業活性化協議会が直接関与して経営改善計画の策定を支援する制度で、協議会の支援自体に費用はかかりません。405事業は認定支援機関に計画策定を委託し、その費用の2/3(上限300万円)を補助する制度です。経営危機の深刻度が高い場合はプレ再生支援、比較的軽度であれば405事業が適しています。
- Q. リスケは断られることがありますか?
- A. 金融庁の統計では、リスケの実行率は銀行で95.4%、協同組織金融機関で96.3%と非常に高い水準です(2020年3月〜2024年6月末累計)。正当な理由があり、改善の意思を示せば、ほとんどのケースでリスケは認められます。ただし、返済能力の回復見込みがまったくない場合や、過去に約束を破った経緯がある場合は難航することがあります。
- Q. 暫定リスケの期間はどのくらいですか?
- A. 暫定リスケの期間は原則3事業年度(再生計画成立年度を含まない)が限度です。この期間内に本格的な再生計画を策定し、金融機関の合意を得る必要があります。期間内に計画が策定できない場合は、暫定リスケの延長を協議するか、法的整理を検討することになります。